Eternal Snow

113/武術大会 〜前夜 その1〜

 

 

 

巨大な合同訓練場として用意されたドーム施設。

DDが所有し、本来は守口支部のエスペランサが訓練の目的で使用することが多い。

翌日から一週間の長きに渡って開催されるDDE養成校合同武術大会の会場となる施設。

参加する生徒達はドームに隣接する、これまた守口支部が管理するホテルへと集合していた。

 

 

 

 「ふわーーー、すっごい大きいんだね!

  わたしこんなところに泊まるの初めてだよおにいちゃん」

 

 

 

少女の爛々とした声に、優しい声音で口を開く舞人。

少女の名を森 青葉。

年下に甘い舞人(小町は例外)今にもその頭を撫でそうである。

 

 

 

 「青葉ちゃん。ホテルのような外見をしているのはただの幻覚のような錯覚であって、

  本当の姿は猛獣どもがうじゃうじゃはびこる人外魔境かもしれない。

  部屋の鍵を開けて、開いた扉の向こうにライオンがいないって誰が断言できるんだい?

  食べられたらそこでおしまい……もはや助かる筈も無いのだからね。

  青葉ちゃん、おにいちゃんからのアドバイスだ。世の中は魑魅魍魎で溢れているのです。

  特に青葉ちゃんみたいな可愛い少女を嬲り物にしようとする悪鬼がね。

  自衛のためにも、目に見えるものだけを信用しちゃいけないよ?

  予言しよう、その扉をくぐった瞬間――――君は……」

 

 

 

 「せんぱいせんぱい。“……”で停めたら却ってよくないと思いますけど」

 

 

 「えへへ〜……私可愛いって♪」

 

 

 「流石ですっ舞人さん! 世の中何が真実で何が嘘か判らない……っ。

  芹沢かぐら、大変勉強になりました!……メモメモ」

 

 

 

青葉の隣にいた少女――芹沢 かぐら――が、“ふにゃん”と納得しつつメモをとる。

 

二人の反応に満足げに頷く舞人。小町の言葉はスルー。

いや小町自身反応が返ってくると思っていないので構いはしない。

さて、青葉とかぐら。この二人は桜坂学園中等部に属する敬星女学院の生徒なので

大会への参加はしないのだが、見学という扱いでここまで来ている。

他にも舞人の知り合いで言うと……和人ら年少組など。

 

 

 

 「舞人にぃ……真顔で嘘つくの止めなよ。僕にはすぐ分かるんだから」

 

 

 

余談だが、和人にはある特殊技能がある。

それは、他者の嘘を見抜くことが出来るというもの。

別に能力というわけではなく、人の顔色やら雰囲気から自然と読み取れるらしい。

故に和人は舞人の嘘を見抜いたのである……和人でなくてもすぐに判る嘘だったが。

 

 

 

 「え、えっ……嘘だったの? てっきり私本当だと思っちゃったよ」

 

 

 

いや、例外がいたらしい。呆れ顔の和人と驚き顔のこだま。

気のせいだろうか? ある一点を除けば年が違って見えない。

……あえて詳しく語るのは彼女のためにも止しておこう。

 

 

 

 「和人君、大丈夫だよ。舞人君の言うことはほとんど嘘だって皆知ってるから」

 

 

 「や、でも何気にシュレディンガーの猫を振りかざすのは凄いわ。

  あんまりにもお粗末だからそれ以上褒められないけど」

 

 

 「八重樫……。桜井がそこまで知ってるわけないじゃないのよ」

 

 

 「そんなことよく判ってますって、ひかり先輩。ただのジョークですよ」

 

 

 

誰もフォローをしてくれない。彼の人望の表れとも言おうか。

そして誰もこだまのフォローはしない。所詮はKODOMOということか……。

 

 

 

 「せ、せんぱい。元気出してください」

 

 

 「へっ……いいのさいいのさ。どうせ俺はロンリーブルー。

  世界の孤独を一身に背負った男、桜井舞人此処にあり。

  誰も俺を理解は出来ない。英雄は常に孤独に打ち震え平和を護るだけさ。

  誰からも祝福はなく、誰にも知られることは無い……孤独な戦士。

  ああいやいや感謝なんて要らないのだよ、俺が好きでやっているだけだから」

 

 

 

舞人は黄昏た。その発言に色々とギリギリラインを交えつつ。

だが明言はしていないからセーフだ。というよりも解ろう筈がない。

 

 

 

 「や、意味判んないですね」

 

 

 「舞人さん、もう少しわかりやすい方がいいんじゃないですか?」

 

 

 「舞人お兄さんが英雄ってのも変ですよね」

 

 

 「…………兄様、変です」

 

 

 

なので、ちびっこ達にも否定された舞人。

ちなみに内訳は上から郁奈・椿・瑛・桜香。

特に端的に感想を述べた桜香の言葉がブレイクハート。

彼は心の中で叫んだ――――マイシスターっ!?

 

唯一フォローに回ってくれた小町の言葉も届かない。

瑛の言いたいことも判らなくは無いが、

まさか本当に舞人が『英雄』だとは思うまい。

 

 

 

 「やっぱりお兄様はおもしろい方ですね」

 

 

 

瑞音の最後の言葉が心に響いた。It’s 追・い・討・ち・♪

泣けた。言えないから余計。

 

 

 

 「ど畜生〜〜〜〜!!!!!!!」

 

 

 「あ、せんぱいっ」

 

 

 「舞人君、待ってっ」

 

 

 「おにいちゃん!」

 

 

 「舞人さん、私もっ」

 

 

 

悔し涙を瞳に潤ませ、ホテルの中へと走っていく舞人。

それを追いかける小町と希望、青葉とかぐら。慕われる順であろうか。

 

 

 

 「ったく、あのバカ。こんな所まで来て恥さらすなよな」

 

 

 「無駄ですよ相楽先輩。桜井舞人はそういう男です。

  つくづく情けない……何故小町さんはあんな男を慕うのか、全く」

 

 

 「変なとこだけ人望あるからな……っても極少数だけど。

  しかし俺からすれば牧島がそこまでアイツのことを嫌うのも理解できんぜ?」

 

 

 「あの男から何を学べと仰るんですか先輩。

  奴と俺は相容れない、そういう関係ですから」

 

 

 

去っていく舞人の姿を見定めながら、彼なりの分析をする牧島。

それを聞く山彦は『とか言いつつあっちの方は嫌ってないみたいだけどな』と

客観的な考えを心の中に留めておくのだった。

 

 

 

 「あのさぁ、ヤマ」

 

 

 「何、八重樫さん?」

 

 

 「ホテルの部屋割りって、極力同じチームになるようにしてんだよね?」

 

 

 「確かそうだったんじゃないかな。

  流石にウチみたいに男子と女子が混じってるとこは

  別々にして連絡だけ出来るようにしとくとか聞いたけど」

 

 

 

これから戦い合う生徒達を何の計算もなく同じ部屋に泊めては情報の漏洩の恐れがある。

よって同じチームで部屋割りがなされる、倫理的な問題で男子と女子は分けられるが

室内のモニターによって完全な機密保持をなされた連絡を取り交わすことができる。

 

 

 

 「八重ちゃん、それがどうかしたのかな?」

 

 

 「いえ、あたしらはいいんですよ。何だかんだで学年が違ってても

  気心の知れてる間でチーム作りましたから」

 

 

 

彼女のチーム編成は本人をリーダーに、山彦、希望、小町、牧島という組み合わせ。

奇しくも先日のサバイバーにおいて最後に激突した者達が一つのチームになった。

 

 

 

 「あんたにしては珍しいね、イマイチ要領得ないんだけど」

 

 

 

ひかりの疑問にしれっとした態度で返答するつばさ。

 

 

 

 「さくっちのことですよ。アイツ、本当ならあたしらのトコに入るはずだったのに

  登録日にさぼったりするから他の学園の人と組む羽目になったじゃないですか」

 

 

 「あ、そっか。この大会唯一別の学園の連中と組まなきゃならないんだ、舞人のヤツ」

 

 

 「そゆこと。ほんと、バカなんだから」

 

 

 

呆れた表情で溜息……のつばさと山彦。彼らとて友人のことを案じてはいるのだ。

悪態を吐く事実はあるが、決して嫌ってはいない。舞人の個性は自分達に活力をくれる。

友人が少ない欠点を持つ舞人だが、その分友人と見なされた者は飽きることを感じない。

サバイバーの時のように味方として居てくれるなら、それだけで充分だったのに。

 

 

 

 「ふん、管理のなっていない証拠ですよ。

  第一、俺個人としてはヤツがいなくて助かります」

 

 

 「ほんとお前、舞人のことに関しては容赦ねぇよなぁ」

 

 

 「…………舞人にぃ、大丈夫かな」

 

 

 

最後の和人の呟きは杞憂なのか否か、それは彼らには判らない。

 

 

 


 

 

 

 「ふぅ……ようやく着いたな」

 

 

 

辺りの喧騒をバックにしながら、朋也は呟く。

同年代の生徒達が放つ独特の雰囲気は、希望を宿したそれなのか、と。

 

 

 

 「こうして見ると凄い人数よねぇ、この子達皆DDEってことでしょ?」

 

 

 「将来なるかもしれない、ってことだ。

  養成校にいるからってなれるってわけじゃない」

 

 

 

杏の言葉に、嗜めるつもりで彼は言った。

そう、あくまでも『DDEになれる可能性が高い』のであって、保証なんて無い。

結局は本人達の努力次第。存在を示すか廃れていくかは自己責任。

 

 

 

 「……うちの高校もその一つになれるかもしれなかったんだよねぇ」

 

 

 

さて今更だが。光坂高校見学者一行がホテルへと到着した。

周囲にはそれぞれの学園生らしき子供達が沢山いる。

朋也達はあくまでも見学側なので客観的にそれを見ていた。

客観的に見ている筈なのに、春原は不思議と自らに反映させていた。

 

 

 

 「春原……」

 

 

 「別にもう気にしてないよ。僕は僕だからね」

 

 

 

少年は笑った。屈託の無い笑みだった。

在るべき自分が自分なのだから、と。

 

 

 

 「陽平、アンタ……」

 

 

 

元々春原は、光坂高校が養成校となるはずだった時期に将来を期待されて入学をした男である。

しかし知っての通りその話は立ち消えとなり、所謂不良と呼ばれるようになった経緯を持つ。

そんな彼がこの場にいるのは、皮肉とも取れるのだろう。

本当なら此処にいた筈なのに、という嫉妬にも似た思いを持っているのかもしれない。

それは、言ってしまえば黒い感情だから、春原は決して顔には出さないだろう。

苦痛を背負わせたくは無いから。友達に嫌な思いをさせたくないから……。

だから少しだけ申し訳なく感じている、暗い雰囲気にさせてしまったのは自分の所為だ。

浮かんだ沈黙と杏の視線はそれを示しているのだろう。

 

春原は“ごめんね”、と口に出そうとして――――

 

 

 

 「どっちにしろDDEなんて夢の夢よ、勘違いしない方がいいわ」

 

 

 

――――それが勘違いだと知った。彼女は言った。

 

 

 

 「てかお前じゃ無理だ」

 

 

 

――――追随の仕方が鬼だと思った。彼も言った。

 

 

 

 「あんたら人の情ってもんが無いんですかねぇっ!?」

 

 

 

――――だから少年は吼えた。合掌。

 

 

 

 「心配すんな、こんな酷いこと春原にしか言わないし」

 

 

 「朋也に同じく」

 

 

 「僕限定!? 酷いって自覚してるんなら言わないのが友達じゃないの……?」

 

 

 

ごめんと謝ろうとした僕が馬鹿だったの?

……るるる、と目を潤ませる春原に朋也と杏はシンクロした笑みをぶつける。

 

 

 

 「何言ってんだよ、友達だと思ってるわけないじゃないか」

 

 

 「陽平の分際で友達がいるわけないじゃない」

 

 

 「あんたら毒つくの好きですよねぇっ! てか普通に酷いよ名誉毀損だよ!?

  あんたら、血の通った人間じゃないんですかねぇっ!?」

 

 

 「違うの……妖怪は春原くんだって朋也くんいつも言ってるの」

 

 

 

悪意のない一撃ほどダメージを被るものはない。

ことみは教わったことを忠実に言い放っただけであり、罪悪感を抱いていない。

いやひょっとすると感じるのかもしれないが、朋也が意図的に仕向けたのかもしれない。

 

 

 

 「漫才をやるのもいい加減にしろ朋也。

  友人を探していると言っただろう。鷹文、萌は見つかったか?」

 

 

 

自分より背の高い朋也の頭に、こつん、と軽く拳を当てる智代。

全く……と言葉を続けた後に弟へと質問を送る。

 

 

 

 「無理言わないでよ姉ちゃん。

  こんなに人多いのに水越先輩でしょ? 見つからないよ」

 

 

 「すみません智代さん、私達じゃお役に立ちませんよね」

 

 

 「気にするな渚、無理に誘ったのはこちらなのだから」

 

 

 

しゅんと反省の意を表す渚に、優しく言う智代。

外見だけを見る限り、どっちが年上か判ったものではない。

一応渚の方が二つも上なのだが。皆のお姉さんであるべきなのだが。

 

 

 

 「おまじないしてみましょうか?」

 

 

 「へぇ、人探しのまじないなんてあるのか?」

 

 

 「はい。この本に……えっと、逆立ちをして三回回ってワンと言って、

  ヒトサガシヒトサガシミツカレ、と三回唱えればいいそうです」

 

 

 

ページを捲っていた手を止め、その項目を朋也に見せる有紀寧。

本当に書いてある。なんだその具体的な表現と露骨な効果は、とつっこみたいのをやめた。

だが、『まじない』は漢字表記をすると『呪い』と書く。

文字通り“呪い”なのだから、効果が露骨であってもおかしくはない……とする見方もある。

 

 

 

 「マジかよ……。こんな人多い中でそんなことできるわけねぇし」

 

 

 

朋也のぼやきも無理はない。目立ってしまってどうしようもないだろう。

見つけたいのはやまやまだが、恥を掻くのは躊躇する。

 

 

 

 「ですが、それくらいしか手段がないかも……」

 

 

 「う〜む、宮沢のまじないは信頼出来るんだけどなぁ。他に方法は……」

 

 

 「私が占いしてみますか?」

 

 

 「あー、いいわ別にしなくても。椋、あんたは何もしないのが一番なのよ」

 

 

 「? そうですか?」

 

 

 

椋の発言に即座に切り返す杏。彼女の占いの精度を知るからこその言葉だった。

仮に勝平が居たら『そんなことはない!』と断言するかもしれないが。

彼はこと椋に関して盲目的だから……まさしく【恋は盲目】の言葉通りに。

 

 

 

 「ああ。藤林が無理することはないさ。

  しかし……となるとやっぱやるしかないのか」

 

 

 「かもしれないな。すまない朋也。私が見つけられれば……」

 

 

 「気にするなよ智代。さってと、だったら春原。やれ」

 

 

 

即決だった。

周りの面子も深く頷いている。

 

 

 

 「え? 何で僕なの? こんなとこでやったら恥ずいじゃん」

 

 

 「だからこそお前がやるんだろう。まさか私達のような女の子にそれをさせる気か?

  朋也にだって心苦しいんだ。となると適役は春原以外には居ない」

 

 

 

春原とて人の子(らしい)、恥を恥と認識する常識はあった。

が、智代はそれを許さない。そもそも見つけられない自身に責任があるのに。

 

 

 

 「智代、上級生に向かってそんな態度はないんじゃない? こういう時はせめて

  『お願いします陽平さま、私とのキス一回でやっていただけませんか?』

  ……くらい言うもんでしょ? いくら僕だって鬼じゃないし、

  そこまで言われればやってあげないこともないけどぉ?」

 

 

 

バカは調子に乗ってもバカである。この言葉が智代に火をつけた。

智代だって“無茶を言ってるなぁ”という自覚はあったのだから、

『お願いしますって頭を下げればやってあげてもいいけど?』と言うべきだったのだ。

そうしたら彼女は間違いなく頭を下げただろう。筋は通すのが当然と考えているから。

 

だというのに、調子に乗ったのだ。智代が怒ってしまうのも無理はない。

彼女は肺に空気を送り込んだ後、一迅の風となる。

風と云うのも生温いのならば、閃光ともでも謳おうか。

 

 

 

 「……死ねっ」

 

 

 

告げる言葉は直球だった。言葉の後に響く音は、打撃音。あえて擬音で表そう。

均整のとれた彼女の脚が、瞬きを生む。

 

――――どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る――――!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

どぐしっ!

 

 

 

智代の怒りが渾身の蹴りを生み出す。ついでに生々しい。

私刑にも等しい惨い図。しかし悪いのは春原……なのか?

さて今更ながら、春原コンボ、開始。

 

 

 

 「うおっ、こっちきやがった!? ……はっ!」

 

 

 

                             『コンボが繋がった!』

 

 

 

反射的に蹴り返す朋也。反射である所為で中途半端に威力が高い。

朋也にとっては無意識の方が威力が高いっぽい、多分。

ところで……無意識?

 

 

 

 「ん!?」

 

 

 

まさか跳ね返ってくると思わなかった智代は、驚きを一拍で表して……続けた。

 

――――どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

吹・き・飛・べ! どぐしっ!

 

 

 

 「きゃあっ」

 

 

 「任して!」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』

 

 

 

キリモミ回転で吹っ飛んだ春原は、真っ直ぐ椋の方角へと向かう。

春原本人にその意図は無くても、杏からすれば大切な妹を襲う悪鬼。

妹の悲鳴を停めるため、杏は投擲体勢をとった。

その右手が霞み――――辞書の一撃を見舞う。

 

 

 

 「まだ来るかっ」

 

 

 

しつこい、と智代は吐き棄てた。春原の所為ではないのだが。

 

――――どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

失・せ・ろ! どぐしっ!

 

 

 

 「えと、えと……あんパンっ」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』  

 

 

 

よく判っていないらしい渚はとりあえず掛け声と一緒に両手を前に突き出した。

とりあえずの癖に威力があるのがイマイチ納得いかないのだが……無視しよう。

コンボが繋がることが重要だ。

 

 

 

 「いい加減にしろっ」

 

 

 

彼女は心から思った。いっそくたばれ、と。

 

――――どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

し・つ・こ・い! どぐしっ!

 

 

 

更に跳ね返った春原はことみの方へ吹き飛ぶ。

少女は『シュッ、シュッ』と手首のスナップを利かせ、呟く。

タイミングを計るその様は、まるで野球のバッターの様。

 

 

 

 「なんでやねん」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』

 

 

 

【全国トップ10】という知恵を生かし、春原の勢いを読む。

どの角度で腕を振れば最も効果的に彼を吹き飛ばせるかを目測で計算。ここ曲がる〜。

兎にも角にもまたまたまたまた吹っ飛んできた春原に向かって、智代は叫んだ。

 

 

 

 「そんなに蹴られたいのかっ」

 

 

 

発言だけ聞けば変態だ。

 

――――どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

貴様は化け物か! どぐしっ!

 

 

 

 「飛んできますね……トベトベイッチャエトベトベイッチャエトベトベイッチャエ」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』

 

 

 

有紀寧のおまじないによって智代の方へと押し戻される春原。

もはや能力の域かそれは。

 

 

 

 「鬱陶しいっ」

 

 

 

どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

眠れ! どぐしっ!

 

 

 

 「おっと、失礼」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』

 

 

 

通りかかった謎の男(グラサン着装)の肩が春原に直撃する。

その男と朋也の視線が交わった。無論お互いが誰かなんてすぐ解る。

何故に他の面子が気付かなかったのかは……謎だ。

 

――――何で此処に居やがるんだオッサンっ!?

――――ちっ、バレたか……、ってこらてめぇ俺の渚に近付いてんじゃねぇよっ!

――――バッ!? ち、違げぇってのっ! これは単にっ!

――――あぁん? 何だってんだよ? やましいことがあるんじゃねぇだろうな!

――――あるかっ!

――――なにおぅ!? 渚に魅力がねぇってのかぁっ!

――――誰もんなこと言ってねぇぇぇぇぇっっっ!!

 

視線だけで会話。途中で本題からずれているが、もう放っておこう。

とにかく、春原はまたもや智代の下へ。

 

 

 

 「そんなに死にたいのかっ」

 

 

 

どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「ふんっ」

 

 

 

もう言葉もない! どぐしっ!

 

 

 

 「最後は僕? まぁいいけど……姉ちゃん、パス!」

 

 

 

                            『更にコンボが繋がった!』

 

 

 

はぁ、と溜息つきつつ鷹文の蹴り。

彼は元非公式新聞部員である。甘く見てはいけない。

結果として、春原はもう一度智代へと吹き飛んでいく。

そんな彼の姿を見た智代は、大きく息を吸い込み……地面を踏みしめる。

それはまさしく大地のオーラを吸い込むかの如く。

脚に磁力を掛け、反発を利用するつもりで――――――――蹴り飛ばす!!

 

 

 

 「終わりだっ!」

 

 

 

叫びは、心底願うからこその言葉。

震えは、心底願うからこその結果。

 

どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!どぐしっ!

 

 

 

 「喰らえっ」

 

 

 

今度こそ……! どぐしっ!

 

 

 

磁力によって反発力を上昇させ、威力を底上げした本気の蹴りを見舞う智代。

派手に吹き飛んだ春原は地面に火花を散らせながら微動だにしない。逆に動いたら奇跡だ。

 

 

 

 『春原コンボ、パーフェクト達成!!』

 

 

 

とかなんとかいう不思議な音声を聞いた者がいたようないなかったような。

春原少年、無意識に発動した能力により、生命維持にだけは成功していたらしい。

流石は元特待生である。

 

 

――――尤も、褒められたところで全く嬉しく無さそうだが。

 

 

 


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