Eternal Snow

 番外編/最弱コンビの実力(Web拍手用)

 

 

当作品は、エタスノ第一部『祐一』編(13話まで)を読了後、お読み下さい。

 

 


 

 

『折原浩平は、学園で一番弱い』

 

 

 

――――それが七星学園では通説と化していた。

 

 

 

A1を最高位とするランク制の中で、二学年で唯一の最低位のC3を持つ男。

三年生にC3の生徒はいないし、精々が一年生にいるかいないか。

そんな中、多少の誇張表現があるとはいえ浩平が弱いと定義されるのは自明のこと。

能力もないし、武器も持たない。

武術を基本的な戦闘スタイルとしているものの、腕はついて来ない。

帰還者との実戦に巻き込まれたらまず間違いなく殺されるだろう、とさえ見られている。

おかげで妹のみさおは微妙に肩身が狭い。

心無い生徒は浩平の妹だから、と馬鹿にすることもたまにある。

まぁみさお自体がそれほど弱くないので、その大半が返り討ちに遭っているのだが。

 

 

閑話休題。

 

 

そんな不名誉な意味で有名な浩平の親友と名乗る転校生が現れた。

名前を相沢祐一。

あの倉田佐祐理、川澄舞の幼馴染ということらしい彼は一躍注目される。

が、その注目も悪い方向に有名となる幕開けでしかなかった。

彼の所有ランクはC2……つまり、かなり弱いということだ。

弱いという定義がなされて以来、浩平とつるんでいる祐一は同列扱いされるようになる。

 

通称、『七星学園最弱コンビ』。

これを流言させたのは誰か判らないが、ある意味で的を射ており、間違ってもいる。

間違えている理由は今更確認することでもないだろう。

その事実を学園内で唯一知っている(秋子は除く)一弥は憤慨した。

放っておいたら神器の力を振りかねない程に。

 

あと一歩祐一の制止が遅れていたら学園は瓦礫と化しただろう……冗談抜きで。

 

 


 

 

 

 「一弥。お前気にし過ぎ」

 

 

 「……でも、僕にだって我慢の限界ってのがあります」

 

 

 「つってもな。本人達があんまり気にしてないんだから無視してろって。なあ祐一?」

 

 

 「……ああ。一弥が心配してくれるのは嬉しいけど、余計なことはしなくていい。

  別に学園の連中になんて言われようが俺の実力が落ちるわけじゃないんだから」

 

 

 

一人憤慨する一弥を諌める祐一と浩平。

実際、本人達は大して気にもしていなかった。

学園のランクを低くしているのは余計な先入観を持たれずに、

下手な実力者と認識されないため。

自分達の力を振るうべき場所を間違うわけにはいかないのだ、彼らは。

 

 

 

 「よし、んじゃそっちは終わり。本題な」

 

 

 「わざわざ俺と一弥を呼んだ理由は確かに聞きたいな。……仕事か?」

 

 

 

部屋(軽音部室)の空気の重みが変わる。

発する三人の視線が交錯する。

並みの人間がこの空間に入れば、失神するかもしれない。

 

 

 

 「ああ。先週から話題に挙がってるやつだ」

 

 

 「噂の、特異点か」

 

 

 

特異点。

帰還者が現れやすいと言われる特殊な空間のことである。

但しその現物を発見出来るのは極稀で、見つけたとしても破壊するのは難しい。

一流と呼ばれる実力がなければ、だ。

 

 

 

 「この一週間で目撃情報が6件。被害者はまだいませんが……」

 

 

 「あくまでも運が良いってだけだ。場所の特定もまだだしな」

 

 

 「……俺達で動くか?」

 

 

 「ああ。今はまだ一般エージェントが仕事してるが、多分手におえない。

  犠牲者が出てからじゃ遅いからな……独断専行になるが、構わないだろう?」

 

 

 「独断専行の許可を求めるために俺達を呼んだんだろ……一弥!」

 

 

 「は、はいっ」

 

 

 

祐一の言葉に鋭い響きが加わる。

彼が本気で動くという証拠だった。 

 

 

 

 「俺と浩平で特異点を破壊する。お前はこの一週間の情報を元にナビゲートを担当しろ。

  決行は今夜。特異点発見後、即時破壊、殲滅……異論は?」

 

 

 「問題ありません。神器『白虎』了解しました」

 

 

 「同じく朱雀、任務了解。装備は?」

 

 

 

互いを神器の名前で呼ぶのは儀式のようなもの。

どこまで実力を振るう? その意味での問いかけ。

祐一は迷わず決断した。

 

 

 

 「神衣の着装を許可する。武器の使用も可だ。その代わり……絶対に潰すぞ」

 

 

 「ヒュゥ……リーダー直々に命令なんて久しぶりだな。面白くなってきたぜ」

 

 

 

彼の言葉に喜悦が混じり、口元は笑みを浮かべている。

 

 

 

 「不謹慎ですよ、朱雀。今回は最悪の事態が起きる前だから許されているだけです。

  調子に乗らないで下さい」

 

 

 「判ってるさ……誰かが被害に遭ってからじゃ遅いもんな」

 

 

 


 

 

その夜。

周囲には完全に夜の帳が下り、星々の煌きが夜空を彩る。

夜の闇に対比するように、白が映えた。

蒼と紅の閃光を伴って。

 

 

 

 「白虎。こちら青龍。準備は整ったか?」

 

 

 『はい。いつでもどうぞ』

 

 

 

耳にかけられたイヤホンマイクから響く白虎=一弥の声。

 

 

 

 「とりあえず気配は無いが……青龍?」

 

 

 「ちょっと待ってろ。白虎、これまでの情報を元に

  帰還者が集中したポイントを3つ以下に限定しろ。後は俺の索敵で見つける」

 

 

 『判りました、30秒待って下さい』

 

 

 

神器五人を統べる統率力……彼に備わったカリスマ性。

そのカリスマ性に陶酔した最たる人物が一弥である。

だからといって他の三人が信頼していないといえば嘘。

彼という存在がいるからこそ、相沢祐一という少年が統べているからこそ

自分達が思う存分動くことが出来るのだと皆は充分知っていた。

それを口に出すことはしないが……一弥以外は。

 

 

 

 『出ました、これからそちらに転送します』

 

 

 

浩平の持っていた小型のナビゲーターに赤い点滅が三箇所表示される。

 

 

 

 「受信完了、ご苦労さん。青龍、此処から一番近いのは10分位の場所だ。

  気配は感じないが……どうする?」

 

 

 「見逃してる可能性もある、行くぞ」

 

 

 「アイアイサー」

 

 

 

気だるげな返事はただのブラフ。

声音に秘められた確固たる意志を見抜けない程祐一は鈍感ではない。

 

 


 

 

 

 「特異点は……無い、か」

 

 

 

祐一が呟く。

特異点は違和感の塊である。

近づくだけでその気配は露骨なまでに判る。

感じ取られないなら此処は外れだ。

 

 

 

 「ああ。あの気配は一度味わったら忘れられない。ここには無いらしい……が」

 

 

 「雑魚はいるらしいな。跡形も残すなよ、とっとと片付けて次に行く」

 

 

 「了解」

 

 

 

Uruoooooooo………………。

 

 

怨嗟の声は、人を害する悪魔の声。

 

 

 

 「襲う暇なんて与えねぇよ……【SET――Magnum】!」

 

 

 

祐一と浩平が発する闘気に引き寄せられた帰還者。

浩平の無情なる弾丸がその存在を穿つ。

あまりにも呆気なく、永遠に属するマガイモノの超越者が力を失っていく。

 

 

ドンドンドンドンドンドン!!!!!!!

 

 

単純な弾丸音は確実な絶命音と化す。

 

 

 

 「失せろ……空閻式抜刀術――――祖の型――――【空刃】」

 

 

 

祐一の繰り出した一陣の閃光が、トドメを刺す。

断末魔の声も響かず、帰還者は灰と散っていく。

 

その一連の様子は、帰還者と彼らとの圧倒的な実力差を表していた。

パチパチパチ、と乾いた拍手を送る浩平。

祐一は苦笑で応じた。

 

 

 

 「んじゃ、次だな」

 

 

 「ああ」

 

 

 

軽い言葉でありながら、響かせる音は何よりも重い。

二人がタッグを組む限り、負けることなんてない。

そう自負させるほどに彼らは強かった。

 

七星学園【ランクC2】相沢祐一、【ランクC3】折原浩平。

七星学園最弱コンビと呼ばれる彼らは、七星学園最強コンビでもある。

その真実を知る者は……少ない。

 

 


 

 

 

ゴクリ、浩平の喉が鳴る。

二番目の場所に、特異点は見つかった。

近づけば近付くほどに、気分が悪くなっていく。

モニターとインカムでその様子を把握している一弥にも伝わってくる。

 

 

 

 『……発見したんですね』

 

 

 「間違いないぜ。ビリビリきやがる」

 

 

 「まだ帰還者の気配は無い。活動されると厄介だ」

 

 

 

空間に介在する明らかな混沌。

闇夜に映る暗闇。

冷酷なる殺気が、二人の体から湧き上がる。

唯一人の被害者も出さないために。

 

 

 

 「無尽に惑え……ストリームハウザーァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 「塵と化せ……フレイムドラストォォォォッッッッ!!!!」

 

 

 

蒼き風と紅の炎が舞い、永遠という異質物は浄化されていく。

極限を超えた元素の力が、永遠に属す混沌を喰い殺したのだ。

 

それだけの大きな力を使いこなすことを許された者……それが神器という存在でもある。

 

 

 

 『任務完了、ですね』

 

 

 

ほっとした声色で一弥が言う。

通信機越しに聴こえてくるのに、感情が直に伝わるような錯覚。

その空気を茶化すように祐一が言った。

 

 

 

 「独断だから、ボーナスは出ないぞ?」

 

 

 「あ。やば……完全に忘れてた」

 

 

 『い、いいじゃないですか。人命に勝るモノなんてありません』

 

 

 

一弥の言うことは実に正しい。

 

 

 

 「んなことは判ってる……だが……なんか損した気分だ」

 

 

 「気のせいだ。今日の仕事はおしまい。一弥、お疲れさん」

 

 

 『はい。兄さんもご苦労様でした』

 

 

 

折原浩平&相沢祐一、校内最弱コンビの真の実力は、未だ公にならぬまま――――。

 

 

 


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