Eternal Snow

139/“紅壊ト抗悔”

 

 

 

 「――――佳乃?」

 

 

 

一度、紡ぎ、再び、紡ぐ。

彼の口から零れた名前は、何年も前に死に別れた……愛した人の名前。

無言で佇むその少女は、浩平を見つめながら、見つめてはおらず。

だが、そうだとしても。そうだと解っていても。

目の前の少女は、『佳乃』であることは間違いが無いと確信して。

例え人形なのだとしても、偽者であっても。あれは『佳乃』だ。

自分と少女の姉だけは、それを間違えない。今、間違えていることを後悔しない。

 

 

 

 「そうだ、折原浩平。貴殿の記憶に眠る少女の人形だ。

  しかし……これは意外に掘り出し物だったようだ」

 

 

 

“人形”を創り出した片割れが、感心したかのような声を発し。

 

 

 

 「うん、本当だね。こんな力を人間が持ってたんじゃ自滅するはずだよ」

 

 

 

“人形”を創り出した片割れが、愉快そうに声を生む。

 

 

 

その二つが、嘲う声に聞こえて仕方なかった。

 

 

 

 「我輩達からすれば全く以って素晴らしい才能だな。

  人間であるが故に水泡へと帰したわけだが……つくづく惜しい」

 

 

 

その声が、死者を愚弄しているように聞こえて仕方なかった。

 

 

 

 「何も知らない癖に喋ってんじゃねぇよ……!」

 

 

 

抉る感触が残酷で。

目の前に居る“彼女”が不幸で。

 

 

 

 「あいつが、佳乃が! どれだけ苦しんだか知らねぇ癖にほざくんじゃねぇよ!

  てめぇら【永遠】の所為で、佳乃は最期まで苦しんだんだっ!!」

 

 

 

そう、最期の瞬間を忘れない。

『幸せだった』と言ってくれた彼女の微笑を忘れない。

その唇の味を忘れない。涙に濡れた己の頬の感触を、忘れない。

幼かった自分達を、忘れない。失われた彼女の存在を……忘れない。

 

 

 

 「アイツが何をしたってんだよ? 生まれもった宿命こそが罪?

  生まれたその瞬間から永遠に囚われた苦しみが……お前らに解るのかよっ!?」

 

 

 「気を悪くしたか? 我輩達は思ったことを言ったまでなのだが」

 

 

 「むぅ……。やっぱりあの人嫌い。やっちゃえ!」

 

 

 

水夏の合図で“糸の無い人形”だった『佳乃』は、焦点の定まらない瞳を浩平に向ける。

彼とて、理解している。“彼女”は“敵”だ。

敵と解っていても、そう本能で解っていても。理性が解っていても。

本能と理性が敵だと叫んでいても……どうして攻撃が出来る?

どれだけ心を鋼鉄にしても、想いが燻ったわけじゃない。

誰を愛している? と問われれば、間違いなく彼女の名前を挙げるのに。

今の自分の原点が、其処にあるから。

 

 

 

 「止めろ、佳乃! 止めてくれっ!」

 

 

 

その声が届く訳が無いのに。

彼は、“彼女”に対する戦意を失っていた。

それは誰が見ても判るほどに。

 

 

 

 『………………』

 

 

 

『佳乃』は無言でその手を浩平に向ける。

言葉も感情も想いも、何も無い。

少女を少女とたらしめていたものが何も無い。

だから所詮アレは本人ではない、外見が同じだけの偽者。

偽者の手には即座に巨大な力が集まり、彼だけを目掛けて殺到した。

はためいた“偽”の黄色いバンダナが、やけに遠く見えた。

 

 

 

 

 

 

――――銃声に近しい、それでいて遥かに凌駕された轟音が響く。

 

 

 

 

 

 

彼女が生きていた頃、一度も振るわれることなかった才能。

ただの人間であるなら、必要の無い大き過ぎる力。

その身を滅ぼした、忌むべき力。見たくも無かった、彼女の姿。

 

その力は、少女を失わせる原因そのものであり、故にあまりに巨大。

指がぶちん、と吹き飛んで、肉の断面から白い骨が浮かぶ。

力の解放に合わせて都度指が弾け、肉が散る。

揃えられた10本の指が歪に歪みながらも、人形の顔は何も変わらず。

或いはその指の幾本が吹き飛んでいても、人形の瞳は何も映さず。

 

見ていたくなかった。見たくなかった。

『彼女』が“永遠”を振るう姿を認識したくなかった。

その感情は、己の独善。傲慢な願い。浩平が嫌悪する、力。

 

しかしそれほどの力であっても、彼女“達”にとっては

単なるデモンストレーションなのかもしれない。

見るだけの水夏はただ無邪気に微笑み、メデスは無言。

人形である“佳乃”の手により撃たれた『永遠に属する力』は、

純一の張った結界によって相殺される。

崩れても、“己である”ために崩れきらなかった純一の心が紡いだ壁によって。

或いは、彼自身の“拒否”の心か。

ただ一度のその光景に満足したのか、少女は言う。

 

 

 

 「――――殺しちゃえ♪」

 

 

 

あまりにも声色に似遣わない言葉。

だが、“彼女”を生み出した主の言葉。

故に“人形”は盲目的に従い、浩平の眼前に移動する。

本来ならば浩平が見切れぬ訳がなかった。

鈍重なるただの人形如きに敗北する訳がなかった。

けれど、その姿が、“佳乃”であるから。

 

 

 

 『………………』

 

 

 

抵抗という言葉が、浮かぶことすらなく。

 

 

 

 「……く、は……っ!?」

 

 

 

無言で貫かれた手刀……いや、既にその指は弾け吹き飛び、

肉がこそげて蠢き、紅色の血が滴り、白骨が見える以上、手刀ではなく腕刀。

バンダナを着けた腕ではなかったから、まだ救われた。

その黄色が赤に染まるのだけは見たくなかったから。

が、どちらにせよその一撃は見るも無惨な貫手。

ぞぶり、と浩平の腹を抉り、貫通する。

“言葉そのものを忘れていた”から何の抵抗も出来なかった。

“抵抗という言葉を思い出す”ことすら脳裏に浮かばなかった。

浩平は、腹を抉るその腕に涙を流し。

腹に伝わるその温かみに笑みを零し。

 

 

 

 「――――、け……な……だろ?」

 

 

 

何かを呟く。

涙を浮かべて。

笑みを浮かべて。

悲しみを湛えて。

嬉しさを明かして。

 

 

 

 「出来る訳……ない、だろ? 俺が? 佳乃を?」

 

 

 

それが、人形であったとしても。それが、本物ではなかったとしても。

ただ、嬉しかったのだ。また、逢えたことに。

腹を抉られながらも、彼は腕を伸ばす。離さないから、と抱き締める。

それが、戦いの場であったとしても。それが、似遣わないことだとしても。

ただ、泣きたくなったのだ。また、逢えたことに。

二つの感情を抱えた銃使いは、本物と酷似した【人形】である“彼女”に

『彼女』との思い出を投影させ、泣き。その華奢な体を包み込んで、微笑んだ。

 

 

 

 「そっか……こんな美人に、なるんだな?……お前。

  流石、永久欠番の、恋人、さん……だよな。はは、は……」

 

 

 

こふ、と軽い音を漏らして、血を吐く。その血は“佳乃”の顔を穢す。

 

 

 

 「ごめ、んな?……折角、“また”逢えたのに。お前……のこ、と。汚しち、まった」

 

 

 『………………』

 

 

 

浩平の言葉が届く訳もなく。届いて欲しいと誰かが願ったとしても。

何の意味もなく、意味を持つことなぞ出来る筈もなく。

 

 

 

 「なぁ、佳乃? 俺、強くなったよ? 強くなったんだぞ? 

  佳乃の自慢の恋人さんは、神器なんだぞ? ほら、笑ってくれよ?

  “浩平君、頑張ったね”って……褒めて、くれよ……っ」

 

 

 

他の誰でもない君が、その言葉をくれるのなら。僕はもっと頑張れるから。

もっともっともっと強くなって、もっともっともっと多くのヒトを護るから。

 

 

 

 『………………』

 

 

 

泣いて微笑む彼の言葉は、どうしようもない程に道化で。

七星学園という場で道化を演じてきたから、と誰かが揶揄するように、切なくて。

血を吐き出すその様は、あまりにも惨めで、惨くて。いっそ、無様で。

 

 

 

 『………………』

 

 

 

抉る腕の感触に吐き気を催したのが、きっかけだった。

意識が遠のき、この瞬間になって初めて気付いた。

この瞬間まで、仲間達が耐えてくれていることに。

巻き込みたくなかったから殺気を放ち、彼らの動きを停めさせた。

彼らは優しいから、耐えていること自体が苦痛である筈なのに。

邪魔されたくなかった彼にとっては、ただ感謝するしかなくて。

 

DAN!……そんな感謝を、銃弾が穿った。

貫く先は“彼女”の体。抱き締めていた浩平の肉体をも、貫通する。

 

 

 

 「ぐ……が……ぁ!?」

 

 

 「お涙頂戴のラブコメはもう飽きたよ。はいはい愉しかった愉しかった。

  “わーすごいねパチパチパチ。いい舞台をありがとう!”――――なんてね?」

 

 

 

侮蔑する微笑が、其処に在って。

 

 

 

 「君の舞台も終焉だ。主演はとっとと消えたらどうだい?

  主役が死んでクランクアップなんて、最高の幕切れだろっ!」

 

 

 

無粋な出演者が無粋に吼える。

無粋な銃弾が無粋に叫ぶ。

泣いた主演と、笑わぬヒロインが崩れ落ちて。

 

 

 

 「やっぱり、君にはこの言葉が似合うよ。

  “バイバイ――――愚鈍な守護者さん”……ってね?」

 

 

 

あはははは、と笑う声がかつての言葉を再び紡ぐ。

穿たれた人形が、浩平の腕の中でずぶずぶと肉片に変わる。

肉片は死体ですらなく。ただの醜悪な肉の塊で。見たくなかった欠片で。

言葉にならぬ嘆きが、苦しみが、悲しみが、浩平の口より零れて。

そんな己を分析するかのように見守る永遠の使徒達が、赦せなかった。

赦せなくても、心が折れてしまっていた。

生暖かい腕の中の肉片が、その重みが己の身体を震わせて。

叫べない自分が、悔しかった。ひれ伏した自分が、苦しかった。

例え誰もに嫌悪されたとしても、「殺してやる」と言いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、願いに従い……その言葉は紡がれる。

 

 

 

 「――――殺す。殺してやる。殺してやるよ、お前ら」

 

 

 『……?』

 

 

 

永遠に存在するモノ達が、首を傾げた。

今更のような言葉だったから、というのもある。

が、その言葉が眼前に居る朱雀が紡いだものではなかったから、首が傾いだ。

 

 

 

――――う……あ?

 

 

 

戸惑いの中、崩れている体の感触を得ながら、浩平までもがそう思った。

自分が発したい筈の言葉を、誰が言ってくれたのか、と。

 

 

 

 「蹴散らしてやる。終わらせてやる。晒してやる。跡形もなく消してやる。

  狂わせてやる。潰してやる。砕いてやる。滅ぼしてやる。

  生きて俺達の前に存在していることを……後悔させてやる」

 

 

 

――――ま……いと?

 

 

 

リングの下。結界の外。其処に居た少年が、言う。名は、桜井舞人。

会場の視線は、浩平の時のように……再び。その場所を向いた。

 

耐えていたのだ。浩平の意思を尊重したのだ。

彼らを同じフィールドには上げたくない、そう思ってまで殺気を放ってくれたから。

仲間だからこそ、無意味に衆目に晒すことがないように、と。

独断専行をやるのは自分達だけで充分だから、と。

その意思を尊重し、また感謝し。歯を食い縛って、血を噛み締めて……耐えたのだ。

また、舞人を除く二人は呆然としていた……というのもある。

目の前に存在する“人形”は、振り返れば我が身だったから。

其処に在ったのは、自らの鏡といも云える光景だったから。

何が違う? 其処に立つのが自分であったなら、

其処に在る人形もまた同じであることに。

だからこそ、動けなかった。弱いと誹りたいのなら誹ればいい。

そんなもの、狗にでも喰わせればいい。嘲りたければ嘲ればいい。

そんなもの、何の価値もない。胸を灼いたこの苦しみに比べれば。

だからこそ、動けなかった。その苦しみが薄い“彼”だけが、吼えられた。

過去という束縛を思い出しきらぬ彼だからこそ、最も早く動けた。

舞人とて、そんな二人を詰る気はないし、詰ったとすればただの馬鹿だ。

故なるからこそ、代わりに。

 

 

 

 「……? ふ、ん。何かと思えば、雑魚か。

  結界の外で安全で居られるんでしょ? そんな偉そうなこと言わないの。

  僕はただ朱雀を殺しに来たんだ。イチイチ喚くただの人間に用事はないんだよ。

  ああ、それともアレ? 弱い癖に吼える虎ってことかな? 無意味だねぇ」

 

 

 「――――待て、停滞時計。そやつは」

 

 

 

アルキメデスが、制止の声を掛ける。

が、司はその言葉に取り合わない。

 

 

 

 「後悔? ああいいね、出来るものならさせて御覧よ。

  生憎、君達人間の希望の星の神器様がご丁寧に作ってくれた

  結界のおかげでどうやったって無駄だろうけど」

 

 

 

舞人は、怒りを顕にし……小さく嗤う。

 

 

 

 「結界? この俺に、結界? 舐めてんじゃねぇよ」

 

 

 

吐き棄て、その存在を睨みつけ。

 

 

 

 「知った風な口利いてんじゃねぇぞ遠距離偏愛志望の腐れストーカー。

  俺を誰だと思ってる? 俺の能力が……純一の創った結界如きに――――」

 

 

 「何を、言って」

 

 

 

――――敗けるとでも思ってんのかよっ!

 

 

 

力が、集束する。

事象を改変し、万物を改変し、法則を改変する力。

世界で唯一、彼だけが所有することを赦された最強の力。

 

 

 

 「アルティ――――」

 

 

 

能力の名は、改変。舞人が翳した手が、輝く。

力場が蠢き、結界へと触れる。

その……直前。改変という最強の力が発動する、直前。

結界に触れるよりも僅かに早く、彼の腕を掴む手があった。

 

 

 

 「――――っ!?」

 

 

 

突如の乱入に、力が停まる。

腕の先、その姿に動きが停まる。

 

 

 

 「……何、しやがる……っ」

 

 

 

会場全ての視線が、その人物に注がれる。

中傷する言葉が、紡がれる。

 

 

 

 「何で停めるんだよ――――祐一っ!」

 

 

 

矛先が、彼に……“相沢 祐一”に、剥く。

最もその判断を下してはならぬ彼が、仲間を従える彼が、停めるから。

戸惑うような舞人の声が、突き刺さる。

 

 

 

 「止めろ」

 

 

 

淡々と吐き出された言葉が、宙に浮かぶ。

握られた腕を他所に、舞人が怒りの言霊を発する。

 

 

 

 「っ!……ざっけんな! お前、こんな時でも

  “俺達には守秘義務があるんだ”とかほざくんじゃねぇだろうな!? 

  この状況で! あいつらを放っておいてもいいって言いやがんのかよっ!?」

 

 

 

会場の視線が全て……そう、永遠の使徒さえも、彼らを見ていた。

意味がよく判らないが、どうやらリングの上で崩れた彼らが原因で

仲間割れをしているらしい。永遠に属する彼らにとっては、娯楽。

 

 

 

 「――――止めろ、舞人」

 

 

 

再び、祐一が紡ぐ。

弱者の言葉のように“彼ら”には聴こえた。

舞人と同じように耐えていた“彼”が、吼えた。

 

 

 

 「兄さんっ!――――本気で、言ってるんですかっ!?」

 

 

 

彼の名前は、倉田一弥。

歯軋りを堪え、血を噛み締め、爪が皮膚を貫いても耐えていた彼だからこそ。

一弥は舞人の行動に感謝していた。

己の鏡を見るかのような出来事に混乱し、情けないことに自分は動けなかったから。

舞人が怒りを言葉としてくれたおかげで、目が覚めた。

舞人のアルティネイションで結界を突き破り、雷を叩き込むつもりだったから。

その考えは祐一とて同じだと思っていたから。同じでなければならないから。

 

 

 

 「止めろ、舞人っ!」

 

 

 

また、言った。臆したのか。あの光景に。

永遠に膝をつくのか。彼が。他の誰でもない、僕の、兄が。

有り得ない。言ってはならない。言うべきではない。言うべきではなかった。

理解出来なかった。仲間が苦しむこんな時まで動くなと嘯くのかこの人は。

信じられなかった。許せなかった。見損なった。誰より信頼して“いた”から。

 

 

 

 「……――――黙れ」

 

 

 

この人は、駄目だ。

 

 

 

 「一弥、舞人を止め――」

 

 

 

もう、僕の名前なんて――――呼ぶな。

貴方は……お前は……兄なんかじゃ、ない。

 

 

 

 「黙れよお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

 

 

 

耐え続けていた雷の矛先が、その人に。

荒れ狂う場を求めていた雷が、雷の余波が、祐一を貫いた。

声にならぬ叫びが、彼の口から叫ばれた。勝手に崩れ落ちればいい。

逃げるのなら、逃げればいい。

 

 

 

 「見損なったよ……相沢祐一! お前はもう僕の兄なんかじゃないっ!

  臆病者は其処で寝てろ――――二度と立ち上がるなっ!」

 

 

 

救われた過去に感謝していた自分が馬鹿馬鹿しくなった。

こんな弱気な男を慕ってきた自分が馬鹿馬鹿しくなった。

もう、兄なんて――――――要らない。

 

 

 

 「舞人さんっ!」

 

 

 「解ってるっ!」

 

 

 

一弥が祐一に牙を剥いた。しかし、舞人も何も思わなかった。

停める祐一の思考が理解出来なかったのは舞人も同じ。

一弥が下す言葉は翻さずとも自分の感情そのままであるから。

舞人は一度霧散した改変の力を再び集束させ、言霊を紡ぐ。

結界を割り、二人を救い出すための力を。

 

 

 

 「突き破れぇぇっっ!」

 

 

 

咆哮を宿し、彼の拳が結界を貫く。

今度こそ邪魔は入らない……と、結界の感触を得る。

その瞬間に、拳を包み込むように“ふわり”と膜が張った。

触れる感覚は、間違いなく風だ。……まだ、刃向かうのか。

一弥の雷に貫かれながらも。まだ、停めるのか。

お前の怯えに俺達まで巻き込むのか? 臆したお前に、従えと?

 

 

 

 「――――先に、殺されたいのか?……リーダー」

 

 

 

リーダーという呼び名をあえて使用し、自分の意識を冷まさせる。

 

 

 

 「――――言いましたよね。……黙って寝てろ、と」

 

 

 

雷に貫かれながらも、祐一はまだ立っていた。崩れ落ちてなぞいなかった。

舞人と一弥に向けて手の平を突き出し、荒い息を吐きながら、睨みつけていた。

 

 

 

 『あぁん? 意味不明だぜ? おーいモシモシキコエますか〜!?

  勝手に仲間割れして愉しいですか〜〜〜ヨ? く、ケケケケケケ』

 

 

 「仲間割れしようとしまいと私はどうでもいいんですけど。

  邪魔するならする、しないならしないではっきりしてくれません?」

 

 

 「わっかんないなぁ……? 何がしたいの、君達はさぁ」

 

 

 

愉しそうな中に、幾らかの呆れを含めて。三体の永遠が告げる。

云わば実験者なだけの夢想夏は、至極どうでもよさそうに佇み。

祐一は、彼らを睨み――――告げる。

 

 

 

 「一弥、舞人……っく、間……違うな。俺を殺す余裕があるなら。アイツらを、

  先に……殺せ。ソレが終わ、た後なら……いくらでも殺され、てや……る!

  俺如きの……首なんて、いくらでも、くれて……やる!

  だから……無駄な……処で! 改変、なんか……使うなっ!」

 

 

 

風で己を包み、一時的に痛みを麻痺させて、祐一は恫喝する。

反動で僅かに思考が霞む。無駄な所で、意識を散らす訳にはいかない。

仲間を、助けなければ。皆を、護らなければ。

 

 

 

 「大蛇っ! 改変は朱雀のためだけに使え!

  アイツの傷を癒すのがお前の役目だ馬鹿野郎!」

 

 

 

雷を通した血管が、疼く。体中が、軋む。

 

 

 

 「白虎! 玄武を護れ! 永遠なんかに俺達の仲間を渡すなっ!」

 

 

 

ずきり、と心臓が鳴る。

雷を軽減しきれなかった分、己の体が哭いている。

 

 

――――喚くな、この程度で、騒ぐな!

 

 

己の体自身を叱咤する。叱咤し、羽根を握る。

数が限られている改変を使用させる訳にはいかない。

舞人が戦えなくなる確率を少しでも減らすのは、“俺”の役目だから。

一弥の攻撃力を、精神力を無意味に散らし減らす訳にはいかない。

“永遠”と戦うには、弟の力が必要だから。彼を導くのは、“俺”の役目だから。

 

 

 

 「結界は……俺が、斬る!」

 

 

 

――――俺の存在は……“青龍”と云う力は、このために在るのだから!

 

 

 

 「顕現せよ――――【北斗】っ!」

 

 

 

白き羽根が、形見の翼の欠片が、光を宿す。

永遠を穿つための永遠の秘宝。

蒼き銀色に輝く刃が、仮初の主に従い、顕現する。

揺らぐ意識を御し、左手で蒼の鞘を掴み、右手を柄に運ぶ。

腰を落として抜刀の構えを取り、言の葉を……紡ぐ。

護るための剣を。護るための斬撃を。

 

 

 

 「空閻式抜刀術――――祖の型――――空刃」

 

 

 

剣気による斬風。抜刀術と名付けられた討滅の業。

永遠を滅ぼすための剣撃ならば、玄武の結界とて破れぬ筈がない……と。

実際、精神的に弱っていた純一の結界は意外に脆く、

また“佳乃”の力を受けきった分耐久力も本来のソレよりも弱く。

故に、蒼銀によって放たれた空刃は水の結界を両断する。

蒼銀によって起こされた両断こそが――――覚醒を生む。

 

 

 

 「白虎」

 

 

 

雷を舞え、と。

 

 

 

 「朱雀」

 

 

 

炎を踊れ、と。

 

 

 

 「玄武」

 

 

 

水を謳え、と。

 

 

 

 「大蛇」

 

 

 

闇を紡げ、と。

 

 

 

 「――――守護、開始デトネイト・スタート

 

 

 

風は、命ずる。

全てを守れ、と。総てを護り……戦え、と。

 

 

 

 

 

 


*139話は二部仕立てですので、下部リンクより続きをどうぞ(通常のTOPページにリンクはありません)*


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