Eternal Snow

91/予想外の発表

 

 

 

ここは七星学園の一年A組。

神器『白虎』、倉田一弥が在籍するクラスである。

 

さて、本題に入る前にここで改めて彼、倉田一弥について説明しておく。

何度も紹介されたように、DDEの最高位である神器『白虎』を冠する少年。

元素『雷』の能力を所持し、空色の刃を持つ大鎌を振るいし者。

所有能力に関しては攻撃面で他の神器の追随を許さず、

そのスピードは風の守護を受ける祐一に勝るとも劣らない。

反面、回復補助等の分野を苦手とする。

無論、DDの極少数の関係者しか彼の実力は知らない。

 

公には、倉田財閥の跡継ぎ、及び七星学園四天王倉田佐祐理の弟として有名である。

前者は冬実市で最も有名な資産家の息子として。

後者は将来有望な若者として。事実どちらの意味でも期待されている。

特に後者に関しては、彼自身の才覚が評判を呼んでいる。

 

ランクA1という学園最高位を持ち、将来DDEAクラス間違いなしと言われるほどの

姉の血を引き、ご多聞に漏れず、期待された一弥の才能も目まぐるしいものがある。

一年生として七星学園に入学後、即Cランクを突破、僅か半年足らずでB2ランクを所持。

本人はこれ以上高くするつもりはないが、周りがそれを知らないのは当然で、

彼が三年生になる頃には確実に七星学園四天王の座が約束されているとまで言われている。

 

尤も、神器なのだからこの現実は八百長に近いものがあるのは事実だ。

本人もそれを自覚しているため、決して驕るわけではないが、

自分自身が他者を高みから見下ろすことがないように自制している。

元々一弥には『兄』という存在がいるため、そんな心配も無用なのだが。

その謙虚さが良い意味で外に見え隠れするため、

校内での一弥の人気は凄さまじいものがある。

 

ところが最近、彼の評価というか、認識が変わっている。

それは倉田佐祐理の幼馴染、相沢祐一の転入がきっかけだった。

 

倉田佐祐理、川澄舞、美坂香里、水瀬名雪、月宮あゆ、水瀬真琴、美坂栞、天野美汐、

倉田一弥が、幼馴染の関係にあることを知らない人間は七星学園にはいない。

 

つい最近、突然二学年にやってきた少年、相沢祐一。

水瀬名雪・真琴姉妹のいとこにして、彼女たち9人の幼馴染だという。

彼女達が以前から、「もう一人幼馴染がいる」と言っていたのは有名な話だったが、

その件の人物が突然現れたこと、同時に倉田佐祐理を筆頭とする年長者五人の想い人らしい

ということが判明して以来、転校生相沢の風当たりは強くなる一方であった。

 

増長させる一因に、祐一のランクがC2であったことなども挙げられる。

まぁそれだけなら一弥の評価に変化が訪れるわけもない、単に幼馴染であるというだけならば。

 

 

 

なら、何が単純ではなかったのか?―― 一弥の祐一に対する信頼の深さ――である。

 

 

 

彼の祐一に対するソレは、幼馴染というだけでは済まされない何かがあった。

好きな男性の前で自分をさらけ出す女性(逆もしかり)という状態に近いかもしれないが、

とにかく一弥は祐一を『兄』と呼び、実の姉以上に信頼しているそぶりが見られたのだ。

完全無欠の優等生と称されていた一弥は、祐一と共にいると“ブラコン”でしかない。

 

その事実に生徒達は困惑し、驚愕した。

中には取っ付きやすくなったと言う者もいるし、嫌なヤツと言う者もいる。

一部女子からは違った意味での黄色い視線を投げかけられてもいるようだ。

まぁ祐一も一弥も顔はそこそこに悪くは無いので、

そういった現象が起きるのも無理からぬことではあるのだが…………。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 「え゛っ!?」

 

 

 「何だ倉田、まるでカエルが潰れたかのような珍妙な声を出して」

 

 

 「あ、こ……これって……」

 

 

 

朝のHR、担任教師に一枚の紙切れを渡された一弥は凍結した。

その内容があまりに驚愕に値したために、動きが止まってしまったのである。

クラスの面々は、滅多にない……むしろ初めて見る一弥の様子に目が見開いている。

とりあえず表面上だけでも顔色がそれほど変化していないのは

彼の幼馴染である真琴、栞、美汐の三人だけであった。

彼が手に持っている紙切れの中身は、合同武術会の参加チーム証明書。

それだけならこのような表情をする必要性はない、生徒全員が参加するのだから。

 

 

 

 「先生、僕は本当にこれで参加するんですか?」

 

 

 

未だに信じられない、と言いたげに一弥はチーム証を差し出す。

 

 

 

 「倉田、言いたいことは判らんでもない。が、諦めろ。

  お前なら来年はいいとこまで行くさ、とりあえず最善を尽くせ」

 

 

 「いえ、そんなことが聞きたいんじゃないんです。

  このことを秋子さ……じゃなかった、水瀬理事が承認なさったんですか?」

 

 

 

一弥の言葉に教師が逆にいぶかしんだ。

 

 

 

 「何かあるのか? 不正がある訳ではないし、むしろ罰則だろう。

  第一、わざわざ理事が内容を確認する訳が無いじゃないか」

 

 

 

何を当たり前のことを、と言う担任教師。

否定的な言葉を言うわけにもいかず、殊勝に頭を垂れる一弥。

 

 

 

 「はぁ……そうですか。どうも、わざわざすみませんでした」

 

 

 「これに懲りたら、来年はちゃんと申請するんだぞ」

 

 

 

教師はそう言い残し、HRを終え教室を去っていった。

盛大に溜息をついた一弥を残して。

トボトボと席に戻る一弥は誰が見ても気落ちしているのに間違いなかった。

 

 

 

 「か、一弥、一体どうしたの?」

 

 

 「あー、真琴。うん、これが……ちょっとね」

 

 

 

そう言って彼女に差し出したのはチーム証。

 

 

 

 「あぅ?」

 

 

 

参加証にはチームメンバーの名前が書かれている。

加えて所属学園名及び学年、所有ランク。

彼がこれほど気落ちしているのは所属することとなったチームのメンバーにある。

メンバー表に書かれていた名前は五人。

 

 

 

 

『相沢 祐一・七星学園二年・C2』 『折原 浩平・七星学園二年・C3』 

『倉田 一弥・七星学園一年・B2』 『朝倉 純一・風見学園一年・C2』 

『桜井 舞人・桜坂学園二年・C3』

 

 

 

 

以上。

 

 

 

 

 

真琴が言葉を失っているスキをついたのかどうかはともかく、

横からその中身を確認する栞と美汐の二人も当然絶句している。

但しここで重要なのは、一弥の絶句と真琴達との絶句の意味合いが全く違うこと。

 

まず、一番判りやすい真琴達の心境だが。

単純に、校内ワースト1の実力を誇る浩平が入っている時点で全て終わったと判断した。

朝倉某と桜井某という人物のことは知らないが、

学年とランクを見る限りどう考えても一弥には及ばないだろう。

一学年No.1の実力者である一弥が気の毒だなぁという答えで見解が一致した。

あえて祐一に関してはスルー。

 

 

 

で、問題は一弥である。

彼の場合は真琴達よりも悩みは深刻だ。

このメンバー表を、一弥の視点で見ると……。

 

 

 

『相沢 祐一・冬実地区担当・神器【青龍】』

 

『折原 浩平・冬実地区担当守護・神器【朱雀】』

 

『倉田 一弥・冬実地区担当・神器【白虎】』

 

『朝倉 純一・初音島地区担当守護・神器【玄武】』

 

『桜井 舞人・桜坂地区担当守護・神器【大蛇】』

 

 

 

…………とか何とかその他諸々。

 

 

 

 (………………ちょっと待って下さいよ)

 

 

 

一弥は行き場のない感情を溜め込むだけ。

真実を知っている者ならば、誰がどう考えても、このチーム編成はおかしい。

 

 

 

 (現役最強のDDE――五神器が全員揃っているじゃないですかっ!?)

 

 

 

今の日本でこれ以上贅沢なチーム編成は無い! 

この五人、この若さで神器の称号を得ているのは伊達じゃない。

本来の通りに動いたとすれば、学生レベルなんて相手にもならない。

勿論実力を発揮することはありえない、しかし精神的に疲れを感じるのは間違いない。

その苦労を被るのは絶対に自分と兄だ、正直頭が痛過ぎる。

 

 

 

 『はぁ〜〜〜〜…………』

 

 

 

一弥、真琴、栞、美汐の四人が盛大についた溜息の重みはある意味で一致したが、

内容の重さにおいて明らかな相違をみせている事実に

クラスメートは誰一人として気付いていないのだった。

単にチームメンバーに文句があるのだろう、と結論付いた。

まぁ、100%間違っていない点でその結論もおかしくはないが。

 

 

 

 

――――追記。

 

 

ちなみに、同じようにこのメンバー表を見ていた某人物達のコメント。

 

 

 

 「マジか? 俺と一弥に全責任負わせるつもりか? 

  せめてギャラとか何か無いのかよ……ってあるわけねぇけど。

  秋子さんとか賢悟さんとか、一体何考えてんだ?」

 

 

 「ふぅん? 楽しくなりそうなメンバーじゃんか。

  つーかこれ以外のベストなんて存在しないか。少し位、羽目外しても問題ないだろうし」

 

 

 「ちっ。やっぱ不参加は駄目か、かったりぃ……けどま、楽しめそうだからいいか」

 

 

 「ほう? これはまさしくこのスーパーヒーローマイティーに

  相応しきメンバーではないか。重畳重畳」

 

 

 

…………とりあえず、暴走役とフォロー役が丸判りなことにはツッコまないでおく。

 

 

 

 

――――更に追記。

 

 

このメンバーを決定した黒幕及び真相を全て知っている某人物達のコメント。

 

 

 

 「これは……いいのかな? このメンバーで」

 

 

 「ふふふ……いいんですよ。この方があの子達も何かあったときにやりやすいでしょうし」

 

 

 「確かに。それに、この方が楽しそうじゃねぇか。こりゃ早く夏子を呼び戻さねぇとな」

 

 

 

G.Aの発言らしいが、実に身勝手だった。

 

 

 

 「神器勢揃いって……本当にいいんでしょうか? このメンバー……」

 

 

 

某地区で教鞭を執る大蛇の教え子は、純粋に心配していた。

彼女は一般DDEの中で唯一神器の正体を知っている不幸人である。

 

 

というわけで、この結果を明らかに楽しんでいる者と心配している者に

分かれていることにはツッコまないでおく。

 

 

とにかく、苦労するのはたった二人の少年であろう。

じゃじゃ馬の手綱を絞りきるのは実に困難だ。

前例から考えても、何をするか予測不可能なのだから。

 

尚且つ、トラブルの元はそれだけではない。

DDEのG.A――例外なく一癖ある人々――まで観戦に来るであろうことが予想されるからだ。

 

リーダーとサブリーダーの負担は、大会とは別の場所で加重されるのは間違いあるまい。

無論、主に精神面であることは疑いようもない。

つーか確定事項である。

いつの世も、一番苦労するのは最後まで常識を保っていた人であり、

一番ワリを食うのは真面目な人間である。

 

どこかで誰かが言っていたこの言葉が、何気に未来を暗示していた。

 

 

 

――――この大会と、その参加者に幸あれ。

 

 

 

 


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