Eternal Snow

72/七星学園武術会 〜朱雀降臨〜

 

 

二人が消えると同時に生徒達の束縛も消えた。

 

 

 「兄さんっ!」

 

 

やはりこういった状況に慣れているというのもあるのだろう、

大勢の人々の中で誰よりも早くリングへと上がったのは一弥であった。

彼は浩平が無事に立っていることを考慮に入れ、倒れ伏した祐一の下へ駆け寄る。

久瀬も倒れているのだが、彼のことなぞ一弥にとっては正直どうでもよかった。

仰向けに寝かせ、流れる血を己の制服で止血する。

 

 

 「兄さんっ、聞こえますか!?」

 

 

いくら神器とはいえ、抑制に塗れていては常人となんら変わりない。

祐一自身が風の加護を受けている分、

治癒は出来るが衆人監視の中急速に治すわけにもいかない。

 

 

 「だ、いじょ……ぶだ、俺よりも……久瀬を」

 

 

祐一は己の傷よりも、共に倒れた久瀬を気遣う。

その気になれば自身のダメージはすぐにでも癒える。

 

最後にそんな気遣いを見せ、祐一は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それから数刻後。

 

 

 

 

 

祐一と久瀬は保健室にて眠っていた。

互いに致命傷というわけではないが、無理は禁物ということである。

浩平の場合は弾が肩を貫通していたので、

ある意味で傷は深くはなく、包帯を巻きつけて勝手に治療を終えるとその場を後にした。

当然、瑞佳やみさおは猛烈に反対したのだが、

 

 

 「一人にさせてくれ……」

 

 

あまりに暗いその言葉に、何も言えなくなってしまったのだった。

実際、彼が炎の力を己にだけ回せば治癒は容易である。

回復には向かないとはいえ、自分にだけに置き換えれば話は別だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話が前後してしまったが、浩平は現在、人の来ない校舎裏に居た。

 

聞こえてくるのは慟哭。

響き渡るのは拳を振るわせる風切り音と打撃音。

 

 

 

 

 

 

ヒュッ……ダン、ダン、ダンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は何をやってるんだ! みすみす連れ去られてどうすんだよ!? 

  折原浩平っ、お前は失わないために強くなったんだろうがっ!! 

  もう二度と……【佳乃を失わない】ために強くなったんだろ!? 

  神器の名前はただの飾りなのか? 何してるんだよぉっ…………! 畜生っ!!」

 

 

猛烈な『憎悪』という後悔。

彼の瞳は涙で溢れ、地面には涙が跡を残し、その両拳は己の紅い液体で染まっていた。

跳ね返る血の紅が、右手首のバンダナに飛沫を残す。

 

 

 

 

ダン、ダン、ダン、ダンッ!

 

 

 

 

地面に、壁に、樹に打ちつけられる浩平の拳。

打たれた部分は彼の拳の形に血痕が残る。

血の熱さなんてどうでもいいこと、苦しいだけ。

肉体の痛みなんて感じなかった、ただ、心が痛かった。

 

 

 

 

 

 『僕はね、『今』がとても楽しいんだ』

 

 

 

 『できるなら、この時間が永遠に続いて欲しい。……そんな風に願っているからね』

 

 

 

 

 

あの日のシュンの言葉が脳裏を過ぎる。

怒りと悲しみ、己の不甲斐無さ。

だからだろう、今の浩平はまるで烈火。

その気迫が炎を呼び起こしているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――どれだけの時間そうしていただろう?

 

 

 

チリ……ッ。

 

 

 

首の辺りに何か違和感を覚える。

感情の昂ぶりはそれを見逃しはしない。

この慣れ親しんだ違和感は間違いなく異質なる存在――『帰還者』のもの。

しかも、この場所で、浩平の大切な人達が居る、この学園で。

 

 

 「……近いな…………ぶっ殺してやる」

 

 

その姿は正に修羅。

彼は、ゆっくりと其処へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――同時刻、別の校舎裏にて。

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんであなたが此処にいるんです?」

 

 「心外だなぁ、僕は用事を済ませに来ただけだよ」

 

 「ふざけないで! 氷上君を誘拐するのが用事!?」

 

 

 

 

 

 

茜と詩子がいた。

二人は凄い剣幕でもう一人の少年に対峙する。

右目にモノクルをかけた少年――『城島 司』。

そう、先ほどシュンを連れ去った帰還者の一人である。

 

司は詩子に向かって指を一本立てた。

 

 

 「それが一つ。ま、僕にとってはそんなの些末的なことでね。

  あのまま帰らなかったのは君達を連れて行くためだよ」

 

 

『永遠』にね、と付け加える。

 

 

 「今まで司のことを忘れていましたが、無理もないですね。帰還者となっていたのでは」

 

 

茜も詩子も忘れていた、『司』という幼馴染がいたことを。

だがそれは当然のこと、“永遠を求めたものはこの世界から切り離される”

それが長年をかけて人々が知ったことであり、人である以上逃れられないことだから。

逃れるためには帰還者となるしかない、理論上ではそう言われていた。

実践する者など居はしないが。

第一、 仮に実践しても誰も覚えていなければ意味はない。

唯一思い出されるのは、その帰還者がこの現世に訪れ、何者かを認識されたときのみ。

 

 

 「う〜ん、ちょっと違うよ茜。僕は帰還者であってそうじゃない。

  説明してもいいけど、長くなる話はこんなとこでしたくないし」

 

 

ノンノン、と指を振る司。

その瞳は愉悦に近いものがある。

 

 

 「あたし達も聞く気なんてない。……ようやく思い出したけど、何であんたが

  帰還者になってるわけ? 幼馴染のよしみで教えてくれてもいいんじゃない?」

 

 「ふん? まぁ繰り返しになるけど。僕は君達が欲しい。

  その手段として永遠を見つけた、簡潔に言ってそんなところかな」

 

 

その言葉に茜の髪がざわめく。

かつて自分達が子供だった頃から、彼はそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 『茜と詩子と僕。ずっと三人一緒にいるんだ』

 

 

 

 

 

 

かつての少年はそう話していた。

どうやら彼は、『永遠』にてそれを達成するつもりらしい。

 

 

 (冗談にもなりません)

 

 

茜は心の中で思った。

 

 

 「司、私達は幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません。

  私は貴方のものになるつもりなんてない、『永遠』には一人で行ってください」

 

 

侮蔑したような、拒絶の視線をもって司を射抜く茜。

 

 

 「茜に同じく。なんで帰還者のあんたが成長してるかは知らない。

  だけど聞く気にもならないから説明は要らない。

  茜とず〜っと一緒に居られるってのは魅力的だけど、永遠に行かなくても叶うし。

  あたしは司のことを幼馴染以外には見る気ないし。

  それに……好きな人もいるし、始めっから嫌」

 

 

いつもの笑顔で詩子が答える。

好きな人のフレーズで茜がじろりと詩子を睨んだが、当の本人は涼しい顔。

司は一瞬戸惑う。

 

 

 「頼むから僕の計算外の発言をしないでくれるかな? 変だよ、二人して。

  昔は僕の言葉に『うん』って言ってたじゃないか。

  だから僕はこうして二人を迎えに来たんだ……さぁ、行こう。

  僕達三人だけの永遠の世界へ」

 

 

二人に手を差し出す司。

その彼に二人は

 

 

 「嫌です」

 

 「お断り」

 

 

言葉こそ違えど、全く同じ意味の単語で返した。

内心に宿る、ある少年の顔を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 「何でだよ? 何で何で何でさ。僕は茜と詩子のために永遠を見つけたんだ。

  僕達がずっと一緒に、永遠の時を刻むために、ずっとずっとずっとぉっ!」

 

 

司の表情が怒りに染まる。

彼自身、二人に拒絶されるとは思っていなかったのだろう。

そもそも司は絶望によって永遠を求めた存在ではない、

本来有り得ぬ形で永遠に属した存在。

いずれその理由は語るとして。

 

 

 

 

 

だからこそ、茜と詩子の言葉が彼に圧し掛かった。

 

 

 「誰も頼んでません……貴方が勝手にやったことでしょう」

 

 「そうそう。それにね、司、あたし達はあんたが許せない」

 

 「……どういう意味だ?」

 

 

所々息切れしながら司が問う。

 

 

 「貴方は浩平を傷つけた……理由はそれで十分です」

 

 

 

 

茜の髪から一本の針が飛ぶ。

【スタンニードル】、髪を針状にして撃つ射撃系の技。

その針は司の左頬を掠った。

 

 

 

 

 「こうへい?……さっきのあいつか? 判った、あいつの所為で

  二人がおかしくなったのか。そうだよな、茜と詩子が僕の言うことを

  聞かないわけないんだ。あいつが悪いんだ、あいつを消せば二人とも元に戻る。

  そうして僕達は……『永遠』に行くんだ。あはははははははっっ」

 

 

 

 

目の前の二人など眼中にもない、と一人悦に入る司。

 

 

 「何、馬鹿なこと言ってるの――っ!」

 

 

詩子がナイフを持って司に飛び掛かる。

司は投げやりに詩子を見て、微笑んだ。

 

 

 「大丈夫だよ、詩子。すぐあいつを殺してあげる」

 

 

左手を詩子に向け、何かを呟く。

 

 

 「っ!?」

 

 

詩子が飛び掛かろうとしたその体勢のまま、その場に『固定』される。

 

 

 「詩子!……司っ、一体何を!?」

 

 「心配ないよ。別に怪我しているわけじゃないんだし」

 

 

司は一旦区切ると、まるでとっておきの宝物を見せる子供の様に笑った。

 

 

 「この力はね、僕が『永遠の使徒』……って言っても判んないか。

  『永遠』に行って手に入れた力なんだよ。

  能力【停止】、僕の意のままに物体の『時』を停止する力さ。

  僕の実力をもってすれば、君達二人を相手にするのなんてわけないけど、

  折角の綺麗な体に傷をつけるわけにもいかないだろ? 

  それに、こうしていれば抵抗もできないし。

  『永遠』に連れて行くには一番手っ取り早いんだよね」

 

 

まるで彫像のように動きを停めた詩子を見ながら、陶酔するように彼は続ける。

ひたひたと詩子に近付き、その頬を撫でる。

慈しみ、欲に塗れた清くも穢れた視線に茜と詩子の姿が陵辱される。

 

 

 「茜、今度は君だよ。怖がらなくてもいい、時が停まってしまうのは

  肉体だけさ、頭はしっかり動いているよ。詩子だってこの状態は理解してる。

  永遠に渡る記念すべき瞬間を見逃したら勿体無いもんね」

 

 

詩子にしたのと同じく、左手を茜に向ける司。

歪んだ微笑が、恐ろしいものであると彼女は知った。

 

 

 「い、嫌です」

 

 「ふふ、我侭を言う茜も可愛いよ」

 

 

たったそれだけの会話が、怖い。

 

 

 

 

 

 

怯える茜。

無理もない、目の前で恐怖を味わってしまったのだ。

例え帰還者と対峙するのが初めてでなくても、こればかりは異質過ぎた。

そう、先日の瑞佳と留美のように。

 

 

 

 

 

――――思い出して欲しい、あのときにどうやって二人が助かったのかを。

 

 

 

 「趣味悪りぃよ、お前」

 

 

 

 

ズドォォッンッ!

 

 

 

 

響き渡った銃声、業火の中から紡がれるが如き憤怒の声。

撃ち出された光の弾丸は司の頬を掠る。

偶然にも、先ほど茜が射抜いた部分とぴったり同じに。

 

 

 「きゃっ」

 

 

そのショックだろう、司の停止に掛かっていた詩子が地面に落ちた。

 

 

 「君は……さっきの」

 

 「浩平っ!」

 

 

あのときと同じように、彼が現れた。

紅の修羅、折原浩平が。

 

 

 「SET――LASER(光線弾――装填)」

 

 

ラムダガンナーを構え、次の弾種を装填する。

 

 

 

ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!!!!!!

 

 

 

六点射、そのどれもが司を突き刺そうと牙を剥く。

光は獰猛な爪となり、司に危険を察知させる。

 

 

 「チィッッ――!」

 

 

咄嗟にステップを駆使し、その全てを回避する司。

浩平はその隙に茜の傍へ行く。

 

 

 「茜、あいつお前の知り合いか?」

 

 

銃を構え、横目で司を見やりながら問うた。

 

 

 「え? あ、はい……私と詩子の、幼馴染だった、男の子、です」

 

 

問われた茜は、普段と何かが違う浩平に気付く。

赤く染まった彼の拳に驚愕しながら。

 

過去形で答えた茜、それも無理は無い。

記憶から消えていたのだ、今更思い出したところで何の感慨もない。

ただ、『かつては』仲が良かったから、それでも思い出せただけの話。

 

 

 「そうか……辛かったら目を閉じてろ。今から、アイツを殺す。

  柚木もそこを動くなよ。絶対に加勢しようとするな」

 

 

返事は何も期待していない。

地面に落ち、お尻を擦っている詩子にもそう告げる。

 

 

 「何だと? 僕を殺す? 冗談もいい加減にしてくれないか。

  茜と詩子は僕の……この城島司のものなんだよ。

  僕は二人を『永遠』に連れて行くんだ。

  そもそもさっき僕にやられた君が勝てるはずがないだろう? 邪魔をするな!」

 

 

司が怒りの形相で浩平を怒鳴る。

 

 

 

――――――独りよがりな、幼稚な欲望。

 

 

 

だが、彼のその言葉は浩平の怒りを増進させた。

故に迷いは消えた。

怒られるなら一度も二度も同じ、護れない力に意味はないと確認したばかりだから。

 

 

 「ふざけるな! てめぇら『永遠』は俺からどれだけ奪えば気が済むんだ!? 

  『アイツ』も、氷上も。この上、茜と柚木もだと!? 

  いい加減にしやがれっ!……教えてやる、茜と柚木は物じゃない。

  『今』を生きる人間なんだよ、そして、俺が護るべき大切な存在だってな!」

 

 

炎が舞い上がる、彼の心が煉獄に染まっていた。

炎は烈火の気質、怒りこそが最もソレを強くする。

これなら神衣が無くても一撃ならば大きな攻撃が加えられる。

 

 

 「出し惜しみはなしだ……塵と化せっ! フレイムドラストォォォォッッ!!!」

 

 

浩平の右腕に大量の炎が収束され、触れるもの全てを焼き尽くす煉獄の奔流が生まれる。

【フレイムドラスト】、浩平の持つ能力技の中でも特に強力な部類に属する。

技のレベルとしては、玄武――即ち純一の能力技、【ハイドロブレイザー】と同列にあたる。

 

 

 

 

 

 

 『オオオオオッッッッッッッッ!!!!!!』

 

 

解き放たれた炎の力が唸りをあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 「な! 能力だと!?」

 

 

司の持ち味はそのスピードである。

銃撃とスピード、この二つが彼の特技。

だが、この場合は相手が悪い、炎の隙間を掻い潜るのは至難の業であった。

浩平の怒りはそんなもので逃れることは叶わない。

 

 

 

 

襲い来る火炎。

 

 

 「があああっっっ!」

 

 

司の悲鳴、それでも直撃を免れただけでも僥倖か。

彼の左腕が焼きついている。

浩平はその様子を冷たい目で見やり、殺気を隠そうともしない。

 

 

 「こ、浩平く……ん?」

 

 「浩平……?」

 

 

詩子と茜が目を丸くする。

無手使いの浩平の持つ拳銃といい、能力なしのはずなのに撃ち出された炎といい、

二人が驚くには十分過ぎた。

 

 

 「……は、は……はぁっ……き、貴様ぁっ」

 

 「言っただろう、お前を殺すと」

 

 「返り討ちにしてやるよ!」

 

 

司の狂気が此処にきて初めて浩平に向いた。

浩平は、その視線を真っ向から受け止めた。と言うよりもそうするしかない。

でなければ彼の狂気は茜と詩子に向かうだろう。

それを甘受するわけにはいかない、瑞佳も留美も、茜も詩子も……

『今の折原浩平』を支えてくれる人を守るために彼は戦うのだから。

 

 

 

 

――――――元より覚悟の上。

 

 

 

 

 「城島、とか言ったな? 冥土の土産に俺の名前を刻んで逝け。

  俺の名は折原浩平。茜と柚木を護る守護者――神器『朱雀』折原浩平だ!」

 

 

――――――それは宣言と言う最後通牒。

 

 

 「神衣――着装」

 

 

校舎裏にその声が響くと同時に、彼は神衣を纏っていた。

その雄々しき姿は紛れも無い神器の証明となる。

より圧倒的な存在感、佇むだけのその行為にどれだけの迫力があるのか。

 

 

 「おり、はら……こうへい。僕達の計画の妨げになる『神の牙』だと?」

 

 

司はそこで歯を噛み締めた。

負けを悟ったわけではない、だが悔しそうに。

 

 

 「……今回は見逃してあげるよ。せいぜい平和を楽しめばいいさ。

  しばらくは茜と詩子を預けておく。だが、必ず殺してやる」

 

 

自ら負けを認めるかのような言葉を吐くのが嫌だと、声音が告げる。

 

 

 「逃げ切れると、思ってるのか?」

 

 

銃口を司に向け、脅す浩平。

いや、始めから生かすつもりはない。トリガーを引く。

 

 

ズドン、と重い音が『二つ』響く。

 

 

 

 

 

 「あぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 

司の近くから響く悲鳴。

肌色の大腿部から流れる紅。

 

 

血。

 

 

 「詩子っ!?」

 

 「うぅ……あぁっ……!」

 

 

通常の弾丸のそれよりも、幾分か大きい弾痕が詩子の左太腿に残る。

何の慈悲もなく、彼が撃った。

少女を得ようと、傲慢なセリフを吐いた、司という少年が。

浩平の弾丸を、その場に固定させて。

 

 

 

 「てめぇ!!」

 

 

ドンドンドンドンッ!!!!

 

 

詩子が傷を負ったと認識し、浩平が銃を連射する。

そのどれもが必滅を求め、人間の急所を全て噛み砕く。

 

 

 「ハッ!」

 

 

火傷を負った腕をかざし、その弾丸を『停める』司。

 

 

 「せめてもの意地さ、本当は詩子を傷つけたりなんてしたくないんだけどね。

  このまま引き下がるのはちょっと悔しいし……。

  彼女達が僕のものだっていう証拠にもなるだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その答えが、弾痕か。

 

 

 

 

 

 

 

 

明らかに愚劣といえる行為に、浩平の瞼が熱くなる。

幼馴染を、「永遠による独占」という愚を犯していても、

少なからず愛しているであろう相手に対してむける言葉ではないから。

 

だが、司の瞳は既に歪み、穢れている。

 

 

 「僕は茜と詩子を『永遠』に連れて行くのが目的なだけで、

  別に死ななければそれでいいのさ。神器と戦うのは不利でも、

  詩子を狙うのなんて容易いことなんだよ」

 

 

それ以上の追い討ちをかけるかのように、更に詩子に銃口を向ける。

浩平は動けなかった、もしここで下手に動けば……再び詩子が苦しむのが目に見えているから。

もとより茜では何も出来ない。

 

 

 「茜、詩子。本当に残念だけど今日は諦めるよ、それじゃあね」

 

 

名残惜しげに言う司。

詩子が痛みと、怯えと、嫌悪感を表していることすら愉悦なのか、彼は微笑んだ。

それが『異常なまでに異質』であると気付いていないかのように。

 

 

 「……あ、最後に一つ忘れ物があったね」

 

 

負ったはずの火傷に構うことなく、銃を詩子に向けたまま歩み寄る。

 

 

 「ごめんね?」

 

 

銃に晒され、怯えられ、全ての敵意を一身に浴びる司は、口づけた。

痛みに怯え、司に怯え、その瞳から涙を零す少女の頬に。

おぞましい笑みを浮かべて。

 

 

 

ダンダンダンダンダンダンダンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

逆上した浩平がラムダガンナーを連射した瞬間、

 

 

 『バイバイ――――愚鈍な守護者さん』

 

 

その言葉だけが、辺りに残された。

 

 

 

 


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