Eternal Snow

36/舞人と愉快な仲間達

 

 

 

舞人と希望は階段で三人と別れた。

二人のクラスは2−A。

別名特Aクラス――クラス判定試験に合格した者を中心として構成される

学年でも優秀な(はずの)クラス。

 

 

 

――――――誰もが思った、舞人が何故このクラスに入っているのか?

 

 

 

と。

 

幼馴染の希望ですら思ったのだから。

だが別に不思議な話ではない。

この試験は全クラスで執り行ったもので、実技試験のみならず筆記試験として

DDEの心構えやその他知識面を調べたものであったため、

“シスコンだー”とかなんとか言っても、

仮にもDDE最強を誇る神器の舞人は筆記試験満点という快挙を成し遂げた。

よってこのクラスにいるのである。

 

当然学園の教師たちは首を捻る、いくら成績が良くても

彼を入れるのは不味くないか? と。

だが、一人の熱意ある教師の

 

 

 

 『桜井は俺が何とかします!』

 

 

 

という一言と

 

 

 

 『筆記試験で満点を取った人を落とすというのはいささか問題があると思います』

 

 

 

という桜坂学園戦術顧問である現役DDEの意見によって許可されたのである。

しかし、実はその戦術顧問が舞人と直属関係にあることは知られていない。

 

 

 

 


 

 

 

 

教室の中には既に幾人もの生徒が登校を済ませていた。

始業チャイムがなるまであと10分、まぁこんなもんだろう。

席へと赴く舞人、するとそこには

 

 

 

 「おっす、さくっち」

 

 

 「よお舞人」

 

 

 

さわやかに笑う二人の友人がいた。

 

 

 

 「………………………………」

 

 

 

と、いつもならやかましく挨拶を交わすはずの舞人はただ静かにカバンを置いた。

友人を無視したまま、希望の席へと行く。

 

 

 

 「星崎よ、実は階段の途中で思い出したのだが、今日の数学の宿題を忘れていた。

  ノートを貸して頂こうか」

 

 

 

借りる者にあるまじき大きな態度。

 

 

 

 「え? もう〜、しょうがないなぁさくっちは。たまには自分でやってきなよ」

 

 

 

カバンを置いた希望は、苦笑いで舞人にノートを渡す。

 

 

 

 「ふ、この俺が自主的に宿題をやるわけがない」

 

 

 「自慢できることじゃないよ〜」

 

 

 

全くだ。

 

 

 

 「っておいおい舞人。朝の挨拶もないとはひどいじゃないか」

 

 

 「やかましい。今の俺にノート以上に優先することなどないわ」

 

 

 「なにっ! 舞人てめぇ、だったら何で最初に親友たる俺にそれを言わない!」

 

 

 「ほほう、ならばお前はやってきたのか?」

 

 

 「いや、だから今八重樫さんに借りようとしてたところだ」

 

 

 

……どっちもどっちである。

ちなみにこの男は『相楽 山彦』。

舞人の親友にして唯一の男友達。

桜坂学園美男子五傑に入るほどのルックスの良さを誇り、

髪は白髪っぽい銀色に染めている……いやみったらしい外見だそうだ(舞人談)。

 

それを言うなら舞人も外見はいいのだが。

奇抜な性格とかをどうにかすれば絶対に人気出るだろうに。

一年の頃にクラスメートの『高橋』とやらが舞人に気が合ったのは事実なわけだし。

となるともし神器であることがバレたら……物凄いことになるのは想像に難くない。

 

 

 

 「あんた達ってほんと気が合うわね」

 

 

 

幾分呆れた声の女生徒。

彼女の名前は『八重樫 つばさ』。

緑色に染めた髪が外ハネしている美少女。

わかる方はONEの某キャラクターを想像して頂けると判り易いのでは。

学年でも最優秀と謳われるほど学業面でも戦闘面でも優れている。

ランクはA3。

2−Aの女子学級委員……相方は舞人。

 

 

 

 「おお八重樫ではないか。……そうだ、コレ」

 

 

 

今更居たことに気付いたらしい。

舞人はカバンから子供用らしい財布を取り出した。

 

 

 

 「あれ? それイクイクのじゃない」

 

 

 「ああ。一昨日うちに来た時に忘れていったのだろう。

  本当は桜香に渡しておけば良かったのだろうが、伝えるのを忘れていた。

  悪いがお前から渡しておいてやってくれ」

 

 

 「そ、ありがと。……ところで中身盗んでないわよね?」

 

 

 「ぷじゃけたことをぬかすな。ガキの金を盗むほど困った覚えはない」

 

 

 「や、変なこと言って悪かったね。ちゃんと渡しとくよ」

 

 

 「うむ」

 

 

 

『イクイク』というのはつばさの妹、『八重樫 郁奈』のことである。

舞人の妹、桜香の幼馴染であるためよく桜井家に遊びに来るのだ。

結構舞人にも懐いていたりする。

同い年の妹を持っているからか、舞人とつばさは色んなことで気が合う関係だった。

 

 

 

 「ところでさくっちとヤマ。

  提出は一時間目だから無駄口叩いてる暇あるなら手動かしなよ。

  あたしとゾンミを巻き込まないように。

  もし片方でも破ったら……二度とノートは貸さないからそのつもりで」

 

 

 

そう言ってつばさは希望の席へと歩いて行った。

ちなみに『ゾンミ』とはつばさの希望に対する呼称である。

 

 

 

 「なに! お、おい舞人っ。全力で手を動かせ!」

 

 

 「俺に言う暇があったらお前も動かせ!」

 

 

 

二人は互いを罵り合いながらせっせとシャープペンを走らせていく。

 

 

 

 「ねえ八重ちゃん。ちょっと厳しいこと言いすぎかも」

 

 

 「そんなことないって。普段から人のこと頼り切ってんだから。

  やっぱりゾンミはさくっちには甘いやねー」

 

 

 

その姿を肴にしながら、希望とつばさは笑いあう。

笑いあうと言っても一方的につばさが希望をいぢめているだけ。

正直なところ、舞人という少年に幼馴染以上の感情を抱いている

希望はこういう話題には滅法弱かった。

 

桜井舞人・星崎希望・八重樫つばさ・相良山彦。

人呼んで『舞人様と愉快な仲間たち』

 

 

 

――――――無論、舞人の独断である。

 

 

 

クラスメートたちは口々に言う。

なんであそこに桜井がいるのか? と。

舞人は決して非社交的な性格ではない。

むしろ明るく、話題には事欠かないのだが友人は少なかった。

クラスでも仲がいいのは彼ら三人だけ。

 

色々な理由があるが、その最たるものはやはり神器であるからだろう。

不用意に心を許せる者を作らない。

悲しいことなのかもしれない。

けれど、彼は内心こうも思うのだ。

 

 

 

 「上辺だけの友達が何人もいるよりは、心から信頼できる親友が一人いればいい」

 

 

 

それは、舞い散る桜のように、孤高な考えなのかもしれない。

それは、舞い散る桜のように、寂しい考えなのかもしれない。

 

だが彼はそれでいいと思うのだ。

何故なら舞人には最高の親友たちがいるのだから。

 

舞人・希望・つばさ・山彦。

彼らの友情はいい意味で無敵なのかもしれない。

 

そして舞人にはかけがえない親友がいる。

祐一・浩平・一弥・純一。

彼らが舞人の親友である限り、舞人はずっと笑っていられるだろう。

 

 

『友情』

 

 

それは、舞い散る桜のように、美しいものなのだから――――。

 

 

 


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