Eternal Snow

5.5/続・パーティ

 

 

 

 

その頃、祐一はというと。

 

 

 

 『これも食べて!!』

 

 

 

名雪と舞と香里の必死のアピールに蹴落とされ、腹を膨らませているところだった。

あらゆる意味でこれに勝る幸せはあまりないと思われる。

 

 

 

 

唯一その話題に加われないあゆは

 

 

 

 『うぐぅ……絶対に美味しい料理を祐一君に食べて貰えるように頑張る!』

 

 

 

一人密かに闘志を燃やしていた。

いずれ日の目をみることもあるだろう、彼女が努力を怠らぬ限り。

 

 

 

 

 

食事の次は何故か特技披露とあいなった。

何故かと聞かないで欲しい。

突然真琴が

 

 

 

 「まこといっちば〜ん! 曲芸やるわよぉ〜!」

 

 

 

愛用の鎖鎌――『震』を構え、テーブルに置かれていた

りんご・バナナ・メロンを三メートル先から

『全て』17分割したのを皮切りに

 

 

 

 「二番栞! 曲撃ちしますっ」

 

 

 

周囲の空気を弾丸に変換する魔銃――『トーラード』を構え、

真琴が分割した果物に一つ残らず弾痕を残し、

 

 

 

 「三番美汐。……未熟ではありますが……繋ぎます」

 

 

 

薔薇の名前を冠する彼女の鞭――『ローゼス』を巧みに操って

二人が破壊した果物を元の形に戻す。

 

 

…………ちっとも未熟ではない。

 

 

 

 

 

とにかく、特技お披露目会となったのだった。

 

 

 

頼みもしないのに続ける少女達。

 

 

 

 「四番佐祐理、分身しますよ〜」

 

 

 

能力――『幻影』によって生み出された5人の佐祐理は

オリジナルと合わせて6人で見事なステップを踏み、

見ごたえあるダンスを披露した。

同じ顔ばかりで疲れたのはご愛嬌。

 

 

 

 「五番舞! 無重力体験の時間だよっ」

 

 

 

彼女の所有能力――『運動停止』によって周辺の『力場を消去』し

擬似的に無重力空間を作り出す。

食べ物から飲み物から何から空中にプカプカ浮いている。

実体のないものに『運動停止』をかけるのは容易なことではない。

舞の実力の高さが窺える。

 

 

 

 「六番あゆ、祐一君の未来を見ます」

 

 

 「おいちょっと待て」

 

 

 

当然あゆは待たない。

能力――『未来視』。

文字通り未来を覗き見る力。

認識範囲と時間は彼女のコンディションに左右されるため

時間にして数時間先、物事を限定して見るのが普通だった。

その分精度は良く、彼女の見た未来の的中率は高い。

 

 

 

 「きゃっ!」

 

 

 

突如あゆが両手で顔を隠す。隙間から見える顔色は赤かった。

 

 

 

 「どうした!? 何を見た!?」

 

 

 

祐一は焦る。

 

 

 

 「うぐぅ……祐一君の入浴シーン」

 

 

 「アホかっ!」

 

 

 

至極正しい意見だった。

が、

 

 

 

 『えーー!? いいなぁ〜〜〜!!!!!』

 

 

 

一部からそんな声が上がった。

 

 

あえて、誰かは問うまい。

 

 

一応本人『ら』の名誉のために。

 

 

 

 「次、あたし? はぁ……。七番香里、花火」

 

 

 

香里がそう言った次の瞬間、彼女は消えた。

代わりに現れたのは色とりどりの炎の花。

彼女は消えたわけではなかった。

 

 

能力名――『加速』。

自分の肉体に力をかけることで普段の何倍ものスピードを発揮する力。

 

香里はこのリビングにいるのだ、誰の目にも認識できない速さで移動しながら。

勿論それだけでこの光景を作っているわけではない。

 

秘密は彼女の両腕に装着された手甲――『ドミニオン』。

周辺の酸素を火に変換するこの武器と彼女の能力が合わさることで

初めてこの炎の花は咲き乱れる。

 

 

 

 「八番名雪、踊るよ〜」

 

 

 

彼女らしい間延び口調で一礼し、愛用の杖――『風薙』を取り出し

日本舞踊もかくや、という舞を踊る名雪。

彼女のロッドと舞が生み出す風が、香里の生み出した炎の花を散らしていく。

炎の花に彩られた名雪の姿は、実に幻想的で美しかった。

 

 

 

 「え、えっと……ぼ、僕ですか? きゅ、九番一弥、物真似します」

 

 

 

 『はい?』

 

 

 

一同の心の声がハモる。

ここまで皆が行った特技はかなりの域に達する。

物真似というあまりに普通なネタに彼女達の気が抜けた。

 

一弥はリビングを飾っているすずらんテープを適当に切って頭に載せる。

ぱっと見、髪が長いように『見えない』こともない。

 

 

 

 

 

 

一弥は息を整えて――――――――――――

 

 

 

 「あはは〜、佐祐理はお姉さんなんですよ〜。えらいんですよ〜」

 

 

 

流石は弟。声の質が実に似ていた。

 

 

 

 『……………………』

 

 

 

女性陣の時間が止まる。

 

 

 

 「ブラボーォォォォッ!!! 一弥! よく似てたぞ!!!!」

 

 

 

祐一には大ウケだった。

兄心を働かせたわけでは決して無い。

 

 

 

 「良かったぁ……ほっとしました」

 

 

 

祐一が褒めてくれたことで一弥に安堵の表情が浮かぶ。

 

 

 

 「……………あはは〜……………」

 

 

 

彼は不幸にも気がついていなかった。

自分の行為が姉の逆鱗に触れたことを。

この瞬間、彼の未来は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

だからせめて、この言葉を送ろう―――――――――――

 

 

 

合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか外は暗くなっていた。

しかし水瀬家の宴は止むことはない。

むしろより一層の盛り上がりを見せていた。

 

 

何故なら―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングに転がる瓶の山、山、山。

 

 

 

 

誰の目から見ても明らかに、酒が振舞われていたからだ。

 

わかっていると思うが、今この家にいる大人は秋子しかいない。

もう一人、秋子の夫である賢悟もいるが、まだ仕事から帰っていない。

残りは全員未成年だ。

日本で飲酒が認められているのは20歳から。

一番年上である佐祐理でもまだ18歳なのだが……。

 

 

 

 「あはは〜♪ 相沢佐祐理ばんじゃ〜い♪」

 

 

 

昼間の嫁発言がかなりお気に召したらしい佐祐理。

 

 

 

 「ぐしゅぐしゅ……私は恋敵を狩る者だから、ぐしゅぐしゅ……だから死んで」

 

 

 

良く手入れされた彼女の剣――『サイサリス』を手に

何もない空中を泣きながら斬り続ける舞。

 

 

 

 「うにゅ……わたし祐一食べれるよ〜。ていうか食べるお〜」

 

 

 

あらゆる意味で恐ろしいことを言う名雪。

寝言のようだ。糸目だし。

彼女が糸目である場合、90%以上寝ている可能性が高い。

名雪の真の特技は、寝ながら活動することである。

 

 

 

 「あぅ〜♪ あうー、あぅ!? ぁう〜……あうあうあう」

 

 

 

以下ENDLESSな真琴。

酔った彼女に制御はない。

 

 

 

 「♪♪ 言葉通りね♪」

 

 

 

ご機嫌な香里。

……いや何が?

 

 

 

 「ボクのこと……好きにしてください」

 

 

 

虚空に向かって服をはだけさせるあゆ。

胸がないのが強調されて、興奮するよりも切なくなるのは何故だろう。

 

 

 

 「味が薄いですねぇ……」

 

 

 

料理をつまみながら、それらにタバスコをかけ自らの口に運ぶ栞。

彼女は甘党である。辛いものは人類の敵と断言する少女だった。

 

 

 

 「ふぅ……美味しいです♪」

 

 

 

純粋に酒を楽しんでいるらしい美汐。

彼女は大丈夫なようだ。

 

 

ゴトン

 

 

彼女の横に空けられた酒瓶が転がった。

その数10本弱。

前言撤回、彼女は既に出来上がっていた。

 

完全に収集がつかない。

もう気分はハイテンション。

素面なのは三人だけだった。

 

 

 

 「秋子さん、何で酒なんて出したんですか?」

 

 

 

秋子は頬に手を当てて

 

 

 

 「困っちゃいましたねぇ」

 

 

 

全然困っているようには見えないが。

たぶん確信犯だと思われる。

それでも憎めないのは彼女の人徳だろう。

 

 

 

 「放っておきましょう、兄さん」

 

 

 

満身創痍になった一弥が言う。

姉の怒りは相当なものだったらしい。

 

 

 

 「おいおい」

 

 

 「ああなった姉さん達は寝るまで止まりません」

 

 

 「随分冷静だな」

 

 

 「……僕の歓迎会がありましたから」

 

 

 

その時の苦労が目に浮かぶ祐一だった。

 

 

 

 「…………ご苦労さん」

 

 

 

いろんな意味で。

 

 

 

 「はい……」

 

 

 

噛み締める一弥。

その時、二人の男は理解しあったのだった。

や、元々理解し合っているけど(兄弟?だし)

 

そのまま夜は更けていくのだった。

 

 

 


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