Eternal Snow

98/少女達の見解

 

 

 

水と雷の相性は、水にしてみれば悪い。

逆に、雷にしてみれば水との相性は良い。

一方が得をし、一方が損をする関係。

さて、この関係は一弥と純一そのままに当てはまる……場合もある。

 

 

初の他校授業を受けた一弥達は、さくらという同い年の少女が

立派に教鞭を振るう講師であった、という貴重な体験をするに至る。

授業云々の描写はともかく、一弥と純一の掛け合いが目立って終わった気もするが。

 

 

 

――――例えば。

 

 

 

 「当てられたなら答えなよ……」

 

 

 「嫌だめんどくさい、ついでに判らん」

 

 

 「(それは絶対嘘でしょう)……それが授業を受ける人の態度?」

 

 

 「(目立ってプラスになんざならねぇよ)

  ……俺のスタンスだ。んなもんお前だって知ってるだろ」

 

 

 「その所為で苦労をしてきてる僕にそれを言うと?」

 

 

 「そんなん知らねぇ」

 

 

 「…………一発殴っていい?」

 

 

 「全力で反撃するから覚悟しとけ」

 

 

 

 

とかそんな感じだったそうな。

この二人、仲が良いのか悪いのか……周囲の人々は首を捻るのだった。

 

 

 

 


 

 

 

――――帰宅後。

 

 

 

 「冗談はこれくらいにして……結局何の用?」

 

 

 「音夢達から離れた途端、マジモードか?」

 

 

 「地だったことは認めるけど。お気楽半分でいるのもちょっとね」

 

 

 

見学者として来たとはいえ、この島は立派な観光地。

真琴達は興味深々な様子で初めて訪れたこの島を気に入る。

となれば案内役は必要であり、その役目を純一の友人である少女達が引き受けた訳だ。

『女の子の中に男が混じるのもアレだろ?』と純一が提案し、

純一と一弥は朝倉家へ、栞や音夢達は島中を回ることとなった。

 

純一と一弥にしてみれば丁度良い機会。

見学というのはあくまでも建前だったのだから、ようやく本題に入れる。

朝倉家リビングのソファーで相対する二人。

 

 

 

 「切り出しにくいからあんまり肩張らないでくれ」

 

 

 「リラックス出来る話題なら自然とするよ。

  少なくとも帰還者に関する相談じゃないみたいだけど」

 

 

 「そしたら公式に書面なりで連絡するっての」

 

 

 「そりゃそうでしょ。もし公式な話題なら真琴達連れて来ないよ。

  さ、いい加減覚悟決めて貰える?」

 

 

 「…………言い辛いんだけどさ、実は―――――」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

少年達が真面目な雰囲気を放ちあっているその頃。

色々な意味で意気投合した少女達は和気藹々と語らっていた。

幸いにも初音島は桜を楽しむだけで充分観光に足るため、語らう場所に困らない。

眞子が率先し、引率された美汐達は、桜公園を訪れていた。

下手な観光スポットを巡るよりも遥かに得だと地元人だからこそ判る。

気楽な気持ちで話をするのには都合が良い。

で、彼女達の会話は自然と純一や一弥についてのものとなる。

 

 

 

 「それにしても意外でした」

 

 

 「え?」

 

 

 「ああ……いえ、杉並君も言ってましたけど、兄さんに男の子の友達が居た、

  というのが凄く意外で……。私もまだ半信半疑なくらいなんです」

 

 

 「あの……お言葉を返すようでなんですが……朝倉さんはそれほどご友人が?」

 

 

 

いないのですか? と言外に含め、美汐は訊ねた。

『朝倉』では音夢とかぶるのだが、音夢のことは名前で呼ぶことで折り合いがついている。

 

 

 

 「ああ違います違います! 兄さんに友達がいないってわけじゃなくて。

  あー……でも間違っていないといえば嘘なんですけど……とにかく! 

  お恥ずかしい話、兄さんの男性の友達ってあまり多くないんです。

  妹の私も、間違いなく兄さんの友人って断言出来るのは一人くらいで」

 

 

 「はぁ……。ということは、言葉は悪いかもしれませんが、人望がないのですか?」

 

 

 

物凄い直球だった。

 

 

 

 「み、美汐さん。それはいくらなんでもっ」

 

 

 「あぅ……美汐って時々容赦ないから」

 

 

 

ごめんなさい、と栞と真琴が代わりに謝る。

美汐もその様子を見て失言だったと即謝るのだが、頬は赤かった。

 

 

 

 「う〜んと、朝倉君に人望が無いってことはないんですけど……。

  もし本当にそうなら、私だって朝倉君の友人さんじゃいられませんし」

 

 

 「確かにそうですよねぇ……皆さん揃って朝倉先輩のご友人な訳ですし。

  いえ、美春なんて先輩からすればただの後輩かもしれませんがっ!」

 

 

 

何だかんだで音夢、ことり、眞子、美春と揃っている。

本来さくらもいるべきなのかもしれないが、生憎彼女は講師。

 

 

 

 「なんか、真琴達と一弥の関係に似てる気がする……」

 

 

 「ああ、なるほど。確かにそうかもしれませんね。どう思います美汐さん?」

 

 

 「多少違いはあるかもしれませんが、大まかな部分で同じなんでしょうね。

  ……何で女の子ばかりが苦労しなきゃいけないのかよく判りませんが」

 

 

 

美汐達の場合は、一弥に対しての共同戦線……というか共同篭絡協定があるから

ある程度周りの誰かが一弥に付き纏っても大して困りはしないし、

そもそも自分達以外は近付かせない。

いざとなれば全員で一弥を押し倒す覚悟もとっくに済ませているから問題は無い。

しかしそれと同じことを彼女達が出来るか、といえば考えるまでもなく無理。

なお、何故判るか、というのは単純だ……恋する乙女だから。

 

 

 

 「えっと、ごめん。三人だけで納得されても

  あたしらが困るんだけど。結局何が言いたいの?」

 

 

 「ええっと、つまりですね……真琴さん、任せますっ」

 

 

 「うん、判った。要するに眞子達は純一のこと好きなんでしょ?」

 

 

 

素直にバトンを受け取った真琴も人の事が言えない程に直球。

途端揃って頬を赤く染める四人。

残念ながらこの状態でシラを切るのは無理だろう。

音夢の場合は対外的に色々問題があるのだがこの際無視。

 

 

 

 「えあ!? ち、違うっ! 別にあたしは朝倉のことなんてっ!」

 

 

 

『まずは』眞子が露骨に反応してしまった。

顔が赤いだけならどうにでも理由をつけられたが、この場で口を開くのは愚行。

美汐は冷静にふむふむ、と観察していた。

言葉通りの意味で受け取られるわけがない。

云わば「ふぅ〜ん?」みたいな視線が集まる。

 

 

 

 「な、何よその目っ」

 

 

 「別に告白しろって言ってるわけじゃないんだから、素直に認めればいいのに」

 

 

 

誰もがそう思えれば恋愛なんて簡単だろう。

真琴は自分自身の立場が如何に恵まれているかに気付いていない。

 

 

 

 「真琴。そう上手く納得出来るものではないんですよ? 

  私達みたいな例は珍しいくらいですから」

 

 

 「あぅ?……名雪姉とかは?」

 

 

 「お姉ちゃん達のも例外ですねぇ。それに祐一さんの場合は一弥さんとは違いますし」

 

 

 

彼女の姉達は明らかに『好き好き光線』(?)を祐一に向けている。

当の本人もそれには気付いているようなのだが、どうにも煮え切らない。

一弥もそうなのだが、いっそ覚悟を決めて告白して欲しいなぁ、と思ったり。

別に自分達は、一人で独占しようという気持ちなんてないのだから。

と常日頃から思っているから、同じ恋する乙女としては心配にもなる。

 

 

 

 「私達のことはともかく。あなた方も苦労しているということは判りました。

  やはり同じ人を好きになってしまうと苦労しますね……」

 

 

 

何度も繰り返すが、本当に自分達は例外だと美汐は思う。

一弥は紛れもなく極上の男の子……と定義していいはずだ。

そんな彼を独占するのは難しいだろうし、一人では彼を支えきれる自信もない。

確証はないけど、何故かそんな気がする。

 

だが、心配はない。

自分には鉄壁の友情で結ばれた親友がいる。

揃いも揃って同じ人を好きになるというのは常識から考えても巧くない。

けれど、一緒に居たいという思いは共通だから。

 

男も欲しいが、友達も失いたくない。

おこがましいことだと、浅ましいことだと判っている。

確かに一弥を独占出来ればどれだけ幸せだろうか、と考えたこともある。

 

でも、『もしそうなったら、他の二人はどうなってしまうのか?』と思う自分が居る。

『もし選ばれたのが自分じゃなかったら……どうすればいい?』と苦しむ心がある。

 

揃いも揃って同じだから、揃いも揃って同じ思いをするだろう。

選ばれなくて一人だけで苦しむくらいなら、『皆で、一緒』がいい。

奪い合いで喧嘩して、得がたい親友を失うのは嫌だった。

一弥が留学で傍に居なかった数年間、彼が居ないことの辛さを知ったから。

 

その答えが共有というのは変なことかもしれない。

クラスメート達は何処まで自分達の覚悟を理解しているか判らない。

ただのミーハー感覚で「一弥一弥」と言う娘よりもこの答えが劣っているとは思わない。

この選択は間違ってない、そう信じている。

 

 

 

――――――数年ぶりに戻ってきた一弥の瞳は、何処か遠くを見ていた。

 

 

 

私も、栞さんも、真琴も、誰もその事は告げなかったけれど。

何があったの? なんて訊ける勇気も、覚悟も無くて。

私達以外、きっとその違和感には気付いていない。

でも、放っておいたら何処かへ飛んでいってしまいそうな気がして。

ずっと一緒に居て欲しい人が、突然居なくなるような恐怖を感じて。

掴まえていなきゃ、私達が居なきゃ……きっとあの人は消えてしまう。

 

 

 

――――――確証も無いのに、言葉にならない恐怖が襲ってきて。

 

 

 

それが自己満足だと、勘違いだと言うのなら好きに笑ってくれて構わない。

どうなったとしても、例え一弥に何があっても、ずっと一緒に居たいと誓った。

だから、私達以外の誰かになんて渡さない。

そう、私達以外との幸せは、認めない。

傍若無人であっても、それは大切なオモイだから……絶対誰にも汚させない。

 

 

 

 

 

これだけの覚悟を持って、一弥という少年のことが好きだからこそ、

彼女達のリアクションが微笑ましく、また同時に憎らしかった。

人を好きになるということは、恋を成就させようとすることは、間違いなく真剣勝負。

自分を偽っても何も得られないし、本気でなければ後悔する。

だったら恥ずかしがって何になる? 手に入れたいなら我武者羅でいい。

恥も外聞もなく、オモイを伝えようと努力する……それの何処が悪い?

 

 

 

 「その点、ことりさんは大丈夫ですね」

 

 

 

と、栞が言った。

同じことを考えていたのだろう、と美汐が気付き、つくづく似た者同士と嬉しくなる。

見れば真琴もうんうんと頷いているから、やはり鉄壁の友情は健在だった。

 

 

 

 「え? 何が、かな?」

 

 

 「私達も似たような経験がありますから、見ればよく判るんです」

 

 

 「?」

 

 

 「好きな人に好きな気持ちを素直に向けているのか、いないのかが」

 

 

 

それが出来ているかいないかで評価は大きく変わる。

少なくとも栞達にしてみれば好感触である。

絶対にそうしろ、とは言えないが、行動している勇気は評価してもいいはずだ。

 

 

 

 「〜〜〜あ〜〜〜〜う……」

 

 

 

またまた直球を喰らって恥ずかしくて仕方がないということり。

栞本人達に自覚はないが、色々な意味で絶妙なコンビネーション。

 

 

 

 「眞子さんは今後に期待。

  美春さんは若干【お兄さんとしての憧れ】が見受けられる気がしますが

  充分太刀打ちしていくだけの資格はありそうですね」

 

 

 

と美汐。

 

正直、思う。

あんたらなにもんだ、と。

何せ彼女達は見ただけだ―――放つ雰囲気で判る? 

能力を超えた【超】能力者だとでも言うのか。

特に美春に対しての分析は、本人の位置付けまで把握しているかのような発言。

ぶっちゃけると、かなり偉そうである。

喰らった音夢達は真っ赤になっているのでその事実に気付いていないが。

 

 

 

 「後は音夢さんなんですが……流石に兄妹では少々、どころかかなり問題が」

 

 

 

見て判ってしまう通り、音夢もどうやら純一に恋しているらしい。

好意的に解釈すれば兄妹愛ということになるのだろうが。

とはいえ兄妹ではいくら何でも……と(比較的)常識人の美汐は言う。

 

 

 

 「でも、兄と妹の禁断の関係っていうのもロマンチックでいいんじゃないですか?」

 

 

 

三度の食事よりドラマ好きと噂される栞が反応。

(べたべたの恋愛モノだと尚良し。普段から自分達と一弥に置き換え妄想)

ロマンチックで済む問題ではない。

法的にどう考えても拙い。

 

 

 

 「大丈夫よっ! マンガでも『愛があれば大丈夫』ってよく言ってるものっ」

 

 

 

ビシッと指を立て、己のマンガ知識から得た、間違った感覚で栞に同意する真琴。

どんな根拠があって大丈夫と断言出来るか謎……二人の反応に美汐は頭を抱えた。

自分がしっかりしなければ一弥を支えられないのでは? と無意識に思ったらしい。

で、当事者の音夢は墓穴を掘った。

何故墓穴を掘ったのかは判らないけど……雰囲気に負けたのだろう。

 

 

 

 「何勝手なこと言ってるんですかっ! 

  心配されなくても私と兄さんは血が繋がってませんっ!!!」

 

 

 

見事なまでに、どうしようもない方向に。

繰り返すが、何故言ってしまったのだろうか疑問だ。

 

 

 

 「「「「「「――――えええええっっっっ!?!?!?!?」」」」」」

 

 

 

公園の一角に響く驚愕の大合唱。

しつこく強調して恐縮だが、純一と音夢は、対外的には双子の兄妹である。

事実を知っているのは本人を除くとさくら位のものだ。

 

桜の花びらが舞った。

驚愕の声で我に返ってしまった音夢は、真っ青な顔をしながら両手で口を抑える。

行動が既に『本当のことだ』と語っていた。

 

 

 

 「音夢っ! どういうことなのよっ!?

 

 

 「あ、いえ、その、あの、そうではなくてですねっ! 落ち着いて下さいっ!」

 

 

 「これが落ち着いていられるわけないでしょっ!?

 

 

 「音夢先輩っ! 美春はそんな事情ちっとも知りませんでしたよっ! 

  美春達は幼馴染ですよ! どういうことですかっ!?

 

 

 「ちょっと待って……てことは音夢は朝倉君と血が繋がってないのに

  同居……同棲してるってことっすか!?

 

 

 

『愕然』――それ以外に表現しようのない表情で

音夢を問い詰める純一ラバー……もとい眞子、美春、ことり。

 

 

 

 「ち、違いますっ! 人聞きの悪いこと言わないで下さいっ!」

 

 

 「違うんならちゃんと説明しなさいよっ!

 

 

 

と、眞子がキレた。

混乱だったり怒りだったりが浸透している少女達は、いつ暴れてもおかしくなかった。

 

『あー……うー……どうすればいいのよぉっ!?』という表情になる音夢。

その戸惑いは真琴達にも通じているのだが、こうなってしまうとフォロー出来ない。

原因を作ったのは自分達だが、そもそも墓穴を掘ったのは本人なのでどうしろと。

 

 

 

 「判った、判りましたっ! 言います、ちゃんと言うから落ち着きなさいっ!

 

 

 

完全に裏モードに切り替わる。

そうでもしないとやってられないからだと思う。

彼女の言葉に一時的に事態が沈静化する。

一字一句聞き逃してなるものか、という気迫が伝わってくるようだった。

 

 

 

 「……私と兄さんは、元々は幼馴染なんです。私の本当の両親が事故で亡くなって。

  私には生憎親戚が居ませんでしたから、今の両親が私を引き取ってくれました。

  偶然兄さんと私は同じ誕生日だったので、双子って扱いにしてる訳です。

  言わせたのは皆なんですからそういう顔しないで下さいっ。

  別に私はそのことを気にしてないんですから。

  私達が幼馴染だって知ってるのは、両親以外だとさくらくらいですね。

  美春と知り合ったのは、さくらがアメリカに留学した後だから知らないのも当然。

  最後に……養子縁組とはいえ家族ですから、同棲というのも間違いです!」

 

 

 

今の今まで絶対にバレないようにしていた事実を明かす音夢。

しかし、バレないようにしたかったのなら、純一への恋心も隠すべきだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 「どうしたの純一? 顔青いよ?」

 

 

 「いや、何か急に嫌な感じが……」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 「……音夢」

 

 

 「な、なんですか?」

 

 

 

ゆらり、とまるで幽鬼の如く声を発するのは……ことり。

『荘厳なりし歌姫』とまで呼ばれている学園のアイドルたる

彼女がこうも迫力を外に見せ付けることはない。

少なくとも音夢にとっては初めてだった。

 

 

 

 「私、負けませんから」

 

 

 「え?」

 

 

 「私、朝倉君のこと好きですから……絶対に音夢には負けません」

 

 

 「ちょ、ちょっとっ!」

 

 

 「音夢と朝倉君の血が繋がってないというなら、貴方が今一番の恋敵ですから。

  音夢とは親友だと思ってますけど、朝倉君のことに限っては譲りませんっ!」

 

 

 

大見得を切り、気迫で相手を圧倒しようと思っているのかもしれない。

音夢が一番その影響が強いようだが、眞子や美春も少なからず気落とされている。

彼女達の様子を見て、栞達は満足そうな表情を浮かべる。

性格が悪いというなかれ、『恋愛とは戦いである』というのが持論なので

(実際、三人で協力して今までに何人一弥狙いの女の子を排除してきたか)

これくらいするのが当たり前だと思っている。

仮にこれが原因で友情にまでひびが入ると拙いが、

対立こそすれ決定的な溝は生まれないだろうと彼女達は見ていた。

 

 

 

 「ちょっと二人とも、待ちなさいよっ!」

 

 

 「眞子?」

 

 

 「いきなりの展開で動揺しちゃったけど、勝手に二人だけで話進めないでくれない? 

  あたしだって、参戦しちゃいけないって訳じゃないでしょ。勿論美春も」

 

 

 「あわわっ、眞子先輩〜! なんで美春に振るんですかぁぁ〜っ!? 

  も、勿論……美春だって朝倉先輩のことを少なからず慕ってますけど、でもぉ〜」

 

 

 「……美春?」

 

 

 

――――そ・う・な・の?(脅し)といった視線が痛い。

 

 

 

 「はわっ!? あうあう……音夢せんぱ〜い、そんな顔しないで下さいよぉっ」

 

 

 

見かねた美汐が『ようやく』口を挟む。

 

 

 

 「音夢さん。大人げないですから、その辺で止めた方がいいです。

  ライバルが増えるのは結構じゃないですか。

  それだけ朝倉さんが素敵な人だって証拠になりますから。

  音夢さんとしても鼻高々でしょう? 同じ家に住んでいるという

  絶対的なアドバンテージがあるんですから、此処は認めてあげるのが良策ですよ?」

 

 

 

引き金をつくった元凶が言うセリフではなかったかもしれないが、ともかく止んだ。

但し、帰宅道中の雰囲気は重かったとだけ言っておくとしよう。

ライバル関係が明確になった、という出来事を記す。

少年は、己の預かり知らぬ所で、大きな事態に巻き込まれていくのだった。

それを幸せと取るか、不幸と取るかは……定かではない。

 

 

 


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