Eternal Snow

57/閑話・巡る運命

 

 

舞人に定められた運命は抗えぬ世界意思。

忘却の罪を背負った彼は償いの唄を歌う。

それは舞い散る桜のように、儚く、罪深く、悲しく。

 

しかし運命は過酷であり皮肉。

罪と業を背負ったのは舞人だけではない。

たとえそれを本人が自覚していなくても。

少年は関わってしまった、本来相容れぬ存在に。

それは罪なのか、償うべきものなのか? 

少年はまだ何も知らない。

けれど輝く夜空のように、希望が、夢が、未来がある。

課せられた運命の重みを未だ知らぬ少年の名は――『佐伯和人』。

 

 

 「さてと、おつかいも済んだし帰らないとね。お母さんがうるさいし」

 

 

まだまだあどけなさの残る少年、桜井舞人の弟分こと

佐伯和人はスーパーの袋を下げながら我が家へと帰る所であった。

すーぱー(唯我独尊)主婦と舞人に呼ばれる和観の息子だけあり、彼の生活力は

同年代の子供たちから比べると雲泥の差だ。

服は全てバーゲン品で賄い、食材は基本的に買い叩く。

 

僅か10歳そこらの子供が平然とやることではない。

彼の幼馴染である少女達もそれが当たり前だとして育ってしまった。

いいことなのか悪いことなのか、いまいち判断がつかない。

誰もそれに異論を挟まないのなら良いのだろうが。

 

彼は帰宅の途に付きながら公園の辺りへ来た。

幼馴染たちとよく遊ぶこの場所は、和人にとって自分の庭と同じ。

砂場・滑り台・ジャングルジム・鉄棒・うんてい・ブランコ。

たったこれだけの道具で何時間も何時間も遊んでいられる、それは子供の特権。

だが、彼には役目がある。

子供であるが故に、無邪気でいられるのは今のうちだけ。

彼には護るべきものがある。

それを本人が自覚していなくても、彼には課せられた使命があるのだから。

 

 

 「あ……寄り道なんてしてたってお母さんにばれたら怒られるな」

 

 

和人は足早に公園を去った。

それが最も正しい判断であったことを彼は知らない。

その異質な空気、何の変哲もない空気。

永遠の扉、帰還者と呼ばれる者。

 

そこには少年がいた。

誰にも存在を悟られることなく、誰にも理解されない。

遠い過去に失われた自己を求めるように、そこに立つ者が。

淡く銀に輝く灰色の髪は、理性の象徴であるかのように。

駆け出した和人を慈愛と憎悪の目で見つめていた。

 

 

 「……そうかい、彼がそうなのか……。“桜を守護する者”、か。

  僕から『香る桜』を奪う存在、君はまだ気付いていないみたいだけど、少年? 

  聞こえるかい舞人。ゲームは始まったばかりだ。

  せいぜい平和とやらを楽しむんだね? アハハハハ……」

 

 

答えなど期待していない、彼は耳障りな笑い声をその場に残して消えた。

誰も彼には気付かぬままに。

 

 

 

最も悪しき存在。

最も『根源』に近しい存在。

自らの願いのために、自らの安息のために、永劫の時間を刻む者。

それがいかに独善的であろうと、それがいかに傲慢不遜であろうと、

それが自身の存在意義に関わる以上、彼は己を見失わない。

酷く純粋で、酷く薄暗く、酷く異質。

永遠という根源に辿り付いた超越者――『完全なる帰還者(perfection=returnner)』。

 

 

 

彼と対極に位置するのは桜井舞人その人。

生きることを諦めず、護りたい者のためにその刃を振るう者。

 

彼と戦うべき運命(さだめ)にあるのは佐伯和人その人。

未だ目覚めぬその大きな力は誰のために? 

希望の刃は彼の手にはまだないけれど、いずれは得ることになるだろう。

それは遠くて近い未来の話。

そう、宇宙に浮かぶ星の様に、今はまだ眠れ……英雄となる者よ!

 

 

 

 

少しずつだが確実に時を刻む物語。

それは酷く稚拙な英雄讀。

序章は未だ終わらずとも、闘いの運命は彼らを縛る。

 

 

 

破壊の蛇王を蝕む悪夢――――

悪夢がただの夢に成り果てることはなく――――

彼が大蛇であることは何の皮肉か――――

誰よりも過酷で、誰よりも幸せな者――――

その幸せは永劫のものではないとしても、それでも心を癒す魔法――――

未だ彼の元には全て揃わず――――

残されし悪夢の元凶はあと6つ――――

 

 

 

恋人を永遠に奪われ、永遠を憎む蒼き龍神。

恋人を永遠に奪われ、その命すら狙われる白き獣神。

恋人が永遠に連れ去られるのを救えなかった紅き鳳凰。

恋人を奪われ、復讐に身を焦がし続ける灰燼の甲竜。

恋人を運命によって失い、その過ちを償い続ける紫紺の蛇王。

恋人を永遠によって奪われ、愛を求めるために過ちを犯そうとする永遠の使徒。

 

 

交差しはじめるCross Road。

鐘は鳴り響く。

序幕はまだ終わらない。

次の演目は『たったひとつの輝く季節へ』

 

 

 

 


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