Eternal Snow

78/放課後の相談

 

 

 

真面目に勉学に励む生徒にとって、歓迎すべきかそうでないか判らない時間。

一般的に前者の方が多いだろう。放課後とは得てしてそういうものである。

 

 

 

 「ふぁ〜あ、ふむん。っあ〜、良く寝た」

 

 

 

首をコキコキと動かしながら、朋也はのそっと起き上がる。

室内には朋也だけ、遠くから生徒たちの喧騒が聞こえてくる。

ことみと別れた彼は、その足で資料室へと向かい、有紀寧と雑談を交わした後

残りの授業をこの場で寝て過ごしたのだった。

特にやることもなく、ただ校内をぶらつく朋也。

傍から見ればかなり怪しいが、鞄もないので仕方が無い。

鞄を回収して教室を出る、去り際に残っていたクラスメートに軽く挨拶をしてから。

 

放課後に大した予定はない、遊ぼうと誘う友人もいるわけではないし、

いてもその内のほとんどが予備校やら進学塾やらで忙しいわけで。

朋也には初めから進学する予定もないから、ただ目的もなくぶらつくしかやることがない。

そこにDDEであったから、という話は介在しない、いや、してはならない。

いくら過去にDDEであったとしても、それはあくまでも“過去”の話。

今の自分があることが過去に起因するのは当然だが、“今”を“過去”に縛られるのは

勘弁してほしい……【あれ】を乗り切っていない自分を嫌でも痛感させるから。

逃避している自分があまりにも惨めで、情けなくて、享受する現実を殺したくなるから。

 

 

 

 「ち……っ」

 

 

 

余計なことを考え出した自分の思考にかぶりを振って、足早にその場から立ち去る。

留まったままでは更に思考の渦に飲み込まれる予感がした。

黙々と歩いた所為で、来たくないところを通ってしまうことになった。

【職員室】、そこは朋也にとって一番嫌いな所。

不良にとってそこほど嫌なところはないだろう、彼の場合もまぁ似たようなものだ。

 

 

 

 「ったく……こんなところに来ちまうとは……戻るのも癪だしな」

 

 

 

ポケットに両手を突っ込んで、どこか機嫌が悪そうに歩き出す。

窓の外をぼんやり眺めながら、その場を後にするはずだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――俯く、彼女と会わなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……智代?」

 

 

 「朋也……か」

 

 

 

職員室から一人の生徒が出てきた。

どこか翳りのある声で、朋也の顔を見る長身の女の子、坂上智代。

朋也の一つ下の後輩で、今年この光坂高校に転入してきた。

外見は灰色のロングヘアーで、ヘアバンドを付けているのが特徴といえば特徴か。

女の子ながら身長は高く、堂々とした雰囲気が同性からも好かれそうな感じがする。

全体的に見れば可愛いというよりも綺麗という形容詞が相応しいだろう。

朋也とは友人関係にあり、何故かお互いに名前で呼び合っている仲でもある。

まぁ事実として、彼女自身、それなりに朋也に好印象を抱いているそぶりはあるらしい。

 

正直珍しいものを見た、と彼は思った。

朋也にとって、智代という少女はいつも真剣で曲がったことを望まず、

常に前向きでいるという印象が強かった。

勿論、智代とて女の子。それなりに悩みだってあったろうし、

今までにもそれなりに相談に乗った覚えもある。

だけど今日は少し毛並みが違う、言葉は間違っているかもしれないが真剣に浮かない顔で

そこに立っていた。

『朋也』と呟く声も弱々しい。

 

 

 

 「どうしたんだよ、明らかに元気なさそうに見えるぞ」

 

 

 「うん……少しな」

 

 

 「……ったく。お前の口から弱音を聞くのなんていつ以来だ? 

  まだ会って一年も経ってないってのに、智代のそういうの見る奴は

  この学校で俺が一番じゃないか?」

 

 

 

覇気のない彼女の様子を気遣うかのように軽口を叩く。

すると智代は嬉しそうに、それでいて困ったように薄く笑った。

 

 

 

 「それだけお前を信頼している証だと思ってくれればいい。

  光栄だろう、これだけの美人に頼られるのは男として嬉しいはずだ」

 

 

 「言うねぇお前。仮にも俺はお前の先輩のはずだが……まぁいいや、

  相談くらいなら乗ってやる。帰るぞ」

 

 

 「うん」

 

 

 

少しだけ気が晴れた雰囲気を見せた彼女に内心ほっとする朋也。

彼とて友人が気を落としているなら相談にくらい乗ってやりたい。

そんな本心からの言葉だった。

 

 

下駄箱で靴を履き替え、校門を抜けたところで智代に訊ねる。

 

 

 

 「で、どうするんだ? こういう時普通ならどこか喫茶店にでも入るんだろうが

  制服着たままってのは絶対嫌なんだろ? 歩きながらでもいいなら構わんが」

 

 

 「当たり前のことを聞くな。校則は守らなきゃダメだ。

  だから……そうだな、公園にでも行こう」

 

 

 「はいよ」

 

 

 

何故か湧き上がった苦笑を噛み殺して朋也は彼女の背中を追った。

先ほど彼女が見せたあの翳りを心配しながら。

 

公園に着いた二人は、子供たちの喧騒を聞きながら、誰もいないブランコへと歩く。

二つ並んだそれは、話を聞くのに絶好の場所な気がした。

鞄を置いて、きこきことブランコを揺らす智代。

朋也は彼女と相対するように、柵に体を預ける。

 

彼女が口を開くのをただ待つ。

彼女は必要なことなら必ず話してくれる。

だから不用意に声を掛けてはいけない。

きーこ、きーこ、と大きく動く智代のブランコ。

 

 

 

 「……おい、あんまり派手に動くとパンツ見えるぞ」

 

 

 

じろりと智代を見る朋也。

向こうの勝手で見る結果となり、無駄に文句を言われても困る。

釘を刺しておくに越したことは無い。

こちらにやましい気持ちは欠片も無いと強調しておく。

 

 

 

 「別にいい。どうせ見るのは朋也だけだ」

 

 

 「おいおい」

 

 

 

さして気にしていないのか、顔色も変えないで更に漕ぎ出す。

 

 

 

きーこ、きーこ、きーこ。

 

 

 

より長く、大きな動きで揺れるブランコ。

そんなわけで見えてしまった彼女のパンツ。

 

 

 

 (青色、か……)

 

 

 

煽情的な感覚も何もなく、ただ事実を受け入れた朋也。

なんとなくがっつく気にならなかった。

あくまでも友達だから、それ以上の視点で見るという行為が嫌なのだろう。

 

 

 

きーこ、きーこ。

 

 

 

堪能したらしい智代は、ゆっくりと動きを緩和させていく。

 

 

 

きーこ、きーこ。

 

 

 

子供の声が聞こえなくなっていたのに今気づいた。

どうやら帰って行ったらしい、確かにそろそろ帰る時間になるのかもしれない。

 

 

 

 「……なぁ朋也」

 

 

 「ん?」

 

 

 

腕を組んでいた朋也は、柵から離れると隣のブランコに腰掛けた。

 

 

 

 「私が転校生なのは覚えているよな」

 

 

 「そりゃそうだろ、いくらなんでもお前が去年うちの学校に

  いなかったことくらい覚えてるぞ。何だかんだでお前は目立つからな」

 

 

 「私がどこの学校から来たか話してはいないよな?」

 

 

 「聞いたことないな、それに聞く必要もないし? 智代は光坂高校の智代だろ」

 

 

 

何気ない言葉で切り返した朋也。

その言葉はぶっきらぼうで、優しい。

 

 

 

 「やっぱりお前はいい奴だな」

 

 

 「んだよ、急に」

 

 

 「まぁ聞け。今日は相談に乗ってもらうんだからな。

  ……私はここに来る前、風見学園というところにいた」

 

 

 

その学校の名前は有名だ、何せ日本に三校しかないDDEの養成校なのだから。

それに、朋也はかつてその学園のある島、初音島に滞在したこともある。

 

 

 

 「ああ……あの」

 

 

 「そう、“あの”学園だ」

 

 

 

そういえば以前聞いたことがあった、智代は能力持ちだと。

 

 

 

 「忘れてた、智代は能力者だったな」

 

 

 「うん。私の力は【磁力】、磁場を操る力だ」

 

 

 

ひょい、と地面に降りて、両手をブランコにかざす。

 

 

 

ガチャガチャガチャ

 

 

 

智代の乗っていたブランコの鎖がひとりでに絡まる。

鉄と鉄を磁力によって引き付けているようだ。

 

 

 

 「で? それがどうかしたのか?」

 

 

 「……今日、うちの学校に連絡があったらしい」

 

 

 

能力を解いた智代は、再び翳りを含んだ。

さっきまでの朋也と同じように、柵に体を預け、地面に視線をやる。

朋也は何も言わない。黙ったままじっと彼女を見つめていた。

 

 

 

 「……帰って来い、そういう内容だったそうだ」

 

 

 「風見学園に、ってことか?」

 

 

 「そういうこと、だろうな」

 

 

 

大きく溜息を吐いた朋也。

掛けるべき言葉を捜す。

 

 

 

 「……悩んでいるのか?」

 

 

 「当たり前だろう」

 

 「待て、学園が直々に呼び出すってことは……お前結構凄いのか? 

  普通個人の進路を学校が口出すなんてありえねぇぞ?」

 

 

 「私自身は意識したことない。持っているランクはB1……尤も学園によって

  判断基準はずれるからな、どこまで指針になるかは知らない」

 

 

 

それは事実だ、七星学園・風見学園・桜坂学園は共通してランクを生徒に与えているが

判断基準はマチマチで、学園の換算では一概にランクの優劣はつけられない。

七星学園のB2生徒と桜坂学園のB1生徒の実力が互角の場合もある。

 

 

 

 「変な聞き方かもしれないが……智代」

 

 

 「ん?」

 

 

 「お前はどうして此処に来た? ここは普通の学校だ。

  確かに昔は養成校の話もあったらしい。

  能力者がいないわけじゃないが誰もDDEになりたいなんて思ってない。

  皆はただ普通に此処を卒業して就職したり進学したり……。

  『永遠』とは全くの無関係な空間、光坂高校ってのはそういう所だ、なのに……」

 

 

 「…………やっぱり、気になるか?」

 

 

 「そりゃ、まぁ……な」

 

 

 

朋也は顎に手をやって、表情を隠すかのように返事をした。

彼女は空を見上げ、遠くを見つめてからもう一度ブランコに腰掛ける。

朋也の視線が自然と隣に向く。

 

 

 

 「そうだな……うん。お前なら話してもいいか」

 

 

 

信頼を寄せる者への信頼の証のように、朋也を見た智代。

その表情は凛々しく、だけどどこか弱々しい。

学校の誰もが見た経験はないであろう、きっと彼だけが見ることのできるそんな表情。

朋也は一瞬、頬に赤みが差していくような錯覚を覚える。

彼の顔色は全く変化していない。

智代は前を真っ直ぐ見て、静かな公園に一人言葉を紡ぐ。

 

 

 

 「お前は、『黒十字』という人のことを知っているか?」

 

 

 

 (!?)

 

 

 

声にならない、心の中で驚愕する朋也。

顔色が変わっていたが、前を見つめる彼女は気づかない。

知らないはずがない、それは自分だ。

二年前まで自分はそう呼ばれていた。

何故此処でその名を聞かねばならないのか? そう思うのも無理は無く。

 

 

 

誇りに思うと同時に、情けなさで一杯になる……過去の自分自身。

 

 

 

 

 

 

智代は返答を始めから期待していなかったのだろう、そのまま続ける。

 

 

 

 「その二つ名くらい聞いたことがあるだろう? その人はとても強いDDEでな。

  当時、といってもほんの数年前の話だが、次代の神器最有力候補と言われていた」

 

 

 

上を向いてブランコの接合部を視界に入れる智代。

 

 

 

 「私なんかとは比べ物にならないくらい強くて……うん、本物を見たことはないけれど

  他のどんな人よりも憧れていた。誰よりも強くて、皆を助けられる凄い人、ってな」

 

 

 

その言葉が苦々しい、照れという感情が湧きあがることはなく、問い返すしかできない。

 

 

 

 「そんな凄い奴……本当にいるのか?」

 

 

 

嫌ってはいない、だけど情けない昔の自分。

彼の問いかけに智代は首を横に振った。

 

 

 

 「いや、いなかった。少なくとも、今はもういない」

 

 

 

その通りだ。

今現在、『黒十字』はDDにはいない。

何故なら、そう名乗った男は今、彼女の目の前…………『此処』にいるのだから。

 

 

 

 「その人はDDから立ち去った……正直裏切られた気分だったよ。

  私はあの人に憧れていたから、余計に、な」

 

 

 

朋也は黙って聞いていた。

そうすることが贖罪であると思ったから。

 

 

 

 「私はどうしても納得できなかった。あの人はそんなことをするような人じゃないって

  信じていたから……だから自分で調べたんだ、何でそんなことになったのかを」

 

 

 

過剰な期待、だがそれを責める気は更々なかった。

過去の自分が彼女のある意味での支えであったことを素直に喜んだ。

後悔という置き土産だけを残し、友や、仲間や、後輩の前から消えた自分が。

無関係な誰かをこうして支えていたのかもしれないと思わせてくれたから。

 

 

 

 「……で、何か判ったのか?」

 

 

 「ああ……その人は、ある女の子を助けられなかったらしい。たった一人の女の子を」

 

 

 「…………」

 

 

 

よく調べた、朋也はそう思った。

 

 

 

 「女の子を、護れなかった。それが黒十字にとっての……苦痛だったんだと思う」

 

 

 

よく覚えている、その少女の名前は伊吹風子、自分の恋人というわけでもない。

永遠とも、自分とも無関係な、同い年の普通の少女だった。

 

 

 

 「勘違いしないでくれ! 黒十字が悪かったわけじゃない。ただ、その人は

  少女が襲われたとき、他の任務に就いていたらしい……。そう、別の場所で」

 

 

 

あの時の光景は忘れもしない。連絡を受けてようやくその場所に着いたとき、

少女は永遠に囚われた後だった……間に合わなかった。

 

 

 

 「黒十字は何も悪くなかった……仕方ないことだったんだ。

  彼は連絡を貰ってすぐにその場所に行ったらしい。そして、その帰還者を倒した。

  自分にできることは精一杯やったはずだったんだ。

  だけど……彼は優しいから……自分の責任だと言って、DDを去ったらしい」

 

 

 

彼女の呟きには、どこか優しさが込められていた。

判らないなりに、それでもその本質を見極めようと努力した証だろう。

 

 

 

だが、朋也にとってはそれが嬉しくもあり……辛い。

 

 

 

違う、例え世界中の誰もが俺を擁護したとしても、俺の責任であることに変わりは無い。

最初に奴に出会ったときに、殺しきれなかった俺の責任。

二度目があるなんて思わずに……あの少女を護れなかった俺の。

二度目に出会ったときに、奴を殺しただけで少女を救えなかった俺の……責任。

 

そんな言葉が喉元まであがってくる。

 

 

 

 「悔しかった。そんなに強い人でも守れないのかって思うと……悔しかった。

  DDはそんなに無力なのか、って。

  その時私は初めてDDEになるということに疑問を抱いた。

  あの人が挫折するってことは私にとってそれだけ影響したんだ。

  だけど迷っていた、もしDDEにならないとしてもそれからの自分に何が出来るか、と」

 

 

 

智代の独白は続く。

 

 

 

 「そんな時だ、変な人に諭された。

  迷うなら行動しろ、って。迷うのは時間の無駄だ、と。

  大切なものを守るためには自分から動かなきゃならないんだ。

  それは世界中で自分にしかできないことなんだからな、って」

 

 

 「……かなりナルシス入ってるな、その人」

 

 

 「ああ、だから変な人なんだ」

 

 

 

二人は苦笑する。

 

 

 

 「でも、後押しされた。だから私は学園を辞めることにしたんだ」

 

 

 「諦めた……ってことか?」

 

 

 「人の話を聞いていたのか? 馬鹿を言うな……ただ、探そうと思ったんだ」

 

 

 「何をだよ」

 

 

 

智代はそこで息を吸い込み、朋也を見た。

 

 

 

 「人を守る方法をだ」

 

 

 

そのたった一言に迷いはなかった。

 

 

 「DDは帰還者を倒すための組織だ。確かにDDEは人を守っている。

  だけど、それは帰還者を倒すことによってだ。

  だから、黒十字があんなに強くても少女を守れなかったんだと思う。

  なら、帰還者を倒すのではなく、人を守るために戦えるようになればいい。

  そのためにはDDとは違う、何か別の存在が必要なんじゃないかって私は思った。

  風見学園に居たままじゃ何も変えられる自信が無かった。

  だから私は同じように風見学園に通っていた弟を説得して、ここに来たんだ。

  普通の学校で、DDとは違うことをたくさん知って、たくさんの人を助けるために。

  勿論、結果としてDDを選ぶことになるのかもしれない。

  ……だけど、それまでの経験は決して無駄じゃない。遠回りだとしても」

 

 

 

朋也に返す言葉は一つも無かった、自分は逃げ、彼女は受け入れて前向きでいる。

彼女の姿は堂々としていて、とても眩しく映った。

 

 

 

 「なんだ、呆れたのか? いや……無理もない、な」

 

 

 「違う、お前は凄いと思った」

 

 

 「本当か?……そんなこと言って実は馬鹿なことを言ってると思ってるんじゃないか?」

 

 

 「信じろよ。素直に褒めてるんだから」

 

 

 

そんな風に考えたことはなかったから、無力な自分に目を瞑ってきたのだから。

 

 

 

 「なんだよ、智代が自分で今言ったことだろう?」

 

 

 「だって……私だって荒唐無稽だと思ってるんだぞ」

 

 

 

拗ねるように言う智代。

 

 

 

 「確かにな。でも、そう思えるのは凄いと思う、素直に」

 

 

 「そうか……」

 

 

 

智代はきーこ、きーこ、とブランコを揺らす。

迷いを振り切るかのように、明るく微笑んで。

 

 

 

 「なあ、朋也」

 

 

 「ん?」

 

 

 「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に言ってやりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――こっちこそ、“ありがとう”って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「決めた、悩んでる自分が馬鹿らしく思った。絶対に風見学園に戻ってたまるか。

  私は自分の意志でここにいるんだから――私は光坂高校の坂上智代なんだからなっ! 

  それは、お前が証明してくれるだろう?」

 

 

 

強い、強い言葉で勢いをつけ、彼女はブランコから飛び上がった。

最後に朋也を見たのは、彼女の信頼の証。

弧を描く彼女の体。

ふわり飛び上がった少女が地面に足を着く。

着地フォームは、まるで選手のそれのように堂々としていた。

 

その姿が、眩しくて。

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁ、智代」

 

 

 「ん?」

 

 

 「お前ってさ……凄い奴だよな、本当にさ」

 

 

 「くどいぞ、朋也」

 

 

 

決意したはずなのに、それでも拗ねたような表情を浮かべる智代に苦笑する。

 

 

 

 「お前と友達でいれて、良かったと思う。

  先輩後輩って間柄じゃない、友人って間柄がさ。すっげぇ心地いい」

 

 

 「何を突然」

 

 

 「こんな俺だけど、改めて宜しく頼むわ。

  頭も悪いし、素行も悪いし……性格だってマトモじゃないかもしれないけどさ。

  力になれることがあったら言ってくれよ?」

 

 

 

 

――――――それが、せめてものお礼だから。

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ……それなら覚悟しておけ。嫌になるくらいこき使ってやるからな」

 

 

 

 

 

 

そう言いあって笑う二人の姿が、夕日に映えた。

 

 

 

 

 

 


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