Eternal Snow

89/光線銃の戦い

 

 

 

溜息を交えて気の毒そうに勝平を見つめる朋也。

 

 

 

 「どうかしたかな?」

 

 

 「いや、なんでもないからな」

 

 

 「そう? ならいいや。さて、朋也クン。早速だけど」

 

 

 「ああ、解ってる。オッサンをぶち倒しに行かねぇと」

 

 

 

あくまでも今回の目的は打倒秋生。

温泉とかいう賞品は付録にすぎない。

二人が歩き出そうとしたその時、得も云われぬ気配を感じ取る。

 

 

 

――――――おいでなすったか!

 

 

 

 「勝平!」

 

 

 「うん!」

 

 

 

一斉に左右に飛びのく。

直後、二人が居た場所を銃のレーザーが貫いた。

 

 

 

「おーし、見つけたぞ小僧ども。覚悟は出来てるか?」

 

 

 

二人が声のした方向に目を向ける。

そこには案の定

 

 

 

 「よお、オッサン」

 

 

 「ちょっと早い気がするけど、ボス登場っていうことかな?」

 

 

 

このゾリオン大会の主催者。

全ての元凶、古河秋生がそこに――――いた。

 

 

 

 「さっきは柊の小僧を逃がしちまったがもう逃げられねーぞ。

  さあ、諦めて早苗のパンを喰う覚悟を決めろ」

 

 

 

その(わりとマジな)死刑宣告と共に光線銃を構える秋生。

二人も同時に銃を構える。

 

 

 

 「俺はまだ死ぬつもりはねぇよ、悪いけどな」

 

 

 「ボクも右に同じ」

 

 

 

交錯した三人の緊張感が高まっていく。

互いが相対し、周囲の空気が引き締まる。

ぎりり、と握り込められた拳が白く色を変える。

 

 

 

 「行くぜオッサン、俺達があんたをぶっ倒す!」

 

 

 「この街の皆を、護るためにね!」

 

 

 「ハッ! やってみやがれ小僧ども! 俺の平和のための人身御供にしてやる!」

 

 

 

何気に秋生、切羽詰っているのは言うまでも無く。

それは当然だ、何せ処理出来なかったら全部戻ってくるのだ。

自分の死を望む馬鹿が何処にいる。

愛しいマイドーターの晴れ姿を拝まず、死ぬつもりはない。

 

 

 

――――――今回のゾリオン大会、最高にして最悪の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

ドシュ、ドシュ!

 

 

 

朋也と勝平の銃が火を噴く。

同時に撃たれた光線は連射さながらに秋生へと牙を向く。

銃の機構上、連射できないためにこの攻撃は効果的である。

だが、秋生は慌てず騒がず……力を解き放つ!

 

 

 

 「甘めぇぜ! 俺様の本気を味わいやがれ!! 【屈折率変化】ぁっ!」

 

 

 「何っ!?」

 

 

 

秋生の叫び声が響くと同時に彼の姿が薄く霞む。

当たるはずだった二本の閃光は、霞んだ秋生に直撃する。

しかし、飲み込まれることなく弾かれた。

当然センサー音は無く、無意味に弾かれた光線は消え逝くのみ。

 

 

 

 「ちょっと待てそれは反則だろうが!」

 

 

 「てめぇら相手に手加減してられっかよっ」

 

 

 

秋生とてG.Aに名を連ねる一人、能力所持者でもある。

彼の能力は、【元素操作】――周辺に漂う元素を己の意のままに操る。

元素と名が付く時点で判ることだとは思うのだが

ある程度の使用弊害はあるものの、かなり強力であることは言うまでも無い。

 

秋生が今行ったのは、周辺の大気に含まれる僅かな水蒸気を一箇所に集中することで

水の膜を生み、同時に周辺の大気を操ることで自分の姿を霞ませる、というものである。

水を擬似的に反射鏡の代わりとし、大気で補強する。

ただの光を弾くにはこれで充分過ぎる程だ。

 

 

 

 「イージスの盾ってトコ!? なんにせよ厄介だよっ」

 

 

 「オッサンがんな高尚なこと知ってるわけないからなっ」

 

 

 

おそらく長時間は持たないだろうが、アレを張っている限り

ゾリオン銃如きで秋生のセンサーを鳴らすことは出来ない。

 

 

 

 「喰らいやがれ!」

 

 

 

――――――ドドドシュッ!

 

 

 

秋生の銃から三本の光が飛来する。

 

 

 

 「はぁっ!?」

 

 

 

思わず悪態を吐くが、それも無理は無い。

銃の機構上連射にはどう頑張っても最低一秒間のタイムラグがあるのだから。

秋生の様に三連続で撃つなどと、ルール外も良い所だ。

 

 

 

 「連射? ありえないよ、それっ」

 

 

 「てかそれ反則だろっ!」

 

 

 「バーロー! 俺様が何時何分何秒、銃の改造禁止だなんてほざいたっ! 

  こいつは俺様の特製ゾリオン銃よ。さっき柊の小僧逃がした後、

  わざわざ家に取りに戻ったんだぜっ! 古河秋生様印のフルチューン

  連射なんてお茶の子サイサイに決まってんだろうがぁっ」

 

 

 

朋也の抗議なんてなんのその。

むしろ自慢気に不敵な笑いを浮かべる秋生。

 

 

 

 「たかがゲームにそこまでするか……才能の浪費だろ」

 

 

 「んな情けないモノぶら下げてる小僧にゃわからねぇだろうよ、男の浪漫ってヤツは」

 

 

 

朋也のある箇所を見て、笑う秋生。

視線の意味に気付き、朋也が吼える。

 

 

 

 「俺のは情けなくねぇよ!」

 

 

 

下らないことを話しているわけだが、実は内心焦っている。

今更言うまでも無く判っていることとはいえ、相手があまりにも強すぎるのだ。

防御はほぼ完璧、唯一互角であるはずの武装は秋生の改造によって格差が生まれている。

本来の実力は拮抗している関係にあるが、何せ現在の自分では相手が悪い。

現状として打開策はなく、繰り出される攻撃を避けるしか手段がない。

一瞬、隣で同じように攻撃を掻い潜る勝平と視線を交わす。

その顔を見る限り、どうやら朋也と同じらしい。

 

 

 

 (冗談はともかく……水と空気の元素操作までしやがるとは、マジで厄介だぞ)

 

 

 

朋也の脇を掠めていく光線、何とかかわしているというのが本音だ。

元々能力持ちというのは厄介である、しかも秋生の場合は元素能力の亜種。

制御が難しいとはいえ、使いこなせばこれほど頼りになる力もそうそうあるまい。

 

 

 

 (俺も……いや! 俺はもうそんな資格なんて、ない)

 

 

 

一瞬能力を発動させ対抗しようと思った朋也。

しかしすぐに首を振り、諦める。そもそも自分の能力とて制御は容易ではない。

何より、DDを抜け出してからその力は封印したも同然。

 

 

 

 (『制御』? まてよ……? オッサンの力は元素操作だよなぁ。

  今オッサンがやってるのは水と空気による屈折ってことだから……。

  普通に考えて、そう長く持つわけないし………………そうか!)

 

 

 

自分が思い至った単語から一つの策が脳裏に浮かぶ。

朋也は逃げ一辺倒であったその足を止めた。

 

 

 

 「朋也クン!?」

 

 

 「観念したか、小僧ぉっ!」

 

 

 

勝平は悲痛を、秋生は歓喜を。

朋也が足を止めたのは負けを認めた、と思ったから。

 

秋生は無慈悲に、己の脅威になり得る朋也に銃口を向けた。

 

 

 

――――――だがそれらは、単なる勘違いでしかない。

 

 

 

旗色が悪くなったわけでもなく、諦めたわけでもない。

朋也は必勝を信じていた、ただ勝利を呼び込むためだけに、叫ぶ。

 

 

 

 「早苗さんっ! オッサンがアホだからって泣かないで下さいっ!

 

 

 

紡いだのは、唯一の勝機を生む言葉。

秋生の唯一の弱点は、愛妻早苗。

朋也の予想通り、秋生は愛に殉じた。

普段から早苗が泣いて走り去るのを追いかける秋生だ、確実に反応するはず。

秋生が阿呆だというのは、朋也の本音を入れただけである。

 

 

 

 「さっ、早苗!? 俺様はアホじゃねぇ! 

  早苗を愛するあまり早苗萌えなだけだ〜〜〜〜〜!!!!!!

 

 

 

ドシュ! ピーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 「って居ねぇ!? ってしまったあぁぁぁっっっっっ!!!!

 

 

 

無意味に劇画調になって、秋生は光線を浴びる。

彼を守っていたはずの水の膜は、何故か発生しなかった。

 

 

 

 「……何て言うか……思った通りっつーか……流石は、オッサンだな」

 

 

 

見事に狙った反応を返した秋生にある意味敬服しつつ、銃を納める。

敗北を意味する甲高い電子音が、勝敗を示していた。

 

 

 

 「ブービートラップとは。いやはや、朋也クンよく考えたね。

  ……ていうか、引っかかる秋生さんも秋生さんだと思うけどねぇ……」

 

 

 

答えは実に単純、能力の使用において最も重要なのはイメージする集中力。

しかも秋生の元素操作は極端に制御が難しい。

水と大気という二つのことを操っていたので

少しでも余計な方向に意識を向ければ容易に力を分散させられる。

分散させてしまえばこっちのもの、盾は消えていく。

朋也はそれを狙い、彼が最も心を乱すであろう早苗の名前を出したのだ。

案の定反応して折角の盾を自分から制御不能に追い込んだ。

 

 

 

 「オッサン相手じゃ、いくら俺達でもこうでもしなきゃ勝てる保障ないしな」

 

 

 「ま、そうだね。同意見だよ」

 

 

 「だ、騙しやがったなーっ、ちっくしょーーーー!!!!!!

 

 

 

秋生の叫びが木霊する……自らの死を悟ってかどうかは不明であるが、

あながち外れているわけでもないだろう。

 

 

 

 「小僧てめぇっ! 騙し討ちなんて卑怯な手使いやがって! 

  大人気ないとは思わねぇのかぁっ!?

 

 

 「やかましいっ! 大体能力使ったオッサンの方が卑怯だろうが!

 

 

 「…………この場合どっちもどっちじゃないのかなぁ…………? 

  どうでもいいけど、もう少し音量下げてよ……耳痛い」

 

 

 

と、勝平は小さく抗議するのだが、本人達には通じていない。

しばらく秋生は朋也と言い合いをしていたが、やがて諦めたのか舌打ち。

 

 

 

 「こうなったら俺が今までに倒した奴ら全員に

  無理やりあのパン十個ずつ喰わせてやらぁ!

 

 

 「いや待てオッサン、いくら何でもそれはヤバいって」

 

 

 

最後の捨てゼリフをその場に残して、走り去っていった。

秋生のことだから二人と戦うまでに大量の生贄を用意しているのだろう、

二人はその不幸な人々の冥福を祈った。

祈ったところでその人達のためにはならないかもしれないが。

 

 

 

 「…………とりあえず、終わったな」

 

 

 「うん。被害は最小限に抑えられたはずだと思う……多分」

 

 

 

秋生が去ってからしばらくして、二人はようやく一息ついた。

 

 

 

 「で、目的は済んだわけだが……後は」

 

 

 「? 何かあったっけ?」

 

 

 「何言ってんだよ。ここでお互い負けようぜ」

 

 

 「えっ?」

 

 

 

勝平は朋也の言葉に意外そうな声を出した。

彼は全くその気が無かったのだろう。

 

 

 

 「意外でもないだろ、俺達はオッサンを倒すためにゾリオンに参加したんだぞ。

  オッサンはちゃんと倒した。やるべきことは全部終いだろう? 

  第一、俺らはどう考えても優勝候補だ。

  これ以上参加なんてしてみろ、ほとんど反則……八百長みたいなもんじゃないか」

 

 

 

彼の言うことは、非常に正論。

朋也はともかく勝平は現役のDDE、しかもG.Aの一人。

何度も繰り返すが、一般人しか参加していないこのゾリオン大会にプロがいるのはおかしい。

朋也は始めから秋生を倒したらこうするつもりだった。

元々賞品には全く興味がない、誘う相手がいるわけでもなし。

誘ってくれそうだったことみには……いずれ何かプレゼントでもしよう。

だが明確に望みのある勝平は納得しない。

 

 

 

 「嫌だ。ボクは優勝する」

 

 

 「は? 何言ってるんだよ」

 

 

 「賞品で椋さんと温泉に行くんだ」

 

 

 

……人間、開き直りもここまで来ると逆に清々しい。

 

 

 

 「……あのな、勝平。藤林を誘いたいなら給料で行けよ。

  ちゃんと金はあるんだしよ、お前ら二人温泉旅行ぐらいなら簡単だろが」

 

 

 

いや、まったく。

 

 

 

 「そんなこと無理に決まってるじゃないか。ボクのお金で旅行なんて言ったら

  椋さん遠慮して絶対一緒になんて行ってくれないよ。しかもペアだし。

  でも、この大会で優勝しちゃえば関係ないからね。ボクは公然と椋さんを誘える。

  ボクと椋さんの恋の成就のためにも、絶対に譲るわけにはいかないよ」

 

 

 

人間、開き直ると逆にタチが悪くなる。

 

 

 

 「てことは」

 

 

 「ボクは続けさせてもらう」

 

 

 

たった一言に込められた意思の強さは、断固たるものだった。

 

 

 

 「解ってるのか、お前」

 

 

 「勿論だよ。朋也クンと争うのはヤだけど、ボクだって愛に殉じる資格はあるさ」

 

 

 

平然と言ってのける勝平を、朋也は異常者を見るかのような目つきで見やる。

朋也は今、目の前の青年と秋生に差を感じなかった。

つまり、完全無欠の馬鹿。

 

 

 

――――――チャキ

 

 

 

勝平が銃を握り締める。

朋也とて己の誓いを――言うなれば美学を――切り捨てるわけにはいかない。

何よりこの秋生化しつつある莫迦を止める必要性が出てきた。

 

 

 

――――――チャキ

 

 

 

朋也も銃を握る。正直アホらしいと呆れていたが。

交渉は決裂、互いの言葉はもはや紙切れ。

朋也の目には勝平が、勝平の目には朋也が。

それ以外のモノは何も認識されていなかった。

それが音であっても、害意ある第三者だとしても。

 

西部劇のガンマンよろしく、二人は全く同時に銃を構え、光線を放つ――!

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

 

 

次の瞬間、アラームが鳴り響いた。

僅か一瞬の出来事。あまりにもあっけない結末。

決着はついたのだ……二人の銃から光が放たれる前に。

 

 

 

アラームは鳴った。音の発生源は朋也のソレ。

 

 

 

 「へっへーん! どう朋也? あたしの勝ちよ〜♪」

 

 

 

そう言ったのは朋也のよく知る女生徒――藤林杏。

今の今まで全く姿形を見せなかった彼女が、そこにいた。

朋也と勝平は目をパチクリとさせ、その場に呆然と佇んだ。

 

 

 

 「……き、杏?」

 

 

 

朋也は僅かなタイムラグの後に振り向き、勝ち誇る彼女を視認する。

 

 

 

 「イェーイ! あー、スカッとしたわ〜♪ 智代も倒してきたしね。

  ったく、あの子も梃子摺らせてくれたわよ……勝ったからいいけど。

  さぁて、アンタに何させようかし……ん? その女誰よ?」

 

 

 

杏は朋也があっけに取られているのに満足したが、勝平の姿を見てとり、頬を膨らませた。

勝平はれっきとした男であるが、大抵初対面の人間は彼を女と勘違いする。

この場合もそうだった。杏とてまさか妹のボーイフレンドだとは思うまい。

 

 

 

 「女……ってボクのこと?」

 

 

 「たりめぇだろ」

 

 

 

ミもフタもない朋也の言葉にグサッとくる勝平であった。

その光景が杏には面白くない。

傍目には仲良さそうな男女に視えてしまうからだろう。

 

 

 

 「しかも、自分のことを『ボク』? ああ、そういうこと。

  そいつが俗に言う『ボクっ娘』ってヤツなのね、よぉーくわかったわ、この変態!」

 

 

 

明らかな勘違い、いや妄想もいいところなのだが。

しかもボクっ娘で変態とは、随分な偏見である。

恐らく言葉が通じる状態にはないのだろう。

 

 

 

 「あのな……とりあえず、納得できるかどうかわからない。

  いや、納得できないかもしれんが、実際こいつはどう見ても女にしか見えない。

  むしろ完璧に女かもしれん。だけどな、こいつは男だ」

 

 

 「朋也クン……。キミ、何気にボクのこと嫌いでしょ?」

 

 

 

朋也の言い様――多分に真実を含む――によりさらにダメージを受け涙する勝平。

しかし、その言葉も杏には届かない。まぁ、当たり前かもしれないが。

 

 

 

 「はぁ? そいつが男? 馬鹿言ってんじゃないわよ! 

  そんなベタな美少女ゲームみたいなことあるわけないでしょ!」

 

 

 「いや、原作は紛れもなく美少女ゲームな。つーかその発言は存在意義に関わるぞ」

 

 

 「朋也クン、楽屋ネタは地の文だけにしておこうよ」

 

 

 

勝平、お前まで楽屋ネタに乗るのは止めてくれないだろうか。

 

 

 

 「とにかく、マジでコイツは男なんだ。名前は柊勝平、こんな顔の癖に『勝平』ってんだ」

 

 

 「やっぱりボクのこと嫌いなんだね」

 

 

 

本人が気にしていることを毒づく朋也。遠慮しないのは如何なものかと。

仮にも親友であり、相棒たる彼に対して。

 

 

 

 「ついでに藤林の現ボーイフレンドだ」

 

 

 「はぁ!?」

 

 

 「と、朋也クン! 他人様に何ばらしてるのさっ」

 

 

 「あ? 何言ってんだよお前。杏は藤林の双子の姉貴だぞ」

 

 

 「へ?」

 

 

 

間抜け面をさらけ出す勝平。

朋也の言葉が意外だったのだろう。

パチクリパチクリと杏を見る。

 

 

 

 「気付かなかったのか? 見て判るだろ。杏が髪短くしたらまんま藤林になるじゃん。

  ってまぁ、コイツも勿論藤林なんだけどな」

 

 

 「あ、ホントだ……」

 

 

 

勝平は記憶のメモリーに鮮烈に灼き付いた椋の顔をそのまま杏にトレースさせる。

髪型の違いこそあるものの、確かに造形は同一である。

 

 

 

 「杏、コイツは俺の古い馴染みで、名前は今言った通り柊勝平。年は俺の一つ上だ」

 

 

 「……あんたか」

 

 

 「?」

 

 

 「あんたが椋を誑かした阿呆!? あんたの所為であたしが毎日毎日

  どんだけアテられてるか知っててあたしの前に立ってるんでしょうねっ!?」

 

 

 

勝平を紹介された杏は激怒した。

朋也と勝平もその反応に目が点となる。

 

 

 

 「お、おい杏。いきなりどうしたんだよ?」

 

 

 「どうしたもこうしたもないわよ! 

  椋ってばここんとこ毎日『オトコが出来た』って五月蝿いのよっ! 

  一週間で恋に落ちました? 一体何処の恋愛小説の主人公とヒロインだってのよっ!? 

  聞きたくもないのにノロケ話ばっかり聞かされて……。

  こっちはマトモに告白も……って何言わすのよこのバカーーーー!!!

 

 

 「ぐはっ!」

 

 

 

顔を真っ赤にした杏の渾身の一投(辞書投擲)が朋也の顔面をえぐる。

哀れなり朋也、彼は悪くもないというのに(少なくともこの場においては)

理不尽な攻撃によってその場に昏倒するのであった。

 

 

 

 (お、俺が……一体………………何ヲ、シタ――――――――?)

 

 

 

視界がブラックアウトし、最後に見た杏の姿は夜叉のようだった。

 

 

そして数時間後、朋也が再び目を覚ました時には、

杏と勝平が優勝という結果を残してゾリオン大会は全てが終結していた。

何があったか、朋也は判らないままに。

 

 

 

 


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