Eternal Snow

53/Protect Cancellation

 

 

夢を見る。

それはいつもと同じ夢。

幼い頃から何度も見続けてきた夢。

 

いつの頃からかこの夢をこう呼ぶようになった。

 

忘却の罪。

追憶の罰。

償いに残された物語。

 

誰かが自分の傍にいる。

見たところで誰かなんて判らないのに、それでも目を背けるわけにはいかない。

 

雪。一面に広がる白銀の世界。

幼い自分。幼い誰か。

 

初めて見る光景。

ずっと昔から見続けてきた夢なのに、雪が積もっているのを初めて見た。

幼い自分の傍に誰かがいる。

 

 

 『いれて……』

 

 

か細い少女の声。

赤い傘を差して、自分を見つめる女の子。

自分の周りには他にも同い年くらいの子供達がいる。

誰も少女に声を掛けない。

自分も含めて。

 

 

 

場面が急に移り変わる。

少女はいつも自分の隣にいた。

自分も少女も成長している……丁度今の自分と『○○○』のように。

 

微笑む少女。自分は彼女を邪険に扱って……彼女はいつも笑っていて……。

いくら邪魔だと言っても、彼女はいつも自分の傍にいてくれて……。

 

 

――いつもあいつに感謝していたのに、素直じゃない俺はいつもあいつを傷つけてばかり。

 

 

謝らないままに時が過ぎて。

優しさに甘え続けて。

その想いを踏み躙り続けて。

 

 

――『 』は俺を愛してくれて……俺は『 』を……愛していた……。

 

 

視えない名前。

聞こえてくる少女の声。

心が彼女の名前を叫ぶ。

顔の見えない少女の姿が、初めて、自分の前に現れて。

笑顔を絶やさない……俺の前では決して泣かず……隠れて涙を流すあの女の子……。

 

 

 

なぜ、いままで、おもいだせなかった? 

なぜ、いままで、だきしめてやらなかった? 

俺は、あいつを、こ……を、愛していなかったのか?

 

 

 

わすれてはいけなかった。

そう、

 

 

――――『雪村』は俺を愛してくれて……俺は、『小町』を……愛していた……。

 

 

 

 『恋なんてするものじゃないですね……どうしてくれるんですか……』

 

 

 

俺達は忘却の罪にまみれていく。

『 』である俺は人を好きになってはいけなかったのに……。

俺は、あいつを、小町を……愛してしまったから。

 

 

――――ぼくは、さくらいまいとは、ゆきむらこまちを、かなしませてしまった。

 

 

 

 「こ……ま……ち」

 

 

舞人は夢うつつにその名を呼んだ。

目の端に薄く涙を湛えて。

今このとき、舞人は初めて彼女の名前を呼んだ。

 

 

 「せ、んぱい?」

 

 

彼の汗を拭っていた小町は思わず手を止める。

今、彼は自分の名前を呼んだ。

大きくなってからは一度も名前で呼んでくれなかったのに……『こまち』と。

 

舞人の瞳がゆっくりと開かれる。

最初に目に映ったのは小町の顔。

夢の続きかと思った。夢の登場人物が誰なのか初めて知った。

記憶が混濁する、左手の宝珠が何度も何度もざわめく。

 

彼は無意識のうちに力を使っていた。

“事象を改変し、万物を改変し、法則を改変する”力

彼だけに与えられた最強の能力――アルティネイション。

 

自分に何故この力が眠っているのか考えたことがある。

人に過ぎたる大きな力。

いくら考えても答えは出なかった。

 

だが、今なら理解出来る。

改変の力は『償いの証』。

 

 

まもりたいひとを、かけがえないひとを、うしないたくないひとを、

どうしようもなく、てばなしたくないひとを

 

愛するために与えられた

 

つぐないのちから。

 

 

 「――アルティネイション」

 

 

 

夢が現実に変わる。

 

舞人が小町を愛していた記憶。

小町が舞人を愛していた記憶。

二人を結び付けていた記憶の欠片は、それが例え僅かなものであったとしても

今、二人の心の中に宿っていた。

 

 

 「せんぱい……っ」

 

 「……小町」

 

 

小町は舞人の腕に抱きしめられていた。

何度も夢に見たあの光景のように。

涙を流して、幸せを味わっている自分。

 

 

断片的に流れ込んでくる過去の記憶。

その全てを理解出来ているわけではないけれど、そんなことは関係ない。

必要なのはこの温もり。

唇に伝う、この優しさ。

ただ、それだけ。

 

空に昇る月が舞人と小町を優しく照らす。

 

月が輝き、映し出す二人の姿。

信じよう、遠き日のやすらぎの記憶は、ここにあると――。

 

 

 

 


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