Eternal Snow

132/武術大会 〜休息日 三日目その1〜

 

 

 

第一回戦を終えた三日目は休息日。

端的に云って、野球でいうところの移動日だと思ってもらえればいい。

各々は街に出たり、ホテル内の施設を使ったりして英気を養う。

真剣なるゲームであったとしても、息を抜くのは当然必要なことである。

そして今日この日こそ、少女達が待っていたものに他ならず。

 

 

 


 

 

 

 「え! 一弥さん行けないんですか!? 約束が違いますよ!」

 

 

 

非難業々雨霰。対象となる少年の名前は、倉田一弥。

何の因果か幼馴染と付き合うことを自覚する羽目となった幸運にして不幸なる神器。

しかし根っから優しい彼は、真っ向から切り捨てる真似など出来る訳もなく。

 

 

 

 「あ〜……いや、その、ですね? 僕も行きたいんですよ? 行きたいんですけど、

  一回戦で負けたチームは残っているように、って放送あったでしょう?」

 

 

 

詳しいことは解らないが、敗北チームだけを集める必要のある何かが存在するのだろう。

第一回戦の初戦に大敗を喫した彼らはそのカテゴリーに属する。

 

 

 

 「あう〜! そんなの祐一に任せればいいわよぉ」

 

 

 「無茶言わないで。兄さんだけに負担掛けてどうするんですか」

 

 

 

宥めるように真琴に応じつつ、美汐さんも何とか言って下さい、と視線で語ってみた。

彼女ならば自分の意図をしっかり理解して助け舟をくれる筈だ……と期待した。

が、返って来た彼女の視線は冷たく、一瞬背筋が寒くなる。

『そんな酷なことはないでしょう』――良く解らないがそういうニュアンスの瞳だ。

四面楚歌とはこのことですか!? と考える余裕があるのは現実逃避の証明か。

 

大会前、要するに一弥が新たな道を(ある意味踏み外し)選んだあの日の約束。

彼女達を護りたいと己に誓い、そう在りたいと願う己が居る。

まぁそれは良いのだが、今の彼を縛るのは「自由行動日に出かけよう」という約束。

彼女達はある意味それだけを楽しみとして大会に臨んでいた訳で

一弥本人としてもそのつもりであったから、いきなり約束を破るような

羽目になることは素直に申し訳なくも思っているのだが。

しかし、彼もまた一学生。大会本部の意図はともあれ、指示に従うのは当然だ。

 

D・GODSのうち、一弥と祐一を除く他の三人はとっくにいない。

舞人は予測するまでもなく希望や小町と遊びに出掛け。

純一は音夢とことり、さくらに美春、眞子に連れられて荷物持ち。

浩平は一人出掛けてしまい、瑞佳と茜が彼を探している姿を目撃したのは記憶に新しい。

いつものことと言えばそれまでだが、

自他共に認めるブラコン一弥が祐一一人に任せるはずがない。

一弥は今現在一番大切な少女達に強く出ることも出来ず、狼狽する。

 

 

 

 「あのですね。別に休息日は今日だけじゃありませんし、次の機会にしましょう?

  本当に今日は兄さん一人に任せるわけにはいきませんから……お願いします!」

 

 

 

ペコリと頭を下げる一弥。

これまたいつものことだが、威厳なんて皆無。

だけどそれをやられると真琴達も強くは出られない。

そんな彼らに訪れた天の助け――――名を、相沢祐一。

 

 

 

 「行って来ればいいじゃないか。俺に気兼ねなんてしなくていいんだぞ?」

 

 

 「あ。祐一さん」

 

 

 「おう。祐一さんだ……で、一弥。前から約束してたんだろ?

  エスコート役ちゃんとしてこい。向こうには最低一人居れば充分だろ。

  最初っからあの馬鹿共は俺に任せきりにする気だったんだし、そっちは諦めてる。

  覚悟してたからな、今更お前が抜けても大して痛くないさ。サービスしてこい。

  その代わり、何があっても俺の一存だけどな」

 

 

 

くしゃり、と一弥の頭を弄って祐一は笑う。

「ほれほれ、この馬鹿が愚図る前に連れてけ」と少女達を促し、彼女らも頷く。

 

 

 

 「ちょ、兄さん!?」

 

 

 「土産宜しくな〜」

 

 

 

感謝の言葉を祐一に向け、晴れ晴れとした表情で一弥を引き連れる彼女達。

あの笑顔が見れるのなら、別に困るものでもない。

そんな背中を見送って、祐一は踵を返す。

 

 

 

 「はぁ〜……リーダーは辛いな」

 

 

 

囀るだけで、心底そう思っている訳ではなかった。無いのだが、

この程度大したことじゃないと納得しながらも、貧乏くじだったかと苦笑を漏らす。

そうして過ごして30分後。チームの代表者が一同に集められるのだった。

集まるそれぞれが何の用だろうと互いに相談し合う。

しかし、一回戦で最も目立った祐一に声を掛ける者はおらず、

『あんなチームまで来てるのか』という必然の視線に一人耐えるのであった。

 

 

 

 (ははは。すっかり汚名が付き纏ってくれてちゃってまぁ)

 

 

 

却って煩わしいと思いながら、祐一は瞳を閉じる。

嫌でも耳に入ってくる噂話に構っていても仕方ないと割り切る。

下手に一弥なり浩平なりが居たら無駄に騒がれただろうなぁ、と思わなくも無い。

更に暫し待つこと15分、堂々と室内に入ってきたのは――――女性だった。

 

 

 

 (ん?…………ぶっ!?)

 

 

 

その顔を見て呼吸に詰まり、ゴホゴホと咽てしまった。

スタッフ用の上着を羽織り、その手に一抱え分程度の大きさの箱を持つ女性。

祐一が何故見間違おう。その名こそ相沢夏子。

相沢零の妻にして、水瀬秋子の姉――――G.Aが一【氷帝の双魔】。

つまる所“青龍”こと相沢祐一の母親本人である。

その正体を知らないこの場の生徒達は、ただの関係者だとしか思うまい。

祐一は母の姿を見て察知する。今からやるのは絶対に碌な事じゃない、と。

 

 

 

 「わざわざ集まって貰って有り難う御座います。早速ですが、

  不運にも一回戦敗退した皆さんに今一度のチャンスを用意させて戴きました。

  ――――敗者復活の、くじ引きです」

 

 

 

ガサガサ、と箱を揺らし、夏子が微笑む。

秋子の姉である彼女は、とても年相応には見えない。

故に、人の年を当てるのが苦手であると思う者は本来以上に彼女を若く見る。

夏子は名乗った訳でもないから、この場に集まる者のいくらかは勝手に秋子と勘違う。

祐一の耳に入る噂が色を帯び出して、彼は心中で舌を吐き出す。

あれはどう見ても猫被りだ。彼はただ一人母親に向かって眉を顰める。

誰にも気付かれぬ程度に口を動かし、告げる。

 

 

 

 『……わざわざ秋子さんの真似までして、用意周到だな。か・あ・さ・ん?』

 

 

 

その動きに気付いた夏子は、やはり微笑み、

 

 

 

 「皆さんも知っていると思いますが、先日、不慮の事故で随分な数の生徒さんが

  大会出場不可となってしまいました。不戦勝とし続けるのにも限界がありますので

  一回戦で敗退してしまった皆さんには、改めて試合に臨める機会が

  与えられることになりました。本来なら敗者復活戦をすべきなのですが

  時間的な都合もありますので、これから代表者の皆さんにはくじ引きをして戴いて

  “当たり”を引いた若干名のチームの方々には、敗者復活枠として明日以降の

  二回戦に特別参加することが認められました。おめでとうございます」

 

 

 

大会前日。ある謎の男性がばら撒いた謎の食物。

摂取した多くの生徒が一回戦を棄権する羽目となり、

昨日、一昨日と行われた初戦は大会側が予定していた時間以上に早く済んでしまった。

それそのものは問題ないのだが、明日から行われる試合数が激減。

都合を少しでもつけるため、一回戦敗退者を対象に数合わせを計った……という名目。

だが、祐一には解っている。そんなものただの建前だ。

喜び勇む生徒達とは打って変わり、彼だけは物静かなまま、母に問う。

 

 

 

 『俺達をもう少し大会に居させるための手なんだろ?』

 

 

 『そうよ?』

 

 

 

口の動きを素早くし、見ている生徒達ではなく祐一だけに言葉を返す夏子。

神器が全員揃っているこの大会は、上層部からすれば都合がいいのだろう。

あらゆる事態に対処することが可能な彼らを手放す筈が無い。

 

 

 

 (すまん皆。俺らが楽出来るのはもっと先らしい……)

 

 

 

此処にいない仲間達に心の中で謝罪し、溜息を吐いた。

 

 

 

 「ご納得いただけましたか? ではそちらの席の方からどうぞ。

  くじに当たりと書いてあったら当選です」

 

 

 

確かに幾らかは当選するのだろう。

しかし、向こうが当選させたいのは彼らだけだ。仕組まれた敗者復活に他ならない。

数々のチームが一喜一憂する中、やがて祐一の番が近付く。

しかし近付く度に幾多の視線が彼の背中に突き刺さる。

青龍……もとい神器を名乗るという不敬を行った彼とその仲間。

一回戦で敗北した生徒の中で最も無様だった彼らを好意的に解釈する者は少な過ぎた。

何より、それまで無視していた特定一名の視線が突き刺さる。

名を久瀬篤史。昨日の試合で舞に敗れた『無銘』の長。

 

 

 

 「……さっきからうざいぞ。お前の視線」

 

 

 「これは失敬。気になったのなら謝罪するよ。

  全く、大会側も随分優しいね。君達にまで機会を与えるなんて」

 

 

 「なぁ久瀬、それ謝罪って言わない。……まぁでも、俺もそう思う」

 

 

 「む」

 

 

 

挨拶代わりの嫌味を受け流し、祐一は苦く微笑む。

結果も見えてしまっているので、あまり久瀬に強くも出られない。

 

 

 

 「別に嫌味じゃないぞ? お互い、運がいいと有り難いよな」

 

 

 

白々しい言葉で場を取り繕うように言葉を発す。

久瀬も祐一と刺をかち合わせる気はないのか「……すまないね」と小さく呟き、

 

 

 

 「――――ああ。おそらく君も、そして僕も。一回戦は不本意に終わったからね」

 

 

 

その点については久瀬も同じなのか、祐一に対しての言葉も何処か柔らかい。

彼に対して少なからずの申し訳無さを感じながら、祐一は席を立った。

 

 

 

 「はいどうぞ。……“祐一さん”」

 

 

 

未だ秋子の真似を続ける母に冷めた視線を送りながら、

彼は箱の中に手を入れ――――その瞬間に冷気を感じた。

どういうやり口なのかは祐一にも判らないが、この冷気が仕込みなのだろう。

だから母さんが来たのか……と内心で呟き、祐一は一枚くじを抜く。

その紙を夏子に渡し、彼女は中身を確かめ微笑む。

 

 

 

 「あら。おめでとうございます。当たりですね?」

 

 

 「……そりゃ、どうも」

 

 

 

引いたくじに書かれていた赤字の“当たり”マーク。

その色が嫌味以外の何物にも見えず、祐一は母に向かってぞんざいな言葉を返す。

視線に『後で覚えとけよ』という思いを込めて手続きを済ませる。

ヤラセであると主張しても意味はないだろうし、上層部の意図も読める。

背に刺さる失望と失笑の声を無視し、祐一はその場を後にした。

 

 

 


 

 

 

 「ったく。やってくれるぜ母さん……。あいつらにどう切り出すかなぁ」

 

 

 

直接言うしかないのだが、素直に聞いてくれるだろうか?

う〜む、と首を捻りながら、面倒がる彼らの顔が容易に浮かぶ。

敗北そのものに不満はあれど、気楽になってラッキーというのが皆の意向。

祐一とて少なからずそう思っているから、尚厄介だ。

腹を決めて交渉するか、それとも居丈高に命令するか。

あ〜う〜と悩み続けて施設を回り、偶然発見した名雪に捕まり

軽くデートと相成って、悩みながらも時間を過ごすこととなった。

色々と見て回るだけのデートだったが、名雪は満足らしい。

 

 

 

 「ねぇ祐一。放送で呼ばれてたけど、何だったの?」

 

 

 「ん? ああ、さっきのか。大したことじゃない。

  一回戦で負けた連中の敗者復活戦ってやつだよ」

 

 

 「……え!? ってことは祐一、もしかして戦ってきたの?」

 

 

 「うんにゃ。くじ引きしてきたんだよ――――何の因果か当たりつきでな」

 

 

 

名雪に愚痴っても始まらないのだが、

頭を悩ませている現状だ。切り替えるのに打って付けだろう。

 

 

 

 「てことは、二回戦出られるの?」

 

 

 「らしいぞ。手続きも済ませてきたしな」

 

 

 

そう告げてやると、名雪は満面の笑みを浮かべて「おめでとう!」と祐一に言ってくる。

表情が眩しい。彼女は喜んでくれている……そう思ってくれることが有り難い。

 

 

 

 「ありがと……って言いたい所だけどな」

 

 

 「うん。祐一、顔色晴れてないね」

 

 

 「やっぱ露骨にそう見えるか? 憂鬱って感じなんだよなぁ……。

  あいつら、試合終わったからって相当気楽モード入っててさ。

  今更試合にまた出られるぞ、って言っても絶対ごねてきそうでさ。

  どうやって説得したもんか悩んでるんだよ、俺」

 

 

 

普通のチームならば単純に喜ぶだけだろうが、彼らは特殊。

聞いた名雪も『ああいうコトをする人達だから』有り得るんだろうなぁ、と思わされた。

 

 

 

 「今更棄権なんてしようがなくてさ。

  そうだな……陸上部のホープ、部長こと水瀬名雪だったらどうやって説得する?」

 

 

 「私だったら? えっと、そうだね〜……」

 

 

 

そう言いながら名雪は視線を迷わせつつ、

「うん。やっぱり、お願いするかな」と続ける。

 

 

 

 「お願い?」

 

 

 「うん。相手がどんな人でも、こっちが一生懸命お願いすれば

  聞いてくれると思うんだ。――――祐一はそう思わない?」

 

 

 

首を傾げて祐一を見上げる名雪。純粋なその瞳は、他人を信頼する顕れ。

明確に裏切られたことがなく、純粋培養で真っ直ぐに育ってきたからこそか。

その笑顔は代え難く、その在り方はただ眩しく。隣に居てくれることが有り難く。

 

 

 

 「――――はは、そうかもしんないな。……頑張ってみるよ」

 

 

 「うんっ!」

 

 

 

 

一瞬、冬実に戻ってきた時を思い出した。

名雪を【彼女】と見間違えたあの時を思い出した。

今も昔も、彼女に救われている自分に気付く。

名雪には何の自覚もないだろうし、この感謝は一方的なものに過ぎない。

ただ、微笑んでくれている人が居てくれる……それがどうしようもなく嬉しかったから。

 

 

 

 「名雪。相談に乗って貰った礼代わりって言ったら何だけど……」

 

 

 「ん?」

 

 

 「皆には内緒だぞ? デート代わりに何か奢るよ。

  イチゴサンデーだろうが、名雪が欲しいってなら洋服でもいい。

  ああ、遠慮しなくていいぞ? 一つだけなら、プレゼントするよ」

 

 

 

そんな言葉に名雪は虚を突かれつつも、どこか恨めしげに

 

 

 

 「祐一……私イチゴサンデーばっかり食べてる訳じゃないよ」

 

 

 「ああ悪いそうだったな。イチゴサンデーだけじゃなくてイチゴジャムもだったな」

 

 

 「う〜」

 

 

 

しれっと嘯く祐一の態度はいつも通りで、応じる名雪もいつも通りで。

そんな会話さえもいつも通りで……いつも通りが幸せで。

 

 

 


 

 

 

そして、夜。挑戦した結果――――。

 

 

 

 「かったるい」

 

 

 「だりぃ」

 

 

 「めんどい」

 

 

 

以上。祐一が信じた結果がそれだった。

たった一言で済ませるこの凄さ。

 

 

 

 「仕方ないだろ。もう決まっちまったんだぞ。

  というか変則的な上層部命令みたいなもんだ」

 

 

 「理由がどうであれ断ってこないお前が悪いだろ」

 

 

 「全くですよっ。俺様に負担を強いるとは随分な態度ですね」

 

 

 「……かったりぃっす」

 

 

 

その返答に祐一のこめかみが引きつる。

一弥はそれに気付いたが、何も言わない。

 

 

 

 「君達が勝手に任せきりにしたんじゃなかったですかねぇ?」

 

 

 「ふん。リーダーたるもの当然だろう」

 

 

 「雑用は祐一と一弥、昔からの決まりだろう」

 

 

 「そもそも俺達にそんなの向かないし」

 

 

 

何とまぁ無責任な発言である。所詮神器も一介の高校生でしかない。

ますます祐一の機嫌が下降する。

勿論一弥は何も言わない。尚、彼一人は納得した。

 

 

 

 「というわけで。改めて断って来い」

 

 

 「うむ、どうせ誰も俺達に期待はしていないことだしな」

 

 

 「気楽でいいっすよね〜、うんうん」

 

 

 

気楽なのはどっちだ。

そうツッコみたいのを精一杯自制する一弥。

 

 

 

 「…………………………脅すぞ?」

 

 

 

その呟きは祐一にとっての最後通牒である。

短気というなかれ。普段から祐一に掛かる心労は大きいのだ。

 

 

 

 「俺達がやりあったらこんな部屋、一瞬でボロボロだぞ?」

 

 

 「別にいいさ。俺はリーダーとしての役目を忠実に守るだけだし。

  巻き込まれたらそんときは仕方ないだろう」

 

 

 

祐一は本気である。

いつ刀を抜いてもおかしくないほどに。

浩平も銃をいつ撃つか判らないくらいに。

 

 

 

 「いい加減にしたまえよ、祐一&浩平君。

  わざわざ問題を起こすとは、“流石はトラブルメイカーズ!” 

  と、格好のネタを提供するだけではないか。

  俺はエンターテイナーではあるが、それは頂けない。美学に反するわ」

 

 

 

それは果たして説得の意味を持っていたのだろうか。

一弥と純一は微妙な表情を浮かべる。

祐一と浩平も白けた目で舞人を見た。

 

 

 

 「な、何なんですか君達はっ。この心優しきクールビューティ、桜井舞人の

  言うことが守れないなんてそんな非常識なこと、お母さんは許しませんよっ!」

 

 

 

明らかに四人が白けた空気を放ってくるので、舞人はたじろいた。

彼らには桜坂の友人達のような態度が通じない。

祐一達は冷たい視線を送るだけで何も言わない。

沈黙こそ今の舞人にとって辛いことはないとよく判っているから。

 

 

 

 「と、とにかく! 俺は面倒だから参加しない、浩平っ、貴様もそうだろう!」

 

 

 「当たり前だ。つーわけで俺達は出ないから。あとよろしく〜」

 

 

 「二人が許されるなら、俺も同じ主張で」

 

 

 「あのな〜……」

 

 

 

折角脅すつもりでいたのに、舞人の発言で気勢が削がれた。

名雪、お前の真っ直ぐはこいつらには通じねぇよ……と、さめざめ泣いた。

もう一度同じようにしても迫力に欠けるので、結局情けない声を出して説得するだけ。

それが報われるかどうかは不明として。

 

 

 

丁度その頃、ある一室にて。

 

 

 

 「お疲れ様でした、姉さん」

 

 

 「案外バレなかったみたいね。秋子の真似しても」

 

 

 「祐一さんを騙すのは無理だったみたいですけど?」

 

 

 「初めっからあの子を騙せるなんて思ってないわよ。

  随分睨まれちゃったけど、とりあえず断られなくて良かったわ」

 

 

 「今頃説得に苦労なさっているんでしょうけど。

  ……祐一さんなら私達の意図を解ってくれている筈でしょう」

 

 

 「折角あの子達を揃えたのに、一回戦で消えられたら

  勿体無いってのもあるけどね。でも、そんなのただの建前」

 

 

 

夏子は苦みばしった吐息を漏らし、息子を案ずるようにただ呟く。

 

 

 

 「どうしてあの子達が神器なんだろ。どうしてあの子に道を教えちゃったんだろ。

  あたしが晴子の所へ行かせなければ……こうならなかったのかもしれないのに、ね」

 

 

 

相沢祐一、倉田一弥、折原浩平、朝倉純一、桜井舞人。

彼らはトラブルメイカーズにして、最強の抑止力である神器。

その肩に掛かるプレッシャーは、本人達が思っているそれよりもずっと重い。





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