Eternal Snow

69/七星学園武術会 〜少女達の戦い〜

 

 

浩平と祐一が久瀬と出くわしていた頃、リング上では

みさき&雪見ペアVS舞&佐祐理ペアという大一番が繰り広げられていた。

七星学園四天王同士の激突、実質上の決勝戦が第一回戦で既に起きていたのだ。

ちなみにこれは、“久瀬&氷上VS相沢&折原”のカードを成立させるために

発生してしまった弊害である。

 

四人ともまさか一回戦で当たるとは思っておらず、最初は首を傾げたものの

“戦いとは何が起きるか判らない”、その精神をもって戦いを承諾したのだ。

 

 

 

まずは彼女たちについて簡単に説明したいと思う。

 

四天王が一人、川澄舞。

斬撃に特化した西洋剣『サイサリス』を振るい、能力『運動停止』を持つ。

根っからの戦士と例えるのが一番だろうか。

普段の彼女は明るく、いつも元気な女の子といった雰囲気なのだが、

戦闘時における彼女は、『寡黙』。

二重人格と言っても過言ではない。

『スレイヤー』……それが彼女の二つ名である。

その美しい姿に見合わぬ鋭い斬撃は、まるで戦の女神の様。

 

四天王が一人、倉田佐祐理。

特殊な加工を加えた二対のトンファー――魔装具『レインボー』を巧みに扱い、

『幻影』という能力を兼ね備えている。

人は彼女を理想のお嬢様と思っているが、意外にそれは勘違いである。

彼女は至って普通の少女、ただ……戦いの才能があっただけの普通の少女。

だから彼女に二つ名はない、人に何と言われようと、佐祐理は普通の少女でいたいのだ。

 

四天王が一人、深山雪見。

『孔雀』と銘の付いた三節棍を使いこなす少女である。

棍棒は使い勝手の良い武器として知られているが、三節棍となると話は別。

棍であると同時にヌンチャクであり、棒であって棒ではない打撃武器。

それだけのものを扱う彼女の技量は、おそらく四天王一であろう。

彼女は二つ名を名乗らない。

むしろ自分が四天王と呼ばれているのも違和感がある。

しかしその実力は本物、それが深山雪見の四天王としての才能だった。

 

四天王が一人、川名みさき。

失明というハンデを背負いながらも、『心眼』という能力をもってして

四天王という名誉に就いた努力の人。

魔装具『ターヴィランス』という手甲を使い、心眼の力を使って

風という概念を切り裂き、風の刃『鎌鼬』に酷似した攻撃を繰り出せる。

『宇宙の胃袋』という名を持つ彼女だが、四天王としての腕は確かだ。

……カツカレー10杯、を容易に食する彼女だが(汗。

 

 

 

舞は雪見、みさきは佐祐理。

対峙し、一足足りとて逃さぬとばかりに見つめあう少女たち。

制限時間はたった五分、一瞬の躊躇も許されないのだが。

 

 

 

静寂が、終わる。

 

 

 「……ハッ!」

 

 

一番に動いたのは舞。

剣を下段に構え、リングすれすれを這うように雪見へと接近する。

 

 

カッ………………キィィィィィィィィィィン!

 

 

舞の剣と雪見の棍とがぶつかり、周囲に鋼の音を響かせる。

音で全てが伝わった。

込められた威力の凄さというものが。

弱い一撃ではこれだけの甲高い音は流れまい。

 

 

 「……流石」

 

 「甘く見るな、っていつも言ってるじゃないの」

 

 

腕を認め合い、友人同士だからこそ戦闘中でありながら賞賛の言葉を送る。

互いにクス、と微笑み、斬り結ぶ。

 

上段からの一刀、白銀の煌きが雪見を襲う。

牽制でありながら十二分に相手を打倒する力を秘めた攻撃。

並の相手ならば倒されていただろう。

けれど腕の差はない……つまり互角。

 

雪見は冷静に受け流し、受けた一撃を回転の動作に巻き込んで体に溜め込む。

遠心力を一点に集中し反撃に出るために。

 

 

 「はっ!」

 

 

逆袈裟に斬り上げるように棍を振る。

溜め込んだエネルギーを爆発させるイメージ。

打撃武器である棍では斬りつける効果は期待出来ない。

しかし、一定以上の加速と完全な腕の振りとが重なり合えば皮膚を切り裂く力が生まれる。

それを成すだけの力を彼女は充分持っている。

 

互いの一撃一撃が牽制の域を越え、撃滅の力を眠らせていた。

 

 

 「……っ!」

 

 

舞も負けてはいない。

振り切られた棍を剣で受け止めても、運動エネルギーの加味分舞が負ける。

打撃に特化した棍を剣で捌くのは難しい。

つまり防御に回るのは「ダメージを与えてください」と言うも同然。

剣が受け流された勢いを殺さず、真横に飛びずさる。

 

 

 「はあぁぁぁぁっっ!」

 

 

雪見の口から発せられた裂帛の呼気。

慣性エネルギーを流されるも、その流れに任せたまま円を描くように棍を振る。

 

 

 「っ……ベクトルオフ!」

 

 

自己暗示から発動される発動の言霊。

防御に出ていた舞に、その一撃を“剣”でいなすことは出来なかった。

神楽を舞うが如き動きで繰り出された雪見の攻撃は紛れもなく必中。

食い止める手段は唯一つ、能力発動。

 

舞が持つ能力……【運動停止】によって勢いを殺す。

100%とは言わずとも、大半の威力を削ぎ落とされた棍は

舞に決定的なダメージを与えられずに終わる。

咄嗟の判断としては最善の一手であった。

 

間髪いれずに舞は剣を引いた、威力を底上げするために。

勝機を失う程彼女は素人ではない。

 

 

 「せいっ!」

 

 

その剣気はさながら居合の領域へと迫っていたように思う。

西洋剣で居合をすることは本来出来ない。

だが、一定以上の剣速があれば真似事程度は可能である。

四天王一の剣士である舞ならそれも当然。

 

……一瞬、舞は足を後ろに引いた。

 

 

 「雪ちゃん! 左に跳んで!」

 

 「っ」

 

 

僅かな風の動きを頼りに的確な指示を飛ばすみさき。

その言葉通り舞の一撃は空を掠める。

一瞬先に跳んだ雪見は舞目掛け棍棒を振り下ろす。

 

 

ブワンッ

 

 

一撃を受けたはずの舞の姿が霞みと消える。

 

 

 「ちっ……佐祐理!」

 

 「あはは〜、舞に怪我はさせませんよ〜」

 

 

舌打ちと共に佐祐理に視線をやると、確かに『本物』の舞が彼女の傍にいた。

能力『幻影』、実体のある虚像を生む能力によって舞の偽者を雪見に向かわせたのだ。

舞が足を引いた瞬間に気配を殺し幻影と入れ替わる。

絶対的な気配遮断の特技を持つ舞だからこそ出来る芸当だ。

 

 

 「ごめんね、雪ちゃん〜」

 

 「気にしても仕方ないわ、みさき!」

 

 

心眼をも欺く二人の技、素直に驚嘆すべきだろう。

だが簡単にはみさきも雪見も負けはしない。

 

 

 「お返し、いくよっ」

 

 

シュシュシュシュシュシュ

 

 

素早くその両手を空に切るみさき、次の瞬間。

 

 

ブオォッン!

 

 

一拍遅れて生まれた幾線もの風の刃が舞と佐祐理に襲い掛かる。

 

 

 「舞、お願いっ」

 

 「……はちみつクマさん」

 

 

その静かな肯定の言葉を発した舞は

二人に直撃するコースをとった風の刃を勘で見切り、周囲の力場を無効化させる。

周囲の力場をマイナスに作用させることで風の介入を打ち消した。

 

 

 

 

余談だが、彼女の発した『はちみつクマさん』という言葉は『YES』の意味。

『スレイヤー』時の寡黙な舞は、『YES』を“はちみつクマさん”、

『NO』を“ぽんぽこタヌキさん”と言ってしまう。

これは幼き日の祐一が昔ふと

 

 

 『いいか舞、“はい”は“はちみつクマさん”。

  “いいえ”は“ぽんぽこタヌキさん”って言うんだぞ、わかったな?』

 

 『うん、あ、ちがった……はちみつクマさん』

 

 

と、ふざけ半分に言ったのが原因である。

流石に舞も成長してからはすっぱりと言わなくなったのだが、

普段とは違う心理状態……即ち戦闘時に限って何故か言うようになってしまった。

おそらく舞が強くなり始めたときに祐一が傍にいなかったのが寂しかったのだと思われる。

 

 

余談終了。

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ佐祐理も行きますよ〜」

 

 

どこか気の抜ける掛け声と時を同じくしてトンファーを腕に添うように構える。

 

 

カチ

 

 

軽いスイッチ音の後、右のトンファーからマズルファイアが起きた。

自動小銃のギミックを仕込んだトンファーなのだ。

どの時代も飛び道具は有効な武器である。

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!

 

 

訓練用のゴム弾とはいえ、当たったら痛い。

激しい爆砕音がリングに無数の跡を残す。

舞の武器は意図的に強化能力にて刃を殺しているが、佐祐理の場合は

あまり意味がないような気がする。

接近戦を得意とする舞は佐祐理から離れない、この場合勝手に動いた方が

あらゆる意味で危険なことを舞は理解していた。

 

 

 「はぁぁぁぁぁっっっっっ!」

 

 

対する雪見は佐祐理の弾丸を棍棒を回して盾にすることで防いでいる。

普通弾丸なんて棍棒如きでは防ぎようがないのだが、雪見の腕はそれを成功させていた。

そしてその弱点も、また理解していた。

 

捌き切れない弾丸が服を掠めていく。

直撃だけを免れるような感覚で、ひたすらに耐える。

 

 

 (我慢、ってやつね)

 

 

佐祐理自身は雪見が何を狙っているのか判っているのかいないのか。

 

 

――――あはは〜。

 

 

彼女の顔からは窺い知れない。

 

 

 

 (つくづくあの子って何考えてるんだか判んないわ)

 

 

溜息を交えて尚も防ぐ雪見。

だが、そろそろ限界だろう。

 

 

――――――向こうが、ね。

 

 

 

カチッカチッ

 

 

 「はや? た、弾切れしちゃいました〜」

 

 

自動小銃であるが故に、破壊力は申し分ないが持続性には欠ける。

いかに苛烈な銃撃であれ、限度というものは必ず存在するのだ。

これでもう右のトンファーは殴るしか役に立たない。

勝機はここにある。

 

 

 「みさき! 舞のこと任せたわよっ」

 

 

脇目も振らずに佐祐理へと突っ込む雪見、接近戦の実力を比較するならば

雪見の方が佐祐理のソレを若干上回っている。

決して佐祐理も己の武具であるトンファーを使いこなせていないとは言わない。

が、弾丸を打ち切った所為で距離を取って戦えず、

尚且つ棍の間合いでは上手く戦えないのは厳然たる事実。

故にこの瞬間には、佐祐理が雪見に勝つのは難しいことが確定していた。

一流と一流の戦いは、あくまでも一瞬で決まる。

 

 

チャッ

 

 

軽く棍棒の持ち手を捻り、孔雀が三つの節からなるヌンチャク状へと形を変える。

これが三節棍の妙技。

 

 

 「はあぁぁぁっっ!!」

 

 

鋭い呼気は裂帛の気合となり、佐祐理の体を大きくリング外へと弾き飛ばす。

どんな試合にも言えることだが、場外アウトはそのままリタイア扱いとなるのだ。

これで二対一……しかし、彼女らの実力ならば……。

 

 

 「……降参」

 

 「うん、わかったよ」

 

 

みさきと打ち合いをしていた舞の降伏宣言。

みさきもすんなりとそれを受け入れる。

 

彼女たちの実力にはそれほどの差がない。

故に一人で二人を相手にするのは至難の業なのだ。

制限時間も残り30秒を切っていた、能力を使用した舞も

これ以上の疲労は危険と判断し、素直に降伏を認めたのだった。

 

第一回戦でありながらも事実上の優勝決定戦。

七星学園四天王、舞&佐祐理ペアVS同じく、みさき&雪見ペアの戦いは

みさき&雪見ペアの勝利で終わるのだった。

 

 

興奮は未だ覚めやらず。

そう、あの試合が残っているのだから。

 

 

 

 


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