Eternal Snow

番外編/叶わぬ願い、見捨てた未来(Web拍手用)

 

 

 

黄昏の刻。逢魔が時。昼と夜の境界。魔が狂いし瞬間。

動く時間の中に、人は恐れを抱いてきた。

無情に過ぎ行く時の回廊は、人を束縛し離さない。

世界が存在する限り、『時』は切っても切れない概念。

しかし、ある世界にだけは……時間が干渉されない。

 

名を『永遠』。あまねく全てが停滞し、過去もなければ未来もない世界。

仮初の願いに身をやつし、快楽に蝕まれて狂い逝く人間。

名を『帰還者』。人でありながら人を維持できなくなった獣。

 

そしてもう一つ。『永遠』に属し『人間』でありながら『帰還者』足りうる者。

名を『永遠の使徒』。人を捨てながら人を棄てきらぬ故に人を超えた者。

 

 

 

 「降りるのですか?」

 

 

 

時の過ぎない世界で、少女が囁いた。

 

 

 

 「ああ」

 

 

 

時の過ぎない世界で、青年が応じた。

無意にして有意の問いは、心に波紋を与えるのか。

 

 

 

 「何故、ですか?」

 

 

 「答える必要があるのか?」

 

 

 

即座に返された疑問を、少女は迷いなく返す。

 

 

 

 「はい……私達は不用意に現世に降りる訳にはいきません」

 

 

 「用意がなきゃ降りられない? だったら茨迎やら頼子達は何なんだ?

  俺とお前だけが制限を受ける……その方がおかしいだろ」

 

 

 「…………答えて下さい。何故、現世に?」

 

 

 

青年に問う少女。

青年は、銀色とも灰色ともつかぬ髪の色と、黒いシャツ。

少女は、黒と灰色の中間のような淡い髪。

蒼いリボンがアクセントとなって、その色を際立たせている。

 

 

 

 「墓参り」

 

 

 「お墓、ですか?」

 

 

 「ああ。別に命日でも何でもないが……アイツに逢いたくなった」

 

 

 「永遠に属する私達にとって、時間なんて……ましてや望むモノも、容易い筈です」

 

 

 

あえて現世を望むな――少女は言外に告げた。

己はもう人ではない。人でありながら人ではない矛盾を内包し得る帰還者。

欲望を悲しみで昇華させ、停滞の世界を求めたのだから。

故に現世を望むは愚考。愚者にして愚劣。愚鈍にして愚行。

 

 

 

 「俺達は『完全者』じゃない。望むモノは、まだ手に入ってない」

 

 

 「ですが……」

 

 

 「絆を奪いに行く訳じゃない。俺が俺であることを確認したいだけだ。

  何もしないままじゃ……俺は俺を見失うから」

 

 

 

青年は、一枚の羽を握る。掛け替えない唯一つの思い出。

人である時に満たしてくれた幸せの一片。

 

 

 

 「止めても、いえ。『停めても』……無駄ですか?」

 

 

 「ああ。朝陽や空名には何言われるか知らないが。どうでもいい」

 

 

 「そうですか…………なら…………進呈」

 

 

 

少女は、望む全てが手に入る『永遠』の世界から一輪の花を取り出した。

 

 

――――望む全て? こんなものばかりが手に入ったって、何の意味も持たないのに?

 

――――何より欲しいあの子だけは、簡単には手に入らないなんて。皮肉。

 

――――『彼』があの子を忘れてくれれば……簡単なのに。

 

 

 

 「ひまわりの花?」

 

 

 

差し出された向日葵。

現世ならばきっと季節外れ。太陽があってこその夏の花。

しかしここは永遠。全てが停まった世界に存在し得ぬモノはない。

 

 

 

 「……ええ。飾ってあげて下さい。私には、この程度のことしか出来ませんが」

 

 

 「いや、サンキュ。きっと観鈴も喜ぶ」

 

 

 「褒められたで賞……進呈、もう一本」

 

 

 

くすりと笑い、少女はもう一輪の向日葵を差し出す。

身の丈程の大きさでありながら、何故か存在感は希薄。

停まった世界の花は、生きる事をしないから。それを望んだのは自分達だけど。

 

 

 

 「そうだ、お前も来るか?」

 

 

 「え?」

 

 

 「どうせ後で文句言われるなら、共犯ってことにしてしまおうってな。

  お前だって、妹さんや親父さん達の墓参りしたいだろ?」

 

 

 

それは、優しい問いかけ。

人を捨てながら、人を棄て切れず、それでいて人になりきれない歪な『やさしさ』。

永遠には似遣わない感情を胸に抱き、少女は頷いた。

 

 

 

 「道連れにするなんて……ワルです」

 

 

 「――――永遠を望んだ時から、俺達は人間にとっての……敵だよ」

 

 

 

後悔も、慟哭も、不快も、全て捨ててきた。

迷いはない。『生ある自ら』の全てを諦めても、唯一つの過去を望んだ。

変えられぬ未来を、閉じた現実を受け入れるくらいなら……死を選んだ。

感じる苦しみはただの錯覚。人だった頃の残照。無意味な感傷。

 

 

 

 


 

 

 

 

空気が触れる。風が舞う。雲が流れる。動き出す水の音。

時間が鳴動し、世界が謳う。緑が呼吸し、大地が笑う。

 

 

 

 「何時以来でしょうね、こちらに来るのは……」

 

 

 「時間の意味なんてない。選んだあの日から」

 

 

 

決別したあの日。目の前の希望に縋った日。

得られぬ現実よりも、得られる現実を選んだ。

かつての己が忌むべきモノとした、永遠を望んだ。

 

 

 

 「許せぬ永遠を望んで、永遠を憎みながら永遠を求めて。

  私達ほど歪んだ存在はいませんね、きっと」

 

 

 「構う体裁も、枷になる倫理も棄てたんだ。

  俺達は、俺達だけの望みを叶える――――そうだろう?」

 

 

 

隣に立つ青年の瞳は、渇望した飢餓者の様。

愛に飢えた獣。愛情に渇望した狼。守るべき主君を見失った騎士。

少女とて同じ。本来なら、妹と弟の幸せを見守っていたかった。

だけどその願いは叶わず、妹は消えた。血の繋がらぬ弟が残った。

その時から、『私』の感情がリセットされた。

願いを、望みを、求めを……叶えるためだけに生きる道へ。

いや、生きてなんていないのか……生死は表裏一体故に。

 

 

 

 「……そうですね」

 

 

 

返答は小さな呟き。絶望を知る故の諦めなのかもしれない。

青年はおもむろに少女の肩を抱いた。

 

 

 

 「?」

 

 

 「他の連中と俺達は……違う。俺の痛みを理解出来るのはお前だけだ。

  お前の痛みを理解出来るのも俺だけだ。

  だから――――俺にだけは、強がらなくていい」

 

 

 

その言葉に少女はくすり、と笑った。

羽を持たざる天使。永遠に染まった翼。

透き通った笑みは感情の顕れ。堕ちた女神の浮かべる美。

 

 

 

 「そんなことを言ったら、神尾さんに拗ねられてしまいますよ?」

 

 

 「……マジか?」

 

 

 

一歩間違えれば口説き文句。

彼の背景を知らぬ者が聞けば、それ以外には聞こえない。

愛情の向く先を知る少女は、ただただ可笑しかった。

 

 

 

 「ガッツ」

 

 

 「ぜ、前言撤回」

 

 

 「私と神尾さんで三角関係?……ぽっ」

 

 

 

くすくすと笑って少女は離れる。

悪戯が成功した子供のように無邪気なままで。

犯されぬことを知らぬ処女のようで。まるで幸せなようで。

 

吹いた風が髪を揺らし、リボンを揺らし、安らぎを運ぶ。

もしかしたら見られたかもしれなかった未来。

もしかしたら得られたかもしれなかった未来。

そんな一滴の希望に、祝福の口づけを。愛情とは違う、貴方への口唇を。

 

 

 

 


 

 

 

 

青年は、墓の前に膝をついた。

並ぶ二つの墓が、あの日の現実を訴えていた。

用意してきた二本の花を捧げ、祈りを込める。

潮の香りが届くこの町の思い出が、胸を衝く。

失われた日常が去来していく。

眠る少女。何も残らなかった少女。遺ったのは哀しみと、羽。

そして一振りの刀。少女の髪の色のような、燃え上がる金の刃。

 

願いを込めて十字を切る。

 

 

――――必ず、取り戻してみせる。

 

――――必ず、お前をもう一度抱きしめる。

 

――――必ず……。

 

 

願うことは他に無い。純粋に育てた唯一の願い。

あの日選んだ道を『過ち』だと言われても、望んだのは自分だ。

望む以外に道は無かった。反省もしない。後悔もしない、する暇もない。

心の奥で鈴が鳴る。熱に浮かされたように天を観る。

澄んだ青空の中に、輝きを放たぬ月が在った。

 

 

――――往人さん。

 

 

ひまわりのような笑顔を幻視した。鈴のような歌声を幻聴した。

 

 

 

――――にはは。

 

 

――――が、がお!? うう、何で叩くかなぁ……。

 

 

――――わたし、往人さんのこと、好きだよ。

 

 

 

判っているのに、涙が伝う。

消えたソレを手に入れるためだけに永遠を選んだのに、悲しさは消えない。

真実は消えない。失った本当は無くならない。事実だけは変えられない。

彼らが選んだ道は、やり直しではないから。

得られなかった現実を、見捨てられた未来を、永遠として叶えるに過ぎない。

だが、それでも構わない。再会出来るという事実だけが癒しになる。

禁断の果実forbidden fruitを頬張ることが、己への祝福。

 

彼の隣に佇む少女が静かに祈る。

想いを込めて静かに奏でる。

 

 

 

 『幸いなるかな。幸いなるかな。人は願いて赦しを請わん。

  幸いなるかな。幸いなるかな。人は嘆きて風雨に濡れる。

  幸いなるかな。幸いなるかな。人は笑いて祝福生まれん。

  幸いなるかな。幸いなるかな。幸いなるかな』

 

 

 

懺悔のように謳う。

穢れた魂を持ちながら、神に祈る。

存在の有無は問わぬままに、ただ縋る。

 

 

 

 『わたしは、そこにいる。わたしは、わたしを求めるものの傍にいる』

 

 

 

神よ。それが回答なら、あえて問おう。

永遠に染まったこの世界に、安らぎがあるというのなら訊ねよう。

 

 

 

 『貴方は、何処に、いるのですか?』

 

 

 

手を伸ばしても届かない。求めた時も答えない。

神は傲慢だ。神は非情だ。神は残酷だ。

それでも縋ろう。惨めでも頼ろう。

 

 

 

 『どうか……どうか……願いを叶えてください。

  想いを届けてください。夢を聴いてください。

  ただ一つの幻想を、赦してください』

 

 

 

神の傲慢が赦されるなら、人の身勝手を見逃して欲しい。

大罪を背負った彼の人に、過ちを選んだ私に。

 

 

 

 『――――幸いあれ』

 

 

 

血に塗れた十字架を掲げよう。思い出だけは守り抜こう。

そして、失った未来を取り戻そう。

 

歌が終わる。堕ちた天使の賛美歌が。

神を冒涜した福音Gospel 。世界を否定した永遠Eternal

人を棄てた者への葬送曲。消えた翼への鎮魂歌。

 

狂気を知ったからこそ、得難いモノを知ったのだ。

だからこそ。

 

 

AAAAAAAAAAAA!!!!

 

 

何よりも。

 

 

OUUUUUUUUUUU!!!!

 

 

神聖なるこの場所を。

 

 

GAAAAAAAAAAA!!!!

 

 

汚すことだけは。

 

 

URUAAAAAAAAA!!!!

 

 

許さない。

 

 

 

 


 

 

 

 

現世には似つかわしくない二人の濃密なる歪。

世界にとって相応しくない存在である所為で、餌となる。

同胞を道標として、現実を侵食する。

幾体もの帰還者が姿を現す。神聖なる墓所を冒涜する。

 

知能の欠けた彼らが、自分達を仲間と認識するのは致し方ない。

同類とは思われたくないが、それを教えても意味はない。

しかし、この場所に限って存在そのものが邪魔であることは間違い無い。

 

 

 

 「失せろ」

 

 

 

視線をそちらに向けることなく青年は呟く。

視界に収めたくもなければ認識さえもしたくもない。

悲しいかな、彼らは青年の最後の慈悲を理解できなかった。

 

 

 

 「……ちっ。無駄か」

 

 

 「どうしますか?」

 

 

 

少女は如何なる返答が来るかを理解した上で、問うた。

彼女は既に一枚の紙片を右手に構えていた。

 

 

 

 「殺す」

 

 

 「はい……判りました」

 

 

 

この場所だけは穢したくない。害悪でしかないのなら、消す。

少女とて同じ気持ち。もし自分が同じ立場なら、必ずそうする。

例え止められても一人でも殺し尽くす。それが痛い程判っている。

 

 

 

 

 

―――――だから、二人は。

 

 

―――――今、この瞬間だけ、『永遠』と敵対する。

 

 

 

 

 

 「顕現せよ――――『翼王』」

 

 

 

ひとひらの羽が、青年の手にある。

純白の羽が、輝く。

仮初の主が祝詞を唱え、真の姿を此処に顕す。

黄金に煌く刃紋に宿る朱色。魔を斬り裂く朱金の刃。

 

 

 

 「終幕を――――進呈」

 

 

 

ひとひらの紙片が、少女の手にある。

少女の意に従い、数多の紙片が出現し、編みこまれていく。

輝きを伴い、紙が形を為していく。

紙片が螺旋を描いて、一本の大鎌を形成する。

『彼』ならば理解しただろう。

その形状も、大きさも、ある一本の大鎌に酷似している、と。

 

 

 

 『U――――a?』

 

 

 

彼らは、壊れた感情でありながら戸惑いを隠せなかった。

目の前にいる二人から放たれる殺気に知識が追いつかない。

『永遠』に属する者としての存在感を放っているのに、敵として認識されている。

 

何故だ? どうして? ワカラナイ……言葉を喋れたのならそう言っただろう。

彼らの様子を見て、二人はそれぞれに言う。

 

 

 

 「ふん……何故だ同胞、とでも言いたげだな。下衆」

 

 

 「私達はアナタ方と違って、記憶も想いも保っています。

  ですから……触れてはいけないものが何なのかくらいは、弁えているつもりです」

 

 

 

下の下でしかない無能者。比較されるのさえ虫唾が走る。

醜悪な姿を晒していることに哀れみすら覚えよう。

 

 

――――青年は告げる。其は無慈悲な神の鉄槌。

 

 

 

 「俺の思い出を……何よりも観鈴を穢すことだけは許さない。

  存在すらも認めない。塵も残さず―――――死ね

 

 

 

金の閃光が弾ける。

剣閃に混じる朱色の鮮やかさは、血を超える彩を生む。

青年の纏う黒の服に映える朱金。

 

 

 

―――――――斬!

 

 

 

痛みすら感じることなく、刃が触れたことに気付くことなく灰へと滅す。

 

 

 

 「散れ――――空閻式抜刀術――――祖の型――――空刃」

 

 

 

鞘に納めた刃が、疾る。草を抉り、刃の軌跡を残す。

叫び声は聴こえぬまま、骸だけが増えていく。

増えた骸はやがて散り、塵と化して永久の眠りにつく。

 

 

――――少女は、謳う。其は憐憫を宿す言霊。

 

 

 

 「想いを傷つけられる痛みすら忘れてしまった憐れなモノ達よ。

  ……此処で朽ち果て、永久の眠りを。さぁ――――踊りましょう?

 

 

 

形見の大鎌によく似た純白の大鎌を振るう。

華奢な少女が振るう図は、滑稽過ぎる程滑稽で、まるで喜劇の様。

 

 

 

―――――――斬!

 

 

 

けれど、繰り出された斬撃は、死を謳う。

一切の例外なく、一切の躊躇いなく、一切の慈悲すらなく。

白き閃光が舞う。白き堕天使が美を振り撒く。

魂を刈り取る死神として、永遠の終わりを告げて逝く。

逃げ惑うことも許さない。在ることそのものを赦さない。

 

 

 

 「等しく――――死になさい」

 

 

 

夢よ散れ。醜き姿を灰と為せ。我らが前から消え失せろ。

二人の描いた殺意は、永遠の終焉を示した。

跡には何も残らず、太陽の光と向日葵だけが全てを見ていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

全てを終えて、青年と少女が『永遠』へと帰還する。

僅かばかりの自己確認を果たし、『動く』世界から『動かぬ』世界へと戻ってきた。

何もかもが存在する代わりに、時の無い世界へと。

 

 

 

 「やぁ、おかえり」

 

 

 

少年が言う。

まるで彼らの帰還を待ち構えていたかのように、其処に居た。

真実、少年は二人を待っていた……そう、『完全』を得た少年が。

 

 

 

 「……何か用か?」

 

 

 「あはは。『何か用』とはご挨拶だね? 僕の言いたいことは判ってるんだろう?

  ま、雑魚数匹程度始末したって別に咎めるつもりもないけど。

  ただ、君達は存在そのものが特異点みたいなものなんだから

  下手な用意もしないで降りるってのはどうかな?

  せめて、降りる場所とタイミングくらいは考えてよね? 二人とも」

 

 

 

くすくす、と笑う少年。

言葉通り、彼らを咎めるつもりはないのだろう。

その言葉にあえて返答することなく、二人はその場を去り。

 

 

 

 「――――ゲームは、ゆっくり攻略するものだからね?」

 

 

 

少年の囁きが耳に残った。

 

 

 

歪な世界は、歪に狂う。

終わりを持たぬ世界は、崩壊という言葉を知らず。

求めるがままにステップを踏む。求めるがままに与える。

人を棄てた褒章を。人を裏切った罰則を。

 

 

 

 「それでも……俺は、望んだんだ」

 

 

 

それだけが、最後に残る真実か。

 

 

 

 


 

 

 

 

空気が触れる。風が舞う。雲が流れる。

当たり前のセカイで、時は進む。

太陽と向日葵が見守る墓を、一人の影が差し込んだ。

逆行に照らされ顔は見えず、女性らしき輪郭だけが地面に残る。

 

 

 

 「―――久し振りやな、二人とも。元気しとったか?」

 

 

 

高い声が、静かに届く。

明るく振舞う声が、物悲しい。

 

 

 

 「許したってな? お母ちゃんも色々せなあかんねん。

  ほんまはな……ずっと一緒におったりたいんやけど、堪忍なぁ」

 

 

 

墓に触れ、女性が俯く。

 

 

 

 「なんや、誰か来とったんか? こないな向日葵、くれる人おったんか?

  観鈴ちんも神奈ちんも浮気者♪……ウチに似て隅に置けへんなぁ〜」

 

 

 

添えられた二本の花。永遠が生み出した異質なモノ。

伝えたい想いは、込められた想いだけは、正しいけれど。

女性は、その異質に気付いた。溢れる想いと、在り方の異常に。

 

 

 

 「――――」

 

 

 

疑問が頭を巡り、もう一つの異質を彼女は目にした。

草の茂みに隠れてはいたが……僅かに抉られた大地を。

ただ抉ったのではなく、刀によって削られたソレを。

 

彼女ならば判る、それが如何なる手段を以って行なわれたのかを。

 

 

 

 「――――観鈴、神奈。此処に、誰がおったんや? 誰が、やったんや?」

 

 

 

その問いに答えるモノは何も無い。

虚しく響く声だけが、辺りに木霊する。

跡には何も残らず、太陽の光と向日葵だけが全てを識っていた。

 

 

 


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