Eternal Snow

60/七星学園事件簿 〜連続殺人事件編〜

 

 

突然だが最近、通り魔事件とやらが多発している。

時間や場所は様々で、海岸で殺された者もいれば街中で殺された者もいる。

子供に青年、老人、男や女。朝昼夕に真夜中、それこそ時間に関係なく。

ならば何故通り魔と断定出来るのか、それはその手口に起因する。

殺されたその誰もが全身を槍に突き刺されたかのように無数の穴を空けて事切れているのだ。

そのやり口は明らかに能力を使用したもの、警察は一般の事件しか扱わないため

お鉢は自然とDDへと回ってくる。

とは言っても通常はDDのD又はCクラスのエージェントが当たるため、神器が当たること

など滅多にないのだが……。

 

 

 「ねぇねぇ皆、気にならない?」

 

 

休み時間、そんな話題を提供してきたのは詩子だった。

 

 

 「なんだよ急に」

 

 「詩子、主語が抜けています」

 

 「いくらなんでも何が言いたいのかわからないよ……」

 

 「乙女の推理でもお手上げね」

 

 

いつもの如く浩平達は首を振る。

彼女が突拍子も無いことは誰もが認める事実で、既に諦めている。

 

 

 「ううっ、皆してノリが悪いよ〜」

 

 「ノリとかそういう問題以前の話だろうが」

 

 

浩平の言葉に一様に頷く少女達。

友達甲斐がない……というわけではなく、友達であるが故の反応なのだ。

 

 

 「冷たいよ……浩平くん、もしかしてあたしのこと嫌い?」

 

 

どこか拗ねた様に、そして僅かばかりの期待をこめて問う。

狙いは見え見え、茜達も苦笑する。

だがそこは折原浩平、甘く見ては困る。

 

 

 「ああ」

 

 

………………。

 

 

 「…………え?」

 

 

目が点になる詩子、他3名。

 

 

 「どした柚木?」

 

 「どどどどどういうことーーー!? こ、浩平くんあたしのこと嫌いなの!?」

 

 「そう言っただろう。難聴にでもなったのか?」

 

 

いい病院を紹介してやろうか? などと呟く浩平。

 

 

 「そ……そんな、ひどい……」

 

 

詩子は顔を伏せる。

やはり想い人……それも少なくとも友人関係ではあると思っている

浩平に嫌いといわれれば傷つくだろう。

鈍感な浩平がそれに気付くわけがなく、いつものボケとして片付けようと

 

 

「……なーんて、冗談」

 

 

そう言おうとしたそのとき

 

 

 「ひどい……あんなに愛し合った仲なのに……」

 

 

詩子が俯きながら呟いた。

 

 

 『え……?』

 

 

再び目が点になるほか3名うぃず浩平。

 

 

 「あんなに愛してるって言ってくれたのに……。

  あんなに私の名前を呼んでくれて……私は本気だったのに、遊びだったって言うの……?」

 

 『ど……どういうことですか(だよ)(よ)!? 浩平(折原)!!』

 

 

異口同音に叫ぶ他3名。

その顔は誰が見ても紅く、視線で人が殺せるなら確実に死へと至るだろう。

……浩平ちん、ぴんち!

 

 

 「ちょ……ちょっと待て、俺にも何がなんだか……」

 

 

浩平が命の危険を感じ始めた時

 

 

 「……なーんて、冗談だよっ」

 

 

と、詩子が言った。

 

 

 『え………………?』

 

 

三度、目が点になる他三名。

その中で浩平は

 

 

 「く……この折原浩平がカウンターを喰らうとは……やるな、柚木」

 

 

心底悔しそうに呟いた。

彼女の意図を理解したからだ。当然本音に気付いているはずもない。

こんなとき、人はこう言う。

……バカばっか、と。

 

 

 「浩平くんが冗談言うからお返しだよ。別に本当にしてくれても良いんだけど……

 

 「ちっ、まぁ仕方ねぇな。で、さっきの話だが一体何が言いたかったんだ?」

 

 

詩子の呟きを風と流し、彼は話題を元に戻した。

そうしないと自身の命に関わることを本能で理解していたからだ。

停滞する他三名を放っておいて、詩子は語りだす。

 

 

 「ほら、最近通り魔事件ってあるじゃない」

 

 

浩平はああ、と頷いた。

DDでも話題になっている事件だ、知らぬはずがない。

やり口は普通の人間には不可能、最低でも能力持ちの人間か……帰還者の仕業。

 

 

 「今をときめく女子高生の詩子さんからすれば怖くて怖くて夜一人で居られないの。

  眠っているときに襲われるかも知れないじゃない? 

  だから浩平くん、あたしを浩平くんちに泊めて欲しいなぁ〜なんて思ってるんだけど。

  そりゃあ勿論お礼の一つや二つ、あたしの身体で払わせて頂きます」

 

 「阿呆。誰が?」

 

 「しいこさんが」

 

 「誰と?」

 

 「浩平くんと」

 

 「何で?」

 

 「女の子だから」

 

 

放っておけばいつまでも続きそうな会話を打ち切ったのは他三名の一人にして

詩子を最もよく知る彼女の幼馴染、茜だった。

 

 

 「いい加減にしてください詩子。それ以上戯言を言うのなら少し反省して頂きますよ?」

 

 

茜の金色の髪が重力に反発してゆらゆらと揺れる。

彼女の所有する能力『髪操作』だ。

茜の能力は特殊カテゴリーに分類され、自分の髪を己の意思で操ることが出来る。

彼女は自身の髪を武器として扱うので、何と言うか……殺る気満々と言った感じか。

 

 

 「うう……茜怖い〜」

 

 「当たり前です、怒ってますから」

 

 「じゃ、じゃあ茜も一緒ってのはどうかな?」

 

 「は?」

 

 「あたしと茜と浩平くん。それなら良いでしょ?」

 

 

ピクッ、と動きを止め、思案する茜。

俯き、頬を赤く染め、逆立てた髪を下ろす。

 

 

 「浩平、よろしくお願いします」

 

 

彼女は浩平の机に三つ指をつき、深々と頭を下げるのだった……。

 

 

 「ちょっと待てやーーーーぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

その後彼がどうなったかは……推して知るべし。

その光景を見ていた他の生徒たちは意図的に視線を外していたことだけを記す。

 

 

 

 

 

 

現実とは異なる場所。

時間の定義から逸脱し、死に等しい永劫の生命を宿す世界にて。

 

『其処』には白い人間がいた。

正確には人間だった“もの”だろうか、何故なら『それ』は帰還者なのだから。

そう、『此処』は“永遠の世界”。

世界に絶望し、人を捨て、人に忘れられた存在の巣食う場所。

 

『それ』は全身が白かった。

白いマントに身を覆い、頭を隠すフードですら白く、垣間見える顔色は青白く、

老人のように白く染まった髪、唯一色が違うのはそのギラギラ輝く紅い瞳だろう。

捕食するのを待つ獣の如く、闇を羽ばたく蝙蝠の如く、その眼差しはどこか危険だ。

 

 

 「血が足りねぇな……喉が渇いて仕方ねぇぜ」

 

 

『それ』は怨嗟の篭った声で唸る。

酷く詰まらなそうに男は首を動かす、弾みでフードは取れ顔が露わになる。

まるで伝説にある吸血鬼のように冷たい貌。

 

 

 「茨迎(しげい)……何をしている?」

 

 

茨迎(しげい)とは『その男』の名前、彼の後方にはもう一人男が立っていた。

どこにでも居そうな青年、これといった特徴がなく人ごみに紛れれば発見するのが

困難であるほど地味な雰囲気……『永遠の使徒』が一人、禅である。

 

 

 「あ? 何してようが俺様の勝手だろうが、負け犬さん」

 

 

茨迎は後ろを振り返って嘲り笑う。

 

 

 「何だと」

 

 「事実だろ? 闇の宝珠も回収できずにおめおめ逃げ帰ってきた禅さまよぉ〜」

 

 

ヒャッヒャッヒャッと気分が悪くなるような笑い声を上げる。

 

 

 「あん時は他の連中もいたから庇ってやったがな、無様なことには変わりねぇだろ?」

 

 「茨迎……っ」

 

 

音を立てない見事な歩法で茨迎に近づき、彼の胸倉を掴みかかる禅。

グッと引っ張り上げられながらも、口元はにやついたまま。

 

 

 「雑魚はすっこんでな……っ」

 

 

ドシュ!

 

 

鋭利な何かで肉を貫いた音がした。

それは牙、それは棘。

それは茨迎の腹から伸びた鋭利な槍。

白く染まった棘は禅の腹部を貫き、赤に彩りを変えていく。

 

 

 「ぐ、が……」

 

 「邪魔すんじゃねぇよ。俺様は喉が渇いてるんだ、てめぇの血なんざ飲んでも

  美味くもなんともねぇんだよ。やっぱ人間の血が一番、ってな」

 

 

醜悪な笑みを浮かべて茨迎は『其処』から消えた。

永劫の世界、“何も無いが故に全てが在る”その場所に残されたのは

荒く息つく禅だけだった。

 

 

 「ぐ……奴はやはり我らの計画には役に立ちそうもない……ごほっ」

 

 

通り魔が殺戮の幕を開ける――――。

 

 


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