Eternal Snow

19/真実とは常に不条理なものである。by 朝倉 純一

 

 

 

放課後。

それは学生にとって一番充実した時間であろう。

部活に励む者、バイトに勤しむ者、休養を味わう者。

十人いれば十通りの過ごし方がある。

 

 

 

今回はそんな放課後のお話。

 

 

 

風見学園にはその存在を一般生徒に知られていない部がある。

『非公式新聞部』・『非合法新聞部』の二つである。

 

互いに構成人数不明。

『存在はしている』らしいがその実態はエリート揃いの風紀委員会ですら

把握できないという謎の部活であった。

 

一見すると違いがあるようには見えないこの二つの部。

前者はあの杉並を筆頭にその道のプロが揃っていると言われている。

 

『嵐のように現れ、嵐のように去るべし(風紀委員の監査が入る前に)』

 

杉並が語った非公式新聞部の不文律。

非公式新聞部はその軽快なフットワークを武器に捜査の網を潜り抜け

生徒たちに有益な情報を流すことをモットーとしていた。

 

その内容は多岐に渡る。

『テストのヤマ』・『学園のアイドルのブロマイドを製作する』etc。

正直犯罪一歩手前なのだが、需要があるのは事実であった。

 

 

今回の話のメインは非合法新聞部である。

 

噛み砕いて説明するならば、非合法新聞部は違法を簡単に侵す。

『テスト問題の流出』・『学園のアイドルの盗撮写真を売り捌く』etc。

正直犯罪者の集団といえた。

需要がないわけではないが、やはり疎まれているのも事実であった。

 

 

 

 

 

 

――――――――ここは風見学園のどこかにある非合法新聞部の部室。

 

 

 

 

そこで二人の男子生徒が何やら話をしている。

 

 

 

 「で、あの木琴はどれくらいになりそうだ?」

 

 

 「はい。流石にモノが良いですからね、最低でも10は堅いかと」

 

 

 「以前から狙っていたからな。それくらいはいってもらわないと」

 

 

 

話し掛けられた後輩の生徒がカタカタとPCのキーボードを叩く。

ディスプレイにはオークションのページが映り、

シンプルなその画面には『本校2年生、水越萌使用の木琴』

という文字が浮かんでいた――。

 

 

 

――――――――ここは一般生徒に『あかずの扉』と呼ばれている校舎の一角。

 

 

そこに集まったのは、朝倉純一・音夢。水越萌・眞子。

白河ことり・芳乃さくら・天枷美春。そして杉並の8人であった。

 

 

 

 「何? 非合法新聞部の仕業だと?」

 

 

 

美春の報告に純一が返す。

 

 

 

 「はい。おそらく間違いありません、詳しくは杉並先輩が」

 

 

 「……なんでここに杉並がいるのか、とは思ったけど、そういうことか」

 

 

 「随分な言い方だな朝倉よ。俺がいなければ判らなかったことだぞ」

 

 

 「へいへい、悪かったな。で、美春や萌先輩とかは判るとしても

  音夢やさくらまでいるのはどういうことだ?」

 

 

 

 「私は杉並君に集まるように言われたから来たのですが……」

 

 

 「ボクも今日はこの後フリータイムだからお呼ばれしたんだよ」

 

 

 「うむ、この場にいる者達にとっても他人事ではないからな」

 

 

 

杉並は腕を組んで一同を見渡した。

揃っている面子に満足したような様子だ。

 

 

 

 「どういうことだ?」

 

 

 「まぁ待て。物事には順序というものがある。

  ときに朝倉、お前は非合法新聞部がどういった組織か知っているか?」

 

 

 「あ? 知らんことはないが……。それは音夢の方が専門だろ」

 

 

 

話を音夢に向ける純一。

付属時代から風紀委員会の重鎮として活動してきた

音夢の統率力と情報収集能力は侮れない。

 

 

 

 「私だって大したことは知りませんよ。

  被害届は大量に来ているのに行方がわからないんですからっ」

 

 

 

ご立腹という表情を前面に出しながら答える。

 

 

 

 「杉並君の非公式新聞部もですけど」

 

 

 

音夢のその言葉に反論する杉並。

彼にしては珍しく、割と本気らしい。

 

 

 

 「心外だな、朝倉妹。俺と奴らを一緒にするな。

  我々非公式新聞部は『生徒の利益』を優先した学園の裏組織」

 

 

 「全然威張れることじゃないわよ……」

 

 

 「自分で非公式って認めてるしね……」

 

 

 「水越、白河嬢。聞こえているぞ」

 

 

 「そりゃそうよ、聞こえるように言ってんだし」

 

 

 

眞子は悪びれずに言った。

杉並も思うところがあるのか、それ以上文句は言わない。

 

 

 

 「こほん。それはともかく奴ら……。

  非合法新聞部は『自分達の利益』のために学園を利用する地下組織だ」

 

 

 「ふわ〜。怖いです〜」

 

 

 「いきなり怪しい発言を……。ま、大丈夫っすよ、萌先輩。

  どうせ学生なんですから大したことできませんって」

 

 

 「……朝倉、これを見てみろ」

 

 

 

杉並はどこからともなく数枚のレポート用紙の束を取り出した。

そのまま純一へと手渡す。

 

 

 

 「こいつは?」

 

 

 「俺が極秘に入手した非合法新聞部の商品リストだ」

 

 

 「商品?」

 

 

 

純一の脇から資料を覗き込んだ音夢が問う。

しかし、純一がレポートを手元に引き込んだために内容までは判らない。

 

 

 

 「……おい杉並。こいつは本当に行われているのか?」

 

 

 

ざっと中身を確認した純一の気配が僅かに強張るのをこの場にいる全員が気づいた。

腹の底から鳴り響いたような低い声音で純一が言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 「お兄ちゃん?」

 

 

 

彼の様子が変化しているのを察したさくら。

 

 

 

 「っざっけんな!! これまんま犯罪じゃねぇか!!」

 

 

 

突然の純一の怒声にひっ、と驚く少女達。

その反応を予想していたのだろう、杉並は涼しい顔を崩さない。

 

 

 

 「このやり方は俺の美学にも反する。

  どうだ、非公式新聞部がどれだけマトモかわかったろう?」

 

 

 「だろうな。これならそっちの方が幾分もマシだっ」

 

 

 

そう純一は吐き捨てた。

怒りのあまりレポートの束が地に落ちる。

 

 

 

 「待て、朝倉。怒り狂うのは後だ」

 

 

 

レポート用紙を拾いながら杉並が言う。

 

 

 

 「あ? どういう意味だよっ」

 

 

 

怒りの冷めない純一に対して杉並は用紙の一番下にある『商品』を示す。

純一とは対照的に杉並は落ち着いている。

 

 

 

 「あ?……『本日の目玉商品! 水越萌の木琴』……これって!」

 

 

 「うむ。そういうことだ」

 

 

 

ようやく純一にも合点がいった。

先ほど美春が「詳しくは杉並先輩に」と言っていた理由。

杉並は彼なりに少女達に気を遣っていたのだろう。

 

商品リストの中には木琴だけでなく、少女達の盗撮写真も入っていた。

特に純一の友人達の写真には高値がついていた。

『他人事ではない』という言葉の意味はここにあったのだ。

 

純一は久々にこの悪友に感謝した。

それにしても……犯罪行為が行われている事実が許せない。

 

 

 

 「で、どうする? お前に限って見過ごすなどという選択はすまい」

 

 

 「わかってんじゃんか。非合法新聞部……ぶっ潰してやる」

 

 

 「それでこそ朝倉よ。よかろう、この俺も力を貸そう」

 

 

 

男達は勝手に完結したらしいが、少女達には何がなんだかわかりゃしない。

一つだけわかったのは萌の木琴の在り処と、

純一が非合法新聞部に殴りこみをかけようとしていることだけ。

 

 

 

 「兄さん、その紙に何が書かれているんです?」

 

 

 

杉並の手にしている用紙を見ながら音夢が純一に訊ねた。

 

 

 

 「心配すんな。別にお前が見るほどのもんじゃない」

 

 

 

兄心を働かせ、妹に笑顔を見せる純一であった。

が、音夢はそう簡単には騙されない。

 

 

 

 「それ、見せてください」

 

 

 「駄目だ」

 

 

 「何でですか」

 

 

 「見る必要はないからな」

 

 

 

勝負は純一に軍配が上がるかにみえた。

しかし、音夢は一枚も二枚も上であった。

後になって考えが足りなかったと後悔する純一だった。

 

 

 

 「さくら」

 

 

 「りょーかい、音夢ちゃん」

 

 

 

さくらは素早く空中に陣を描き、告げた。

 

 

 

 『我は強制する。――そこから動くな

 

 

 

強く響く少女の暗示。

さくらの所有する能力――『強制』。

空中に陣を描き、対象となったものの行動を強制させる力である。

 

 

 

 「くっ、音夢!」

 

 

 「大人しく見せてくださればこういう手荒なことをしなくて済んだのに」

 

 

 

杉並の持つレポートを取り、さわやかな笑顔でそれを眺める音夢。

 

 

 

 「どれどれ」

 

 

 「えーと」

 

 

 

その両サイドから眞子とことりが覗き込む。

三人の顔が次第に赤くなり、ゆっくりと表情を失っていく。

 

 

 

 「音夢先輩?」

 

 

 

音夢は無言で美春にレポートを渡す。

 

 

 

 「うにゃ?」

 

 

 「それでは私も失礼して」

 

 

 

さくらと萌も一緒になってそれを眺め―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――乙女達は修羅と化した。

 

 

 

 

 

 

 

……そこから先のことはあまり語りたくない。

杉並が調べていた非合法新聞部の居場所を『友好的に』入手した

彼女達はその場から消えた。

 

その数『秒』後、校内のどこからか得体の知れない悲鳴が響き

翌日、校庭には十数人の男子生徒が蓑巻きにされていた。

その誰もが「ごめんなさいごめんなさい」と言いながら幼児化していたという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、彼らは

 

 

 

 「なあ朝倉」

 

 

 「何だ、杉並」

 

 

 「俺達はいつになったらここから動けるんだ?」

 

 

 「……さくらが解くか、効果が切れるまでだ」

 

 

 「それはいつになる?」

 

 

 「俺が知るか!」

 

 

 

人があまり来ない『あかずの扉』の前で突っ立っていたのだった……。

 

 

 


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