Eternal Snow

26/おてんこ旋風接近中!

 

 

 

眞子と萌が出会った人物は間違いなくさやかその人であった。

純一と蒼司は訳を説明し、話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――それはしばらく前のこと。

 

 

 

 

 

 

 「お姉ちゃん、なんで一緒に来るの?」

 

 

 「だって、眞子ちゃん。お洋服新しいの買うんでしょう? せっかくですから〜」

 

 

 「まぁ、そりゃ別にいいけど……」

 

 

 「でも他にも一杯洋服あるのに、急に新しいのが欲しいだなんて〜。

  朝倉君とデートしたいからですね〜〜」

 

 

 「ちちち、違うわよ! 朝倉なんて関係ないってば!!」

 

 

 「照れなくてもいいんですよ。眞子ちゃん、女の子なんですから」

 

 

 「だから違うってば!」

 

 

 「本当ですか? 確かこの間映画のペアチケット貰ってましたよね」

 

 

 「な、なんで知ってるのよ!?」

 

 

 「判りますよ〜。あんなに嬉しそうにしてたんですから」

 

 

 「うーーー。お、お願い、朝倉には黙ってて」

 

 

 「はい、いいですよ」

 

 

 

……閑話休題。

と、まあこんな会話をしているときに彼女達はさやかと遭遇したらしい。

ちなみに会話の内容は二人には伝えていない。

 

 

 

 「あの〜、すみません」

 

 

 

白い帽子を被った女性が二人の前に現れる。

 

 

 

 「あ、はい。何ですか?」

 

 

 

眞子が律儀に答えようと彼女に相対した。

 

 

 

 「道に迷ってしまって、教えて欲しいのですが……」

 

 

 

女性は少し遠慮がちに訊ねてきた。

 

 

 

 「あ、はい。どこですか?」

 

 

 「えーと、朝倉純一って人の家なんですけど」

 

 

 「あ、朝倉ぁ!?」

 

 

 「あ、お知り合いですか?」

 

 

 

眞子は思わず大声をあげてしまったことを恥じた。

 

 

 

 「はい。お友達なんです」

 

 

 

萌が眞子に代わって答えた。

 

 

 

 「そうなんですか〜」

 

 

 「そうなんですよ〜」

 

 

 「そうですか〜」

 

 

 「そうですよ〜」

 

 

 

“ほわほわ”というオーラを発する二人。

放っておけばいつまでも続きかねない。

 

 

 

 

――――眞子は初めて、姉と対等に渡り合える人物がいたことを知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ああ、確かにさやかさんなら萌先輩と波長合うだろうなぁ」

 

 

 「純一君、それ、先輩のこと褒めてませんね?」

 

 

 「うっ! わ、忘れてください今の言葉は!」

 

 

 「仕方ないですね。気をつけてくださいよ、純一君」

 

 

 

純一はびびった。

彼、上代蒼司はキレると怖いのだ。

一度キレるとさやかを超えるほどの力を発揮するという。

さやかが侮辱されたりした場合のみという限定的なものであり

しょっちゅう庇っていたら彼女のためにならないのでそう簡単には怒らないが。

恋人冥利に尽きるだろう。

さやかは良い男性に巡り逢ったものだ。

それはともかく。

 

 

 

 「……で、その後はどうなったんだ?」

 

 

 

気を取り直して問いただす純一。

横の蒼司はいつも通りにこにこ笑っている。

その隠された本性がわかると結構怖かった。

 

 

 

 「どうもこうも……その人妙にお姉ちゃんと気が合ってさ。

  なんか色々話して、いつの間にか意気投合して、気が付いたらどこかに行っちゃったわよ」

 

 

 「……てことは今どこにいるのかは……?」

 

 

 「全然知らない」

 

 

 「ふぅ、まったくしょうがないですね。さやか先輩も。

  えっと、眞子さんと萌さんでしたか? 先輩がご迷惑掛けたみたいで

  申し訳ないです。しっかり注意しておきますので

  今日のところは犬に噛まれたとでも思ってくださると嬉しいです」

 

 

 

侮辱されると怒るわりには、自分で言うのは構わないらしい。

まぁ、恋人だから許されるのかもしれない。

気にしないことにしよう。

 

 

 

 「え、いや、別にいいですけど……」

 

 

 「楽しかったですから気にしないで下さい〜」

 

 

 「それは良かった。それじゃあここで失礼させて頂きますね。

  次、行きましょうか純一君」

 

 

 「了解です」

 

 

 

純一と蒼司は二人に丁重に断りをいれて、再び捜索の道を歩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

休日というものは実に知り合いに会いやすいものである。

しかも初音島のように島ならば尚更だろう。

 

 

 

例えそれが最悪な出会いだとしても……。

 

 

 

 「マイ同士朝倉ではないか。昨日振りだな。相変わらず元気そうで何よりだ」

 

 

 「……げ、杉並。何故ここにいる?」

 

 

 「おかしなことを言う。俺とてこの島に住んでいるのだ、当然のことよ」

 

 

 「(お前なら転移術使えそうだからな……舞人さんじゃなきゃ無理だが)

  ついでに……さくらよ。お前、何で杉並と一緒なんだ?」

 

 

 「うにゃ〜。これには色々とわけがあるんだよ〜、ね? うたまる」

 

 

 「にゃ〜」

 

 

 

そう、さくらと杉並が一緒にいたのである(うたまるも)。

 

 

 

 「訳? 俺は今忙しいんだ、悪いが構ってられん」

 

 

 「それはつまらんな。あのらぶり〜・ば〜にんぐ氏と話した武勇伝を語ろうと思ったのだが」

 

 

 「ら、らぶりーばーにんぐ?」

 

 

 

なんだそりゃ?と純一は思ったのだが……。

蒼司は違ったらしい。

 

 

 

 「え? さやか先輩がいたんですか?」

 

 

 

と、杉並に訊ねる。

 

 

 

 「は? ちょ、ちょっと蒼司さん。なんでそこにさやかさんが出てくるんです?」

 

 

 「ああ、純一君は知りませんでしたか。らぶり〜ば〜にんぐというヘンテコな名前は

  先輩のP.Nなんですよ。先輩は趣味で詩集を出してましてね、その名前です」

 

 

 

ヘンテコであるという自覚はあるらしい。

 

 

 

 「ほう、あなたはらぶり〜氏のことをご存知のようだ。

  とすると……氏の恋人という蒼司殿か?」

 

 

 「え? そこまで知ってるんですか。まぁ、そうです。

  僕は上代蒼司、純一君の古い知り合いなんですよ」

 

 

 「それはそれは。ご挨拶が遅れました、俺は杉並毅といいます。

  そこの朝倉の友人です」

 

 

 「ご丁寧にありがとうございます。そちらのお嬢さんは?」

 

 

 「うにゃ、ボクの名前は芳野さくらだよ。お兄ちゃんの従姉なんだ。

  あと、この子はうたまる、ほらうたまるご挨拶」

 

 

 「にゃ〜ん」

 

 

 「あはは、こんにちは。うたまる君」

 

 

 「にゃ〜」

 

 

 

紹介が終わったのを見計らい、純一が問い掛けた。

 

 

 

 「杉並、本当にさやかさんに会ったのか?」

 

 

 「ああ。つい30分ほど前にな」

 

 

 「そうか、具体的に何を話したのかは訊かん。今どの辺りにいるか判るか?」

 

 

 「せっかちな奴だな。ま、他ならぬ同士だからな。

  氏はどうやら商店街の辺りに向かったようだぞ」

 

 

 「商店街?……なんか嫌な予感がするな」

 

 

 「純一君、とりあえず向かうとしましょう」

 

 

 「そうっすね、んじゃまたな杉並、さくら、うたまる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――その後、純一と蒼司は商店街をくまなく探し回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を見上げると、いつの間にか夕日すら差し込みだしていた。

 

 

 

 「み、見つかりませんね……さやかさん」

 

 

 「困りました。変なところであの人子供っぽいから……」

 

 

 「どうします、一旦うちに行きますか?」

 

 

 「……もう少し探してみてからでいいですか?」

 

 

 「ええ、構いませんよ」

 

 

 

二人は更に一時間、島中を探し回った。

既に一番星が輝いていた。

 

 

 

 「…………戻りますか、蒼司さん」

 

 

 「……ご迷惑ばかりかけて申し訳ない」

 

 

 

純一と蒼司は疲れきった足を引きずり、なんとか家へと辿り着いたのだった。

家には明かり。

音夢は確実に家にいるみたいだ。

こんな時間に帰ってきて怒っているのは間違いないだろう。

 

 

 

 「純一君、訳は僕が説明しますから」

 

 

 「ええ……」

 

 

 

覚悟を決めて家の扉を開ける二人。

 

 

 

 「蒼司く〜ん♪ 純一く〜ん、おかえり〜〜〜♪」

 

 

 「…………………………」

 

 

 「…………………………」

 

 

 

全ての元凶である陽気な声が朝倉家に響いたのであった……。

結局、おてんこ旋風は朝倉家を直撃したらしい。

 

 

 


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