祐一は眠っていた。
なかなか密度の濃い一日を終え、疲れきった体をベッドに横たえ、
息をするのを忘れたかのように眠っていた。
夢を見ていた。
眩しい思い出。
彼にとって一番充実していた頃の夢。
数年前の自分。
まだ『力の意味』も知らない自分。
『風』なんて操ることさえ、いや、『視る』ことさえ出来なかった頃。
初めて恋をした自分。
家族、親友、そして、大切な恋人。
未だにくすぶる情愛の想い。
決して失いたくない感情。
『居候、納屋行き!』
誰よりも信頼出来る人がいた。
強さの意味を教えてくれた人。
『ん〜と、今日のごはんどうしようか?』
笑顔の眩しい女の子がいた。
愛しい少女の姉、彼が愛した少女。
『腹減った……祐一、なんか寄越せ』
口は悪いが信頼出来る友がいた。
共に技を磨き、共に強くなることを誓った親友。
『祐一、海に……行きたいのじゃが……よ、余と一緒に、行ってくれ…ない…か?
い、いや! 勘違いするでないぞ! デデデ…でーとなどでは決してっ』
誰よりも大切な愛しい少女がいた。
一日足りとて忘れることはない、少女の顔。
――――――祐一は泣いていた。
あまりに美しくて、だからこそ哀しい一夜の夢を見て。
それは、当たり前の光景で。
それは、掛け替えない存在で。
それは、あまりにも魅力的で。
それは、懐かしい思い出で。
だからこそ――――――哀しくて。
泡沫の夢。
ウタカタノユメ。
永遠に狂わされた絶望の夢。
さぁ、夢を見よう
それは、楽しく、美しく、笑顔に満ちた――哀しい夢だから。
………………例え、贖えぬ程の絶望に彩られていたとしても。
少し、彼には休憩を差し上げよう。
この夢は楽しくも悲しいお話、思い出すのは酷というもの。
いずれ語られるであろう過去のお話をお待ち頂きたい。
ここまで付き合ってくださった皆様方、ご理解頂けたかな?
そう、これは愛する者を失った少年達のお話。
物語を彩る少年達はそれぞれ違った形で
己にとっての最愛の女性を失っていた。
青き牙龍の申し子は恐怖に打ち震え。
白き獣王の後継者は自らの無力を味わって。
朱き鳳凰の宿主は何の役にも立たないままに。
灰燼の甲竜を秘めし者は嫉妬という名の絶望を。
紫紺の蛇王たる器は何度忘却を繰り返しただろう。
そして同時に、これは心に消えない傷を持つ者達の物語―――――
この物語の主演は六人――――
傷を忘れずに、友を追う者――――
傷を負おうとも、生き続けようとする者――――
傷を消せずとも、平穏と共に在り続ける者――――
傷を受け、それでも前に進む者――――
傷を思い出せず、だが感じている者――――
そして、傷を留め、大切なものを取り戻そうとする者も――――
彼らはまだそれぞれの場所にいて、まだ舞台は重ならない――――
一つ目の舞台はひとまず終幕。では、次の舞台へと移ろうか。