Eternal Snow

81/ゾリオン参加、嵐の予感?

 

 

 

朋也が町内をまたにかけたゾリオン大会に参加することになった翌日。

遅刻することもなく彼は普通に学校に通う。

最近遅刻しなくなったおかげで、教室に入っていってもクラスメートから

奇異の視線を投げ掛けられることは少なくなった。

基本的に自己主張するのが面倒なので、触れられないならそれに越したことは無い。

 

 

 

 「……にしても、相手がオッサンとは。負けるわけにはいかないな。

  そもそも賞品なんて手に入れたところで相手がいるわけでもねぇし? 

  町の平和は、俺にかかっている、か……」

 

 

 「ん? どったの岡崎? 便秘かいっ」

 

 

 

笑顔でのたまう男……語るまでもなく春原陽平。

彼も遅刻していないのだから凄いの一言である。

 

 

 

どげしっ!

 

 

 

失礼なことをほざいた春原を無言で蹴り飛ばす。

狭い教室の中で弧を描いて空を舞う。

 

 

 

 「いきなり何するんっすかっ!」

 

 

 

クワっと妖怪さながらに瞳を開き、間髪いれずにツッコミをしてくる。

空を舞っていたはずなのに物理法則を突破するとは……。

流石は芸のために生きるボケ専門の芸人である。

彼のツッコミはイマイチだし。

体を張る芸に限ってやれば彼ほど芸人に向く男もいないのではないだろうか。

ところによっては存在そのものがギャグという噂もあるそうだ。

 

 

 

 「朝っぱらから煩い」

 

 

 「それだけかよっ――――ぐぎゃっ」

 

 

 

どげしっ!

 

 

 

もう一度蹴り飛ばす朋也。

再び空を舞う春原。

クラスの生徒は観客と化すか「いつものこと」と流している。

あまりに綺麗に浮き上がるので、思わず朋也も面白くなってしまう。

 

 

 

 「そんな春原……修正してやるよっ!」

 

 

 

にやり、と笑った。

某新人類のセリフに似た言葉と共に、朋也の足が風を帯びる。

引退(?)したとはいえDDEだっただけはある、尤も誰も知らないことだが。

 

 

 

どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!

 

 

 

地面に落ちることも出来ず、朋也の蹴りを受けまくる春原。

普通の人間が喰らったら少々やばいだろう。

多少手加減はしているようなのだが、何せ実行犯は朋也なのだから。

 

 

 

――――【NEW RECORD!!】という幻影を見た者がいたとか、いなかったとか。

 

 

 

ズシャッ!

 

 

 

嫌な音を最後に地面へと降り立つ……もとい落とされる春原。

 

 

 

 「ふぅ〜……面白かった」

 

 

 

清々しい笑顔。

性格が悪い、と思われても致し方ない。

 

 

 

 「あんた酷ぇよっ!」

 

 

 「……相変わらず回復早いのな、お前」

 

 

 「あんたは反省って言葉知らないんですかねぇっ」

 

 

 「春原じゃあるまいし、知ってる」

 

 

 「それ、友達に言うことじゃないよ岡崎」

 

 

 

笑顔の横にたらりと汗を垂らす春原。

その言葉にきょとんとしつつ、笑顔で返事。

 

 

 

 「あ、わりぃ。俺、お前のこと友達とすら見なしてねぇや」

 

 

 「見なしましょうねっ」

 

 

 「嫌」

 

 

 

いい笑顔だった、内容はともかく。

 

 

 

 「僕が死んだらどうすんっすか!」

 

 

 「別に。それにお前死なないし」

 

 

 「僕は妖怪ですかねぇっ!」

 

 

 「え? 違うの?」

 

 

 

結構素で疑問に思っている朋也。

彼の頭脳では、『春原陽平=妖怪スノハラ』の公式が何の疑念無く成立している。

別に『魔獣スノピー』でも、『人外ヨウヘイ』でも構わないが。

ちなみに泣き声は「ヘタレェェェェェェェッッッッ!!」(朋也談)

 

特殊能力は『不死身』……彼の能力が【肉体強化】であることから勝手に決めた。

そう、こんな春原だがこれでも能力所有者だったりする。

だからどうしたと言えばそれまでなのはあえて触れないで欲しい。

 

 

 

 「お願いですからせめて人にしてください」

 

 

 

遂に泣き出した。

少し心が痛む……わけがない。

 

 

 

 「仕方ない、検討しといてやるよ(……検討するだけだけどな)」

 

 

 

本音を隠して受け答える。

だがこの場に杏か智代が居れば気付いただろう……その言葉が嘘であると。

仮に居たとしても、指摘してやることはないのだが。

言うまでもなくその方が面白いから。

 

 

 

 「そっか。やっぱり岡崎は僕の親友だもんねっ」

 

 

 「………………幸せだな、お前」

 

 

 

本心からすれば、親友という単語に異論を挟みたいのだが

口を開くのが急に面倒になり、簡単に済ませる。

 

 

 

 「ん? 当然だろ、なんたって温泉が待ってるんだぜっ」

 

 

 

唐突な春原の発言だったが、妙に気になる単語だった。

確か昨日似た言葉を……。

 

 

 

 『さらに! 今回は賞品がつく! なんと温泉旅行の無料ペアチケット! 

  それも上位二名にだ! どうだ凄げぇだろうっ』

 

 

 

確かに聴いていた。

都合良く違っていることもないだろう。

こういう場合パターンというものは変わることがないのだ。

そういえば以前のゾリオン大会に朋也が参加するハメになったのも

目の前の男が原因だった。

 

 

 

どげしっ!

 

 

 

 「何するんですかねぇっ!」

 

 

 「うるせぇよこの馬鹿。てめぇ、何勝手にゾリオンに参加してやがる!」

 

 

 「いてて……あ、何? 岡崎も参加すんの?」

 

 

 「………………」

 

 

 

無言は肯定と見なされた。

蹴り飛ばされた脇腹を軽く押さえ、いつもの顔で言う春原。

やはり打たれ強い男だった。

 

 

 

 「杏も参加するみたいだし……ついでに智代も出るとか言ってたな〜。

  はっ! ふ、ふふふふっ……僕が勝てば温泉ペアの権利は独り占め。

  負けた奴はなんでも言うことを聞かなきゃならないわけだし。

  あんなことやこんなことも!? うわぁ興奮してきちゃったよっ、僕って天才!? 

  待ってろよ杏、智代っ! 今度こそリゾンベだっ!」

 

 

 

一人高々に笑う馬鹿。

そもそもリゾンベではなくリベンジだ。

以前も彼が同じ間違いをした覚えが朋也にはあった。

天才どころか、知識の無さを露呈させただけだった。

 

 

 

 「お前、やっぱ凄いな」

 

 

 

色々な意味で。

 

 

 

 「珍しいね、岡崎が僕のこと褒めるなんて。やっぱ僕の野望って最高? 

  ま、僕の方が先に『大人』になっちゃうけどさ……僕達はいつまでも親友だよっ」

 

 

 

親指を立て、朋也に向かって笑顔の春原。

朋也は色々とツッコミたいのを我慢して、告げる。

 

 

 

 「春原……ハブ・ア・グッド・エッチ(よい変態を)!」

 

 

 

その言葉を最後に、朋也は彼の顔を見るのを止めることにした。

あまりに気の毒になったからだ……主に彼の思考が。

 

 

 

 「あれ? 岡崎サボるの?」

 

 

 「ああ。じゃな」

 

 

 

ふらっと教室を出て行く朋也。

これ以上春原のとぼけ振りを見ているのがだるい、というのが本音半分である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

最近の目的地はもっぱら資料室。

あそこは冷蔵庫もあるし、人も来なくて静かなので

未だに彼にとってはお気に入りの場所であった。

 

 

 

 「失礼〜」

 

 

 

さすがにまだ早い時間だけあって資料室は静かなものだった。

主である有紀寧もまだ居ない。

彼女は朋也と違って不良というわけではないので当然といえば当然だろう。

 

 

 

 「宮沢はやっぱ居ないな……寝るとするか」

 

 

 

朋也がそう言って並べられた椅子に横になった時、

 

 

 

 「おい」

 

 

 

と声がした。

 

 

 

 「ん? ああ……あんたか」

 

 

 「よお」

 

 

 

部屋の机の下からのそっと顔を出した……不良っぽい青年。

あまりに投げやりだがそれ以外に表現が思い浮かばないので勘弁してほしい。

髪は茶髪、両耳にピアス、手の甲に蜘蛛らしいタトゥー……外見をとやかく言っては

失礼なのだが、あえて不良と表記するのを許していただく。

 

この青年、資料室に出没する近隣の工業高校の生徒。

常連となっているので、朋也も一応顔見知りだ。

 

 

 

 「どうしたんだ?……って宮沢に会いに来たに決まってるか」

 

 

 「まぁな。ってもそれだけじゃねぇが」

 

 

 「? 他に何かあるのか、わざわざ学校に来るのに」

 

 

 

朋也の素朴な疑問に、青年(名前は未定)は鼻の頭を軽く掻いた。

どことなく……照れているらしい。

春原が同じことをしていたら問答無用で殴り飛ばしただろうが。

いくら朋也とはいえ、流石に他の人間には

そんな感情すら浮かばないらしい。

実に自分の心に対して正しい男であった。

 

 

 

 「有紀寧の奴に……温泉旅行をプレゼントしてやりたくてな。

  いつも俺らが世話になってるからよ、誰かダチでも誘うように言付けにな」

 

 

 「ぶっ!……あ、あんたもかよ……」

 

 

 

春原に続きコイツもか、という気分でいっぱい。

 

 

 

 「? お前も出るのか? ゾリオンに」

 

 

 「ああ……出ざるを得なくなっちまった、てのが正しいけどな」

 

 

 

開催など知らずにいたらどれだけ幸せだったろう? 

虹色邪夢小麦焼(レインボージャムブレッド、とお読み頂きたい)のことさえ

知らなければ、きっと今頃馬鹿笑いしていられただろうに……後悔後先立たずとは

よく言ったもんだ、と自分を嘲笑う。

 

 

 

 「なんかよくわからないが……明後日にはライバルってことか」

 

 

 「だろうな……お互い、それまで無事に生きてればだけど」

 

 

 「楽しみにしてるぜ」

 

 

 

不敵に、そして人受けする男臭い笑みを浮かべる青年(名前は不明)に苦笑を返す。

 

 

 

 (ほんと……無事だったら……な)

 

 

 

参加者にとってあまりにリスクが大き過ぎ、

あまりに分の悪い勝負になるであろうことに懸念を抱く朋也であった。

正直、死にたくないなぁ……と思った。

 

 

ゾリオン大会まで、あと2日――。

 

 

 

 


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