空が明るい。

悲しみの夜が明けていく。

涙は拭いきれたわけじゃない。

傷口から滲む血は未だトマラナイ。

痛みはナクナリハシナイ。

 

けれど彼は刀を取る。

修羅として、『力』を望むが故――。

 

 

 

 

 

Eternal Snow

7/朝焼け

 

 

 

 

 『あ、頭痛い……』

 

 

 

酒を飲んだ挙句に錯乱し、リビングにて眠った少女達の第一声がこれだった。

典型的な二日酔いである。

同情を禁じ得る必要すらない。

自業自得というやつだ。

 

 

 

 「当たり前だろ? ……ったく」

 

 

 「はぁ……。揃いも揃って」

 

 

 「アハハッ、昨日は随分盛り上がったんだねぇ」

 

 

 「微笑ましいですね」

 

 

 

順に祐一、一弥、賢悟、秋子が言った。

子供達二人はこめかみを押さえている、よっぽど情けなく思っているのだろう。

ちなみに彼らも酒は飲んだのだが、流石に飲みすぎるわけもなく

今朝の目覚めはむしろ清々しかった。

 

 

 

 『頭に響く〜〜』

 

 

 

辛そうな声が、馬鹿馬鹿しくて。

 

 

 

 「アホらし……」

 

 

 「同じく」

 

 

 

幼馴染に向ける二人の視線は冷たかった。

特に一弥の場合は散々な目にあっている所為でいい気味だ、とか思っている。

無理もない。

 

 

 

 「祐一君、一弥君、その子達は休ませておいてあげて。朝ごはんにしよう」

 

 

 『は〜い』

 

 

 

賢悟が二人に声をかけ、素直に反応する。

それはどこの家庭にもある平穏な日常の一コマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば」

 

 

 

食事中、祐一が尋ねた。

極個人的なことだが、一つだけ気になることがあったのだ。

 

 

 

 「何ですか?」

 

 

 

秋子がパンにりんごジャムを塗りながら訊き返す。

ちなみに今日の朝食はトーストにハムエッグにサラダ。

 

 

 

 「昨日一弥から聞いたんですけど、俺学校に通うって」

 

 

 「ええ、手配しておきました」

 

 

 「早っ」

 

 

 

賢悟がコーヒーを啜ってから言った。

 

 

 

 「いくらDDとは言っても、学校に行ってはいけないというわけじゃないし。

  浩平君も行っているしね」

 

 

 「た、確かにそうですけど……わざわざ俺が行く必要性はないんじゃないっすか」

 

 

 「そうかもしれないね。でも僕は通うべきだと思うよ」

 

 

 「……というと?」

 

 

 「仮に、君が初めてこの冬実市に来たばかりの旅行者だというのなら

  確かに行く必要はないだろうね。学生だとそれだけで動きを制限されてしまうから。

  しかし祐一君の場合は違う。君のことを知っている子が多すぎる。

  名雪然り、真琴然り。他にもいっぱい居るからね。

  本来なら学生のはずなのに通わない、それだけで周りに疑問を抱かせるには充分だよ。

  それになにより、名雪に昔『祐一はどこにいるの?』と訊かれたことがあってね。

  『学校が忙しいからここには来れないんだよ』と答えてしまったからねぇ」

 

 

 

ある程度自分の責任のような気もするが、賢悟は他人事のようにあっけらかんと答える。

 

 

 

 「…………俺に逃げ場はないんですね……はぁ」

 

 

 「祐一さんのランクはC2としておきました。あまり高い数値は好まれないでしょうし」

 

 

 「ず、随分手回し早いですね」

 

 

 「秋子さんは七星学園の理事ですから」

 

 

 「そうなんですか?」

 

 

 

『七星学園』――日本に存在する三大DDE養成学校の一つ。

他に風見学園・桜坂学園という姉妹校がある。

 

 

 

 「はい」

 

 

 

そう言って微笑む秋子。

この笑みに逆らえる者は……DD全体を探しても本当に極々一部だけであろう。

彼女の姉やら【将軍】やら……類は友を呼ぶ状態。

 

 

 

 「制服も用意してあります。さっきお部屋に置いておきました」

 

 

 

いつの間に……と思った祐一だったが、口に出すことはなかった。

賢明である。

 

 

 「今日は祐一君の日用品とか買いに行くつもりだから、支度していてね。

  一弥君も来るよね?」

 

 

 「あ、はい」

 

 

 「け、賢悟さん。別にいいですって、わざわざそこまでしてもらわなくても」

 

 

 「何言ってるの。ここでは僕と秋子が君の親代わりなんだよ? 

  息子のために何かするのは当然じゃないか。それともお節介かな?」

 

 

 「そうですよ祐一さん。遠慮しないでください」

 

 

 

二人は似たもの夫婦だった。

祐一にそれ以上の言葉が出るはずもなく。

 

 

 

 『き、気持ち悪い〜〜〜』

 

 

 

リビングから少女達の苦しむ声が聞こえるそんな朝の一コマだった。

 

 

 


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