Eternal Snow

13/閑話・夢一夜

 

 

 

祐一は眠っていた。

なかなか密度の濃い一日を終え、疲れきった体をベッドに横たえ、

息をするのを忘れたかのように眠っていた。

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

眩しい思い出。

 

彼にとって一番充実していた頃の夢。

 

 

 

 

 

数年前の自分。

まだ『力の意味』も知らない自分。

『風』なんて操ることさえ、いや、『視る』ことさえ出来なかった頃。

 

 

 

初めて恋をした自分。

 

 

 

家族、親友、そして、大切な恋人。

未だにくすぶる情愛の想い。

決して失いたくない感情。

 

 

 

 『居候、納屋行き!』

 

 

 

誰よりも信頼出来る人がいた。

強さの意味を教えてくれた人。

 

 

 

 『ん〜と、今日のごはんどうしようか?』

 

 

 

笑顔の眩しい女の子がいた。

愛しい少女の姉、彼が愛した少女。

 

 

 

 『腹減った……祐一、なんか寄越せ』

 

 

 

口は悪いが信頼出来る友がいた。

共に技を磨き、共に強くなることを誓った親友。

 

 

 

 『祐一、海に……行きたいのじゃが……よ、余と一緒に、行ってくれ…ない…か? 

  い、いや! 勘違いするでないぞ! デデデ…でーとなどでは決してっ』

 

 

 

誰よりも大切な愛しい少女がいた。

一日足りとて忘れることはない、少女の顔。

 

 

 

 

 

――――――祐一は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりに美しくて、だからこそ哀しい一夜の夢を見て。

 

それは、当たり前の光景で。

 

それは、掛け替えない存在で。

 

それは、あまりにも魅力的で。

 

それは、懐かしい思い出で。

 

だからこそ――――――哀しくて。

 

 

 

 

泡沫の夢。

ウタカタノユメ。

永遠に狂わされた絶望の夢。

さぁ、夢を見よう

それは、楽しく、美しく、笑顔に満ちた――哀しい夢だから。

 

 

 

………………例え、贖えぬ程の絶望に彩られていたとしても。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

少し、彼には休憩を差し上げよう。

この夢は楽しくも悲しいお話、思い出すのは酷というもの。

いずれ語られるであろう過去のお話をお待ち頂きたい。

 

ここまで付き合ってくださった皆様方、ご理解頂けたかな?

 

そう、これは愛する者を失った少年達のお話。

物語を彩る少年達はそれぞれ違った形で

己にとっての最愛の女性を失っていた。

 

 

青き牙龍の申し子は恐怖に打ち震え。

 

白き獣王の後継者は自らの無力を味わって。

 

朱き鳳凰の宿主は何の役にも立たないままに。

 

灰燼の甲竜を秘めし者は嫉妬という名の絶望を。

 

紫紺の蛇王たる器は何度忘却を繰り返しただろう。

 

 

 

そして同時に、これは心に消えない傷を持つ者達の物語―――――

 

この物語の主演は六人――――

 

傷を忘れずに、友を追う者――――

 

傷を負おうとも、生き続けようとする者――――

 

傷を消せずとも、平穏と共に在り続ける者――――

 

傷を受け、それでも前に進む者――――

 

傷を思い出せず、だが感じている者――――

 

そして、傷を留め、大切なものを取り戻そうとする者も――――

 

彼らはまだそれぞれの場所にいて、まだ舞台は重ならない――――

 

 

 

 

一つ目の舞台はひとまず終幕。では、次の舞台へと移ろうか。

 

 

 


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